第24話 真夜中のメッセージ

 あれ? みんなどこ行ったんだ?


『おーい! リン? まさやーん、こうちゃーん、リーくーん?』


『お兄ちゃん……』


『リン、どこ行ってたんだよ? それにみんなは?』


『間に合わなかったの……』


『間に合わなかったって、それってどういう……ま、まさか、怪盗かいとうキューピーか!?』


『うん……。お父さんのシステムが破壊はかいされて、それで戦争が始まったの……。怪盗キューピーは本物のサイバーテロを仕掛しかけてきて、宇宙からミサイルを飛ばして世界中をこわしてるんだよ』


『そ、そんな! そんなバカな話ってあるかよ! リーくんは? こうちゃんは? まさやんは? お父さんにお母さんは!?』


『みんな、こうやって、燃えちゃった……』


 目の前にいるリンの身体がほのおに包まれてみるみるうちに焼けていく……!


『うそだろ?! リン! 今すぐ助けてやるから! リン! くそっ! 足が動かないっ! なんでだよ!なんでなんだよぉ!』


 あああ、その間にもリンの身体がほのおに包まれて焼け落ちていく……っ! 僕は精一杯せいいっぱいリンに腕を伸ばしてさけんだ!


『リーーーンッ!!!』





「うっさいなガッくん。どんだけリンちゃん好きなんだよ。マジうけるって」


「はっ?! あれ!? え……マジかぁ〜ガチ夢で良かったぁ〜!」


 僕は今起きたことを理解した。今見ていたものは全部夢で、僕は自分の部屋で寝ていただったんだ!


「マジで夢で良かったぁ〜」


 僕は布団ふとんから起き上がり、ひたいに流れる汗を手で拭き取った。クーラーが効いてる部屋なのに、背中もぐっしょり汗をかいてる。まわりを見ると、まさやんもこうちゃんもタオルケットにくるまって寝ていて、リーくんだけが、そばにコーラのペットボトルを置いて、寝っ転がってポテトチップスを食べながらスマホを見ている。


 部屋のかべにかけてある時計は二時を指してるから、もうだいぶ寝ていたんだと思った。ほぼ徹夜明てつやあけで一日中バスに乗ったり謎解なぞときしてたりして、僕の頭は家に帰ったころには完全に電源が落ちていた。リーくんのお母さんが小柴山に迎えにきてくれたのが九時過ぎで、家に帰ったのが十時過ぎだったのは覚えてるけど、そっからの記憶きおくがあんまりないや。


「いきなり腕を天井てんじょうに伸ばしてリーン! って叫ぶとか、ガチでやばいな!」


「すごく嫌な夢を見たんだってば!」


 僕はポテトチップスを口に運びながら僕をからかうリーくんをにらみつけた。

 もう! 僕の部屋でポテトチップスこぼしたらガチで怒るから!


「それに、こんな時間に、なんの動画見てんだよ!」


「え? これ? 犬山健二いぬやまけんじの本当にあったこわい話、空襲くうしゅうで焼かれ死んだ少女のれいが出てくるってやつ。ガチこわいけど、ガッくんも一緒にどう?」


「絶対見たくないよ! そんなもの!」


 絶対リーくんのせいで嫌な夢を見たんだと思った。だってリーくんの寝てる位置は僕のすぐ隣だし、ちょうどスマホのある場所は僕の頭のそばだからっ!


「ちょっと、トイレ行ってくる」


「おう! いってら。あ、そうだガッくん、気をつけてねぇ。夜中の二時から四時って、出るらしいぜ。お・ば・け〜」


「ガチやめてよね!」


 僕はふざけすぎているリーくんにきつめに言葉を投げ、部屋を出てドアを静かにしめた。一階のトイレまでは廊下ろうかも階段も真っ暗だ。


——ギィ……ギィ……ギィ……ギィ……


 こ、怖くなんかないってば。ここは自分の家なんだし。べっつに深夜二時だって自分の家なんだし……。


——ギィ……ギィ……ギィ……ギィ……


 くっ! でもやけに廊下のきしむ音が大きく聞こえる! なんで今日にかぎってこんなきしむんだってばよ!


 大丈夫。僕は怖くなんかない。だってここは僕の家なんだからと廊下を進み、階段の手前にあるリンの部屋の前で一旦いったん足を止めた。


 夢だってわかってるけど、なんとなく。


 僕はリンの部屋のドアの取手に手を掛けてそっとドアを押した。部屋の中は豆電球だけがついていて、薄暗うすぐらく、リンはちゃんと自分の部屋のベッドで寝ている。


 寝てるに決まってるよな。変な夢見たから、ついのぞいちゃったじゃん。そう思って、リンの部屋から顔を引っ込め、ドアを閉めようとした僕の横に気配を感じる!?


「ばぁ〜!」


「ひぃ〜! って! リーくん! ガチでやめろよなぁ!」


 僕は小声でリーくんをおこった!

 スマホのライトで自分の顔を下から照らして、僕をおどろかそうと待ちかまえているだなんて最低にもほどがある!


「てへへ。だって、面白いかなって思って」


「面白くなんかないよ!」と、いつまでも自分の顔をライトで照らすリーくんの手からスマホをうばい取ろうとした時、閉めかけたドアの向こうで「バカなの?」という声が聞こえ、僕たち二人は一瞬いっしゅん身体が固まった。リンの部屋をのぞき込むと、リンが起こした身体をまたベッドに戻すところだった。


「なんだ、リンリンも寝言じゃん!」


「もう、いいって。はやくドア閉めて僕の部屋に行ってろよ!」


 僕はリーくんの身体をグイッと僕の部屋の方に押して、リンの部屋のドアを今度こそちゃんと閉めようとしたけど、その時、またあの音が聞こえた気がした。


——ガタガタッガタガタッガタガタッガタガタッ


「「えっ?!」」


 気のせいなんかじゃない。リンの机の中からなぞ小包こづつみが届いたときと同じような音が聞こえる。


「「ガチで?」」


 僕とリーくんはそっとリンの部屋の中に入り、ガタガタ音がする引き出しを開けた。


「「なんだこれ?」」


 引き出しの中にはタイムリミットが映し出されるポケベルが入っていて、その画面がやけに黄色く光り、タイムリミットじゃない数字がずらっと映し出されている。


「ちょ、これみんな起こしたほうがいいんじゃね?」


「でも、みんなつかれて寝てるし……。あ……」


「「止まった?」」


 ポケベルはガタガタれるのをやめて、また元どおりのタイムリミットを表示している。画面に表示されているタイムリミットは、すでに37時間を切っていた。


「とりあえず、このことは明日みんなに話すとして、もう今日は寝ようよ」


 僕はリーくんと一緒にトイレに行き(別に怖いから一人で行かなかったわけではない。たまたま! リーくんもトイレだったんだ)自分の部屋に戻って寝ることにした。


「ガッくん、犬山健二の本当にあった怖い話、今度は廃病院はいびょういん幽霊ゆうれいだって!」


「うっさい! リーくんもはやく寝ろよな!」


 僕はできるだけリーくんから離れて、布団にゴロンと転がった。リーくんのそばにいたら、また変な夢を見ちゃいそうだ。


 それにしても、あのいっぱい並んでいる数字はなんだったんだろう? そんなことを考えているうちに、僕はまた布団の中に身体も意識もずぶずぶしずんで、深い眠りに落ちていった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る