記憶を求めて彷徨う男を描くサイバーパンク

 『複製素体』と呼ばれるクローンに『精神置換技術』で記憶を移し替えることで疑似的な不死が実現した近未来、龍灰窟に暮らすヴァラガンは自分の記憶を取り戻すことを条件に黒社会のボスから汚れ仕事を引き受ける。

 電脳化される精神、凄腕のハッカー、冷酷な女殺し屋、身体改造されたチンピラ、中華風のスラム、安い人命……サイバーパンクに求められるものをしっかりと煮詰めて組み上げられた本作品。不死は実現しているものの、単に精神を移植しただけでは想像力が失われてしまうため、他人の記憶を移植して想像力を復活させるという設定も面白い。

 ガジェットや設定ばかりではなく、記憶のない主人公が事件に巻き込まれていく内に、自身に秘められた重大な秘密が明らかになっていくというストーリー構成もエンタメ度が非常に高い。

 硬質な文体や甘さのない会話など、作品全体に漂うハードボイルドな空気は世界観と合致しており、自身の記憶にこだわり続けるヴァラガンの姿勢がラストの意外な展開に繋がっていくのもお見事。サイバーパンクファンや、ハードボイルドな主人公が好きな読者にオススメ。


(「不死身な人々」4選/文=柿崎憲)

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