は?

他のプロスポーツと同じように、プロ野球界でもドーピング検査は度々行われる。



銀行やコンビニのATMの現金を回収したりする輸送車のあれと同じ理論のように、何月何日の何時に誰が検査をするのかは知らされない。



当たり前だが、対策される恐れがあるからだ。



今日俺、検査あるから、ドーピングせんとこ。ってなっちゃうから。



球団や選手からすれば、試合中に突然連絡が来て、突然どこか部屋を用意してくれと言われてドーピング検査のチームが試合が終わるのを待つ。



そして試合が終わって初めて、今日は誰々ちゃんと誰々君と呼び出しがかかるのだ。



ドーピング検査自体、俺は初めて。何年も1軍にいてもやらない選手もいるし、2軍から上がったその日に、試合に出ていない選手が検査の対象になることもある。





プロ15年目の奥田さんでも、今日ので3回目だとのこと。




しかし、最近はそういった方面の技術も進歩していますから、ものの10分かそこらですよ。



舌のシール剥がして、トイレ行って尿を絞り出して、最後にもう1個検査して終わり。




AとB。2つの容器に取らないといけないから、結構大変ですよ。



鑑定自体も、2時間3時間あれば詳しい検査結果が出るらしく、それはまた明日となった。




せっかくのお風呂タイムも中断となり、囲み取材を終えた俺はトレーニングルームに向かった。






ビクトリーズに入団してしばらくの頃は、お前の筋力は高校生以下だと言われて、ひたすら体重を増やすトレーニングばっかりだった。




かと言って、それで足りているはずもなく、ホームでの試合後はほぼ欠かさずに、トレーナーから指示されたウエートトレーニングを真面目にこなしている。



元から飽きっぽい性格だし、こっちは早く帰ってみのりんにちゅっちゅっしなきゃいけないわけですから、そんなトレーニングなんかいつまで続くか分からんと思っていたのだが………。




「ふんっ、ふんっ、ふんっ!」



継続するトレーニングというものは、何にも勝る最強のもの。トレーニングを続ける期間が、1ヶ月、3ヶ月、半年、1年と継続させていくと、体つきがみるみるうちに変わっていく。




それがわりと面白くて、ここまで飽きずに続けてこられている。



チーム内のマッスルである、赤ちゃんや桃ちゃんはもちろんのこと、野手の多くは試合後にトレーニングルームに入って、色んな話をしながら順番にマシンを使って体を鍛えていく。




中にはピッチャーの選手中にも精力的に筋肉を鍛えるタイプもいるが、何にせよこういう時間も野球選手として大切なもの。



およそ20分ほどのトレーニングではあるが、筋肉に刺激を与えて、プロテインを飲み干した俺はイカルガに乗って家路についた。



そしてお待ちかねのみのりん飯を頂いて、ちょっと北野っちとゲームをしてから寝て起きた朝。





まさかこんなことになるなんて夢にも思わなかった。







北関東ビクトリーズ新井、ドーピング陽性。



昨日夜、プロ野球のドーピング検査を担当しているユーニラス製薬研究所でのドーピング検査において、北関東ビクトリーズの新井時人(28)選手から陽性反応が出たことが分かりました。




これを受けて東日本プロ野球連盟は、北関東ビクトリーズ球団並びに、新井選手本人への聴取、制裁についてなどの通達を行うものと思われます。






新井はここまで両リーグトップの打率4割1分3厘を記録し、日本プロ野球史上初のシーズン打率4割に期待がかかっていました。



尚、取材に対し北関東ビクトリーズは、本人との面談、検査結果の資料などでの事実確認中とのことです。






これはとあるスポーツ新聞の1面である。




北関東ビクトリーズとはあまりお付き合いのないいくつかの新聞社が、こんなスクープを揃って報じていたのだ。





それを見た俺は、…………は? 何言ってんの? どこから出た話? みたいな感じで、もちろん全く身に覚えがなかった。ドーピングなんて。



朝7時よ。朝7時に、球団事務所から鬼電。5回目か6回目くらいが鳴っている時に、時くん!時くん!と、合鍵を使って部屋に入ってきたみのりんに叩き起こされてやっと気付いた感じでしたから。




Tシャツに、ボクパン姿で。髪の毛ボサボサにして、もちろん半起ちの状態で、みのりんのパジャマ姿を見ながら、球団事務所からの電話に出たのだ。








所属選手がドーピング検査で陽性! なんてことになったから、球団も大慌てで、電話先で、迎えの車向かわしてるから、それに乗ってとりあえず本社に来てくれ!という話になった。




本社に行けとは言われたけど、電話切って3分くらいしたら、ピンポーンと部屋の呼び鈴が鳴って、みのりんが応対しに行ってくれて。



急いでズボンとワイシャツだけ着けて、ネクタイと上着は腕に抱えて部屋を飛び出して車に乗り込んだのだ。





どうもはじめましてなおじさんの運転で、ビクトリーズスタジアムの球団事務所ではなく、球団本社の方に連れていかれまして。



車から降りると、既に複数の報道陣が本社の出入口を塞ぐようにカメラを構えていまして。



すごい。



芸能人のスキャンダルだとか、飲酒事故やらかしましたとかで芸能事務所に張り込んで本人が現れるのを待ってるみたいなやつ。



ワイドショーとかでたまに見るやつが、俺のところまでやってきているのだ。



本社の裏側に車を止めたのだが、そっちにも報道陣がいて、起きてからまだ洗ってないイケメンフェイスにカメラのフラッシュが焚かれた。



「道を空けてください! 後でちゃんとお話しますから!」




俺の手を引くようにして、はじめましておじさんは報道陣をどかし、怒鳴るようにしながらどんどん進んでいく。

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