そら、メガ盛りとん汁おしんこセットよ。あと、プリンも食った。
本社の出入口に入るやいなや、一応中に入って来ないように、警備員のおじさんにドアをロックさせて、俺とはじめましておじさんはエレベーターに乗り込んだ。
本社のフロアを7階8階と上がった先のとある会議室に入る。
そこでは、スーツ姿のおじさん達が額に脂汗を浮かべながら険しい表情をしながらテーブルに着いて俺を待っていたのだ。
ビクトリーズが100連敗してもそうはならんだろうというくらいの重たい空気だった。
俺は目の前に置かれた椅子に座る前に……。
「まあまあ皆さん。そんなに険しい顔しないで……」
俺はそう言いながら会議室の空調パネルを操作して27度設定の冷房を入れた。
そして、テーブルの隅に並べられたペットボトルのお茶をそれぞれ、お偉いおじさん達に配る。
俺はそのお茶のキャップを開けて、ゴキュゴキュと喉を鳴らしながら席に座る。
そして、重たい話し合いの口火を切ったのも俺だった。
「とりあえず、安心して下さい。俺、ドーピングなんてしてません。恐らく何かの間違いです」
俺がそう話した瞬間、目の前に座るおじさん達の表情がさらに強張るのを感じた。
「…………」
「…………」
「…………」
そして変わらぬ沈黙のひつじ。
そんな感じになって俺は気付いた。険しい顔をしている偉いおじさんこそ、この状況にどうしたらいいのか俺以上に分からないのだと。
新球団故のやーつ。
せっかくのお偉いさんなんだから、もっとしっかりして欲しいと思いつつも、まるで初めて読んだ推理小説で誰が犯人なのかと、物語の折り返し地点で考えるようなそんな感じ。
テーブルの上に置かれたスポーツ新聞の各紙。
新井、ドーピングしていた!
ビクトリーズ新井、ドーピング陽性!
球界に激震! 偽りの4割打者だった!
新井、球界追放か! などの文字が踊っているのだ。
これ見よがしに、俺がバンザイしながら喜んでいたり、チームメイトとニコニコで話しているような写真を使いやがって。
腸が煮えくり返るような。そんな感情で思わずスポーツ新聞をぐしゃぐしゃとやりたくなるのを押さえながら、またお茶を口に含みながら椅子に腰を下ろす。
今、どうすべきなのかと、どういう行動を取るのが最善なのかと考えた俺は、スマホでピコピコと調べものをした。
とりあえず、弁明会見というかやっておりません発言はどっかでやりつつ、その後の対応というか、展開が自分に有利に働くように動かなければならない。
ドーピングなんて、神に誓ってやっていないのだから。
ようやく思考が戻ってきたおじさん達と話し合いをした結果、俺はお隣茨城県つくば市にある研究所に向かうことになった。
偉いおじさん2人に同行してもらい、はじめましておじさんに、また車をかっ飛ばしてもらって、その研究所に到着した俺は、すぐに迎えられた研究チーム管理の元、再度ドーピング検査を行うことになった。
調べものをしたというもの、同じ栃木でプロスポーツチームとして頑張っている栃木FCのクラブハウスに連絡して、そこのチームドクターから紹介されたのがこのつくば市の研究所だったのだ。
サッカーにもやはり、定期的なドーピング検査は実施されていますから。そこの研究所なら信頼出来ますからとお墨付きだった。
口と鼻の粘膜、血液、尿、毛髪。昨日試合後に受けたものよりも精度が高いやつ。午前中の早い時間なのに、突然押し掛けた上に、無理を言ってやってもらって、それが終わったらそのまま宇都宮にとんぼ返り。
さすがに朝からみんな何も口にしてないからと、牛丼屋に寄って、チーズ牛丼をかきこんで球団本社に戻って、セッティングされていた記者会見場に俺は入場していった。
ネクタイをきゅっと締め直して、部屋の中で待機していた報道陣に深々と頭を下げ、長テーブルの真ん中でまた1つ頭を下げてから椅子に腰を下ろし、会見が始まった。
時刻は午後2時。皮肉にも、本来なら出場しているはずの試合開始と同時刻だった。
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