第4話
翌朝、部屋まで呼びに来てくれたティアさんに従って、俺とタマちゃんはお城の南端へと案内された。
グラウンドのような広々とした場所で、そこを挟んだ向こうに、倉庫のような大きな建物が見える。
「――では、お連れします」
ティアさんと一緒に来ていた兵士さん――革鎧を着てるから、兵士さんだろう――が、その建物に走って行き、しばらくしてやたら大きな入口の扉が左右に割れ開いた。
そこから現れたのは、金属質な――なんだ、アレ?
クルーザーくらいの大きさで、それを甲板面で上下につなぎ合わせたような形。
そこから太い四肢が生えていて、兵士さんの誘導に従って、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
建物がらソレの姿が全部這い出ると、上部に折り畳まれた羽根と長い尾が見て取れた。
やがて俺達の前までやってきたそれは、クルーザーで言う舳先の部分に目と口があるのがわかって。
外観は鱗に覆われつつもどこか金属質で、四足歩行するロボットのようなのに、目と口だけがひどく生物的で生々しい。
「――リーシャ王国で飼育している、竜属のシルフィーちゃんです」
右手でソレを示し、笑顔でそう告げるティアさんに応えるように。
シルフィーちゃんと呼ばれたそれは、亀のように首を伸ばして、金属を叩いたような澄んだ声で鳴いた。
「――竜っ!?」
俺とタマちゃんは、驚きの声をあげた。
「りゅ、りゅうって、ドラゴンの竜?」
「そうです。シルフィーちゃんはまだ六歳なので、まだ無理ですが、成長すると人語を話せるようにもなるんですよ?
あ、まだ話せないだけで、こちらの言葉や感情は理解してますので、あまり怖がったり、乱暴にしたりしないであげてくださいね?」
ティアさんの言葉に、再び澄んだ金属音で鳴いて、お辞儀して見せるシルフィーちゃん。
「か、かわいい……」
タマちゃんが恐る恐るといった風に手を差し出すと、シルフィーちゃんはその指先を大きな舌でペロリと舐めた。
「――!? かわいいっ!」
太い首に精一杯腕を回して抱きつくタマちゃん。
「こ、これが竜? じゃあ、チラシにあったのは?」
「アレは飛びトカゲです。
日本の皆様は、創作物の影響で飛びトカゲをドラゴンと認識されているようですが、フォーティンで竜と言ったら、シルフィーちゃんのような鉱鱗類の――貴属生命体の事ですね」
シルフィーちゃんの首筋を撫でながら、ティアさんは続ける。
「この子は風竜で、飛ぶのが得意なので、浮遊岩までの足になってもらっています。
日本の方にとっては、ロボットに乗ってるようだと、大変ご好評を頂いているんですよ?」
ティアさんの説明を聞きながら、俺は改めてシルフィーちゃんを見上げる。
首を伸ばせば、尾の長い亀という印象の見た目だが、開いた皮翼は表面に虹色の文様が走っていてすごく綺麗だ。
硬そうな鱗は青と緑の斑で、離れて見ると海の色のような印象を受ける。
金色の瞳は優しげに細められていて、よく人に懐いているのがわかった。
「――イツキさ~ん! 写真! 写真撮ってください!」
シルフィーちゃんの首に抱きついてはしゃいでいるタマちゃんの要望にしたがって、俺はデジカメを構えた。
何枚か撮影すると、ティアさんが手を差し出してきて。
「代わりますよ。イツキさんもご一緒にいかがですか?」
「じゃ、じゃあ!」
ドラゴンと写真を撮れるなんて、異世界でしかできない体験だ。
俺はティアさんにカメラを渡すと、シルフィーちゃんの元へ駆け寄った。
その巨体とは裏腹に、人懐っこくて可愛らしいシルフィーちゃんと、さんざんはしゃぎ散らかした俺とタマちゃんが落ち着くのを待って。
ティアさんは俺達をシルフィーちゃんの背中に案内した。
シルフィーちゃん、乗る時、俺やタマちゃんを前足で押し上げてくれるのが優しい。
一方、ティアさんはといえば、ジャンプひとつで五メートルくらいあるシルフィーちゃんの背に降り立って。
「おお~!」
「ティアさん、すごいっ!」
拍手する俺達に、ティアさんは照れてはにかむと、小脇に抱えていた革製の絨毯のようなものを、シルフィーちゃんの背中に広げた。
「なんです? これ?」
「鞍です。高空を行きますので、身体を固定するのですよ」
そうティアさんが説明する間にも、シルフィーちゃんが俺達を驚かさないよう、ゆっくりと立ち上がり、兵士さんがその腹に回って、鞍の固定具を絞めていく。
座席になるのか、十センチほどの背もたれが三つ、横一列に並び、そのやや手前には鉄製の取っ手が着いていた。
ティアさんに促されるままに、俺は左、タマちゃんは右の座席に座る。
背もたれに空いた穴を通して、ハーネスが繋げられる。
タマちゃんも同様にハーネスを絞められ、ティアさんもまた、座席に座る。
「ティアさんはハーネス良いの?」
俺が尋ねると、彼女は笑ってうなずいて見せた。
「わたしは魔法でどうとでもなりますので。
そもそも規約なので、ハーネスを装着して頂いてますが、シルフィーちゃんは賢い子なので、滅多に人を落とす事なんてないんですよ」
「そうだ、魔法!
教えてもらえるんですよね!?」
タマちゃんが両拳を握りしめて、ティアさんに顔を寄せる。
「ええ。目的地まで、シルフィーちゃんの翼でも二時間ほどかかります。
その間に、ご教授させて頂きますね」
「やったー!」
はしゃぐタマちゃんをよそに、俺もこっそりガッツポーズ。
実は昨晩から楽しみにしてたんだよね。
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