ほら、想像は自由だから。

「これはいい当たりを……まあされたと言いますか、飛んだコースがよかったですかね。先頭の豊田にツーベースヒットを許してしまいました」



「まあ、そうですねえ。こういうのもなんですけど、今のは止めて欲しかったなと。アウトに出来ないまでも、なんとか押さえて内野安打までにしてくれれば全然違ったんですよねえ」



「そうですね。今、そのサードを守る阿久津ですが、ちょっとバウンドが合わなかったのか……」




「バウンドを合わせにいったのが裏目に出てしまいましたよね。もちろん、ベース際。アンツーカーもありますから、簡単な打球ではありませんでしたけど、ちょっと反応が悪かったように見えましたね」





「バッターボックスには、4番のフェルナンドです。今シーズンはここまで35ホーマー。東日本リーグのホームラン争いのトップ。


しかし最近はちょっと調子を落としています。ここ3試合は、10打数1安打、5三振。今日も2打席、三振とキャッチャーフライ。千林には合っていません」




「1打席目も2打席目も、ストレートで押し込んで変化球というところですから、コースだけ甘くならないようにすれば打ち取れる確率は十分ありますよ」





「千林、セットポジションから第1球投げました。アウトコース外れました、初球はストレートでした。1ボールです」








「これも外れました、フォアボールです! 結局4番のフェルナンドを歩かせてしまいました、千林! ノーアウト1、2塁としまして、チャンスを広げます、ブルーライトレオンズです!」




せっかくここまでの2打席を上手く抑えていた4番を簡単に歩かせてしまった。ストレートで追い込んで低めにスライダーを投げたら楽に打ち取れそうな雰囲気だったのに。


ラッキーとばかりに、フォアボールをもらった助っ人マンが颯爽と1塁まで走っていってしまいましたもの。



そして5番バッターに送りバントを決められ、その後ライトに大飛球を打たれた。ライトポール際へ風に流されながら伸びていった打球。


桃ちゃんがフェンスの手前でなんとかキャッチして犠牲フライ成立。これで同点。




さらに2アウト3塁となって、セカンドベース前に高く跳ねる内野安打で勝ち越されてしまった。




そして7回もフォアボールとデッドボールを与えてバントヒットを許してノーアウト満塁の大ピンチ。




そしてそんな状況で俺の前に、にぶめのフライが上がる。



ストレートに詰まった当たり。3塁ランナーはハーフウェーの構え。ショートの赤ちゃんかレフトの俺かと微妙なところだった前に突っ込む俺が捕った方がいいので、俺は声を張り上げて赤ちゃんをどかした。





「オッケイ、オッケイ!オッケイ!!!」




俺は3度そう叫び赤ちゃんがカバーに回ったのを確認して、定位置から随分と前に出てきたところで、落ちる打球にチャージ。しっかりノーバウンドで捕球を成功させた。





そしてそのままボールを右手に持ち替えながらながら内野グラウンドに向かって疾走する。



もしかしたら落ちるかもと考えていたランナー3人がベースに戻る。




俺はその3人のランナーに、にらみつけるの攻撃をしながら、誰にもボールを渡すことなく、ピッチャーマウンドまで到着してしまった。




そしていっちょまえに両腕を広げてタイムを要求する。




別に外野手がタイムを要求してはいけないとか、外野手が眼鏡っ子を愛してはいけないなんてルールはないからね。



ただ、お前がタイム要求するんかい!という雰囲気にはなってしまうけど。





とにもかくにも……。



「よう、センちゃん! なんとかこの場面は踏ん張って、一緒にお立ち台に上がろうぜ! 」



俺はそう言って、千林君のグラブにボールを入れた。




「ははっ、分かりました! ちゃんと抑えるんで、新井さんが逆転ホームラン打って下さいよ!」




「任せろっ!」



俺と千林君はにこやかに笑いながら、互いのおケツを叩き合って、改めて気合いを入れ直した。







千林君と交わした男の約束。



なんとかあの満塁の場面をその後のしょーもないワイルドピッチのみの失点抑えた千林が、肩にアイシングをしたままベンチから俺の姿を見ながら、逆転ホームランを信じていた。




代打高田さんのタイムリーで1点差に詰め寄り、尚も1アウト満塁。



約束通りの逆転ホームランを打つにはこれ以上ない場面。



極限まで高めた集中力を俺はピンクバットに込め、力いっぱいに真ん中高めのストレートを完璧に打ち返した。




バキィ!!



球場の外まで響くような快音。




打球は宇都宮の夜空に舞い上がりながらバックスクリーンへ。打った瞬間に確信出来る特大の打球。大歓声に包まれるスタンド。





イメージだけは完璧だった。





「打球は詰まった当たりになって、ファーストの頭の上だ! ジャンプ! グラブではじいた! フェア、フェアです!! ボールはファウルグラウンドを転がる! 3塁ランナーホームイン!2塁ランナーも一気に突っ込んでくる! バックホームされますが、タッチ間に合いません、ホームイーン!!


逆転! 記録はファーストへのヒットとなりました! バットは折られましたが、ファーストへの2点タイムリー内野安打となりました!!」




「スイングはバックスクリーンにホームランを打ったかのようでしたが、これはビクトリーズにとっては大きな1打になりましたねえ!」



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