第11話 【閑話】 貴方への愛は... (賢者ユシーラ サイド)

私の名前はユシーラ。


巷では「賢者」なんて呼ばれているけど本当の姿は本が好きな引き籠り。


本に囲まれて生活出来れば他は何も要らない。


ただ、それだけじゃ死んでしまうから研究者をしてお金を貰っている。


確かにアカデミーに論文を発表したりして「天才」と呼ばれているけど別に興味はないの。


ただ、本を読んで、部屋から出ないで生活出来れば後は何も要らないのよ。


最近ではちょっとした研究が上手くいき特許をとれたので死ぬまで生活に困る事は無くなった。


これで、本に囲まれた生活を送れる、そう思った矢先だったの。



とんでもない貧乏くじを引いた。


何で私が賢者な訳?


まぁ理由は解るけど、この世で一番知識がある者が選ばれるなら、確かに私になるわね。


仕方ないわ。


だけど、ここぞとばかりにアカデミーや魔道研究所が仕事を押し付けてくるのは頂けないわ。


勇者絡みだから欲しい物が沢山あるから。


上層部は、地位もお金もある、欲しいのは「何を犠牲にしても知識」だなんて本気で言うキチガイだからお金は幾らでもくれる。


だけど、これはアカデミーに居る者は殆ど同じだわ。


例えば、もし、これしかない貴重な素材があったとするわ。


「乞食の性奴隷になって1か月過ごせばやる」と言ったらアカデミーなら半分以上の女がやるわね。


その位可笑しいのよ、アカデミーって。


そんなアカデミーが欲しがった物の中に「勇者の精子」があった。


どうしようか、流石に言いにくい。


どうしようか途方にくれていたら、ルシオラが「愛し子」の話をしてきたから、こちらも切り出せた。


セトもルシオラもしっかり話を聞いてくれて受け入れて貰えた。


私は正直言うと別に気にならない。


人間では無いけど動物実験ではしていた事だから。


薬を飲んで貰って刺激して採取すれば良いだけだわ。


だけど、ルシオラはそうもいかない、妊娠しなければいけないのだから。


しかもセトも何だか悲しそうだ。


このままでは精神が可笑しくなりそうだから薬を処方してあげた。



そんなある日の事、新しく「剣聖のソード」が加わった。


本当にルシオラは可哀想だった。


まさかこのタイミングで初恋に落ちるなんて..神とは碌なもんじゃないわ。


セトもゲスではない、その事を何となく察したのだと思う。


そしてセトにとってもソードは親友と呼べるくらい仲が良かった。


ますます、2人は精神が可笑しくなっていきそうだった。


仕方なく、私は2人に違うタイプの薬を渡した。


それは「行為の間、相手が理想の人間に見える幻影薬」


傍から見ていると凄いのよ ルシオラは「ソード」の名前を呼んでいるし、セトは「メグ」の名前を呼んでいるの。


まぁこれでルシオラは本気でソードが好きなのは解っちゃったわね。


あんな「僕ちゃん」なんていい歳して言っている奴の何処が良いのかな?


そう思って見ていたら..はぁはぁ、可笑しいな凄く愛おしく思えるわ。


私は自分が1番、二番が知識まぁ本ね、男とか性欲なんて全く価値を感じていない筈なのに。


そりゃ昔はそれなりに恋愛も燃えるような恋もしたけど..もう燃え尽きた。



此処で暴露するけど、私は転生者なの。


大昔、不老不死を研究する手伝いをした時に偶然、転生印が刻まれてしまい、以来死ぬたびに知識を持って生まれかわるわ。


親も選べないし、余り凄いとは思えない。


知識だって人間の脳の構造のせいか新しい物を覚えると古い何かを忘れている気がする。


多分合計で200年から300年分の知識しか覚えられない構造なのかなと思うわ。


そう考えると学者3人分の知識があるだけ、凄くも何ともない。



話を戻すけど、今の私は生まれながらに枯れているのよ。


女としての幸せはもう経験済みだからもう要らないわ。


最後は悲惨だったけど、燃えるような恋をして子供まで作った事もある。



だから見た目は15歳の少女だけど、心はお婆ちゃんに近いわね。


そんな私がソードを見ていると体が熱くなる、本当に可笑しいわ。



理由が解らないけど、もやもやする。


研究者はこの「もやもや」が嫌いなのよ。


解るまで、納得するまで考え込むの。



最近ではルシオラに「貴方も、ソードが好きなのですか?」と言われる事もある。


「解らない」としか答えられない。



考えた末、たどり着いた答えは「昔(前の人生)の恋人にそっくり」という事だった。


そりゃ気になる訳だ、大恋愛の末、同棲迄して子供を作った相手そっくりなんだから。



あれは悲しい恋だった。


相手の名前はアラン。


ベルサ侯爵家の次男だったけど、愛人の子で家督を継がないのが決まっていた。


だから、アカデミーに研究者として入ってきた。


まぁ、私の後輩だったのよ。


私達は似た者どうしで、お互いに本が好きだった。


いつしか、磁石が引き合うようにくっつき、同棲しはじめた。


一緒に研究して、一緒に本を読んで暇さえあれば一緒に居た。


そして、男女の中になり、子供が出来た。


転生を繰り返して生きた中で、研究より大切に思った相手は、このアランと間に生まれた子、マリアンだけだ。


最も、ベルサ侯爵家で長男が死んで、アランに跡取りの白羽の矢が立ち別れる事になったのよ。


その時にまだ赤ん坊だった、マリアンも取り上げられたわ。


貴族には良くある話。


だけど、それ以来、私は恋愛をする事は無くなった。


それは何回、転生をしても同じね。


多分、心がババアなのよ..まぁ生きた年齢を合計すれば恐らく1000年近くになるから当たり前と言えば当たり前。


あっ、ババアとかロリ婆とか呼んだら殺すからね。


実際はそうでも、見た目は10代の少女なんだから。



大昔の事だから、忘れ掛かっていたけど、そのアランに見れば見るほどそっくり..気になる筈だわ。


あの時は気にもしてなかったけど、アランって凄い美形だったのね。



見れば見るほど、そっくり、気が付くと見てしまっている。



ルシオラが偶に凄く嫌な顔をするほどに、良いじゃない私はただ見ているだけなんだから。


まぁルシオラも、今の状況じゃ同じか。



これじゃ頭の中の「もやもや」が半分しか消えない。


不味い事に、知識も魔王もどうでも良くなった。


ソードの事が気になって仕方ない。


食事の時に過去について聴いてみた。



「ソードは孤児だったと聞きましたが、その前の事は解らないのですか?」


「解らないよ、僕ちゃんはこれと一緒に教会の前に捨てられていたんだ」


ソードはペンダントを見せてくれた。


ペンダントにはベルサ侯爵家の紋章が入っていた。


確信してしまったわ、間違いなくソードはアランやマリアンの子孫だ。


という事は私の子孫でもあるんじゃないの..




「うーうーあーあー、悩むわ」


「貴方が悩むなんて珍しいですね」


「私だって悩む時はあるわ」


「私はいつも悩みっぱなしです」


「まぁ悩んでも仕方ない事なのよ」


「それは私も同じよ」



肉体的には赤の他人。


そう考えたら、恋愛対象にはなる。


だけど、精神的には子孫、これはお婆ちゃんと孫みたいな関係でもある。


一番愛した男性の面影に、目に入れても痛くない子供の面影、どっちの意味で好きなのか解らない。


だが一番の問題は魔王に勝てないという事だ。


人工勇者の完成は恐らく、早くて次世代。


現状戦力を分析すると、どうあがいても勝てない。


負けた勇者の中にはセトより遙かに強い勇者も居た。


聖剣の強化は教会の物だから出来ない。



正直、私はこの旅で死ぬ気でいた。


死んでもどうせ私には次がある。


一緒に死んであげれば、セトやルシオラにも義理は果たした事になる。


だけど、私は..ソードには死んで貰いたくない。


自分が傍に居てあげれなかったマリアン、愛したアラン。


二人にしてあげれなかった事が沢山ある。


その分は彼に返してあげたい。


命を捨てれば守れるならそうする。


だけど、それも出来ない。


もし、私の「転生」をあげられるならあげたい。


だけど、それも出来ない。


私は薄情なのかも知れない。


セトやルシオラが死ぬ事には何とも思わなかった。


だけど、ソードだけには死んで貰いたくない。



セトから相談を受けた。


「彼を追放したい」と。


助かった、だけど、そんな期待も元から少しはあった。


何故なら、


セトは親友か弟の様にソードを思っている。


ルシオラは1人の男性としてソードを愛している。


私はどういう意味で愛しているのか解らないが彼には死んで欲しくない。



理由はともかく皆が彼を愛している。



渡りに船だった。




「ソードキモい、女の敵は死ぬべき」



心無い言葉をぶつけた。



「ユシーラちゃんも僕は要らないの?」



彼の目が涙ぐんでいる。


今直ぐ、「貴方は大切、私の人生に必要なの」そう言って抱きしめたい。


だけど、引き留めたらソードには死しか無い。



「...要らない」



これしか言えなかった。



今度の戦いで多分私は死ぬ。


もし、生まれ変わって貴方の子孫に会ったら。


次こそは違った関係を築く、もし拒絶されたら一生掛けて見守るわ。



私の気持ちはその時まで持ち越しにするね。



さようなら 愛しのソード


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