めんどくさい検査ですわよ。

バックスクリーンへの逆転ホームランという約束は、ちょっとばかし俺には難しかったけど、これで降板となりながらも勝ち投手の権利を得た千林君は大喜び。



ぶかぶかに設計されたアイシングシャツの裾からおへそがチラチラと見えるくらいにジャンプしながら、隣にいた杉井君のユニフォームをつまんで、新井さんが打ったよ!と、はしゃいでいる。




俺はピンクのバッティンググローブを外しながら千林君に向かってガッツポーズ。




さらにその後、4番赤ちゃんの放った打球が相手のミスを誘いさらに点を追加。




なんやかんやで3点リードとなり、7回は奥田さん、8回ロンパオ、9回キッシーと無失点リレーで試合を締めくくった。




そして…………。









「放送席、放送席! ビクトリーズファンの皆様、お待たせ致しました!本日のヒーローは2人! 千林投手と新井選手でーす!」






俺が言った方の約束は叶った。






2人仲良く、お揃いの真っピンクTシャツを着て、肩を組ながらヒーローインタビューデッキに上がる。






「千林投手、見事なピッチングでした! 今シーズン3勝目となりましたね!」




「立ち上がりはよかったんですけど、ちょっと6回になって打たれてしまったんで、そこは反省ですね……」




「新井選手から見て、千林投手のピッチングはいかがでしたか?」





「本人も言っていた通り、序盤は本当によかったですよね。相手は強力打線でしたけど、鶴石さんのリクエスト通りに、しっかりインコースを突けていましたし、変化球も低めのいいコースで空振りも取れていましたので、彼の状態の良さはというものは伝わりましたね。


今日のピッチングに満足せずに、次は6回、7回を投げて1失点くらいに抑えるようなピッチングを目指して欲しいですね!」



解説者口調でそんな風に感想を述べると、スタンドから笑い声が上がる。



「千林投手。新井さんから今のような寸評を頂きましたが、逆に千林投手から新井さんに伝えたいことはありますか?」




「そうですね。打つ方は言うことないんですけど、もうちょっと守備の方を頑張って頂きたいですね。打球の追いかけ方とか、あまり上手じゃない時とか、やたらダイビングしたがる人なんで。身の丈に合った守備を心掛けて、足を引っ張ってもらわないようにしてもらいたいです」





「「ギャハハハハ!!」」




「いいぞー、千林ー!」




「新井ー、言われちまったなー!」





千林君め。俺よりウケやがって。





今日はそんな感じのヒーローインタビューでして、千林君と2人でファンサービスに回った。



オールスター戦に向かう際の交通事故で休んでいた分の打席を取り戻し、今日でまた規定打席復活ですよ。






ヒーローインタビュー、ファンサービスを終えてベンチ裏に戻った俺と千林君は、そのままの足で、シャワールームに向かった。



他の選手達は、さっぱりした様子で風呂上がりのドリンクを決めたり、ドライヤーで髪の毛を乾かしたりしている中、2人でマッパになって人が居なくなり、広くなったシャワールームを思う存分使う。




体を洗って、ルームの真ん中にある、浴槽にザブーン。いつもなら5人6人くらい入ったところで足を伸ばせなくなるのだが、今は2人だけ。



今日の試合の誉め合いや反省をしながらゆっくり湯船に浸かっていると……。



パンイチの柴ちゃんがシャワールームに戻ってきた。




「新井さん、新井さん! 今日、新井さんと奥田さんがドーピング検査みたいですよ。誰か、新井さんを呼んできてくれって」




「マジかー、りょーかーい、サンキュー!……それじゃあ、センちゃん。先に上がるわ! お疲れ! また明日な」




「はいっ! お疲れでした! 来週また俺が投げるときは、ホームランお願いしますよ!」




「ははっ、ちゃんといい準備してこいよ」




ザブーンとお風呂を上がった俺は、急いで体を拭いて頭を乾かして、トレーニングウェアに着替えて、トレーナーに軽くマッサージを受けていた奥田さんと合流した。






立派な筋肉の付き方をしている奥田さんがシャツを羽織り、選手管理顧問のおじさんに連れていかれた部屋に入る。



そこには、白衣を着た女性2名とスーツを着た男性が1名。




「それでは試合後の大切な時間かとお察ししますが、奥田選手と新井選手に検査を実施していきますので、ご協力お願いします」




1歩前に出たスーツ姿の男性がそう言って頭を下げ、ウイルス兵器がしまってあるような、ナンバーロック付きのアタッシュケースが開かれる。




俺と奥田さんは、それぞれ白衣の女性の前にに置かれた椅子に腰掛け、口を開かされる。



「少し我慢してお口を開けていて下さいね。舌に1分間このシールを貼りますので」




そう言って白衣の女性は、培養ケースに入れられた生物兵器の幼体を開けさせた口から体の中に侵入させる。




「うごろぶろごろっ………ぼげっじゅばあっ!」



横で同じく幼体を入れられた奥田さんは激しい拒絶反応が起こり、体を内側から破裂させ、そのまま倒れて動かなくなった。



一方俺は、そのウイルス兵器に適合したらしく、体はムキムキになり、顔はより一層イケメンになった。




そのおかげで、パワーと走力が1ずつ上がった。



という妄想をして時間を潰すくらい退屈な1分間だったのだ。




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