第7話 【閑話】 1枚の金貨と手に入らない人 (聖女 ルシオラサイド)
私の名前はルシオラ。
聖女をしていますが、貧乏くじを引いた女だと思っています。
私の両親は敬虔な女神教の教徒で私が小さい頃死んでしまいました。
その後はずうっと教会で暮らして居ます。
私は小さい頃に一番欲しかったのは「王子様人形」です。
勿論、教会で育てられている私は買う事も、買って貰う事も出来ません。
ただジョーウィンドウに飾られているお人形を見ているだけです。
暇さえあれば見ていましたが、暫くしたら売れてしまいました。
私の欲しい物は何時も手に入りません。
小さい頃はそれなりに、色々な憧れはあったけど流されるようにそのまま、シスターになってしまいました。
私はこの先、1人前になったら何処かの街にシスターとして派遣され、そこでの生活が始まります。
大した事ではありません、ですが初めてその時に僅かな自由が手に入るのです。
小さい頃は王子様に憧れましたが、そんな夢は諦めました。
絵本の中の王子様は絶対にこの世には現れません。
天使のような男の子もこの世には居ません。
そんな物は絵本の中にしか居ないのです。
何しろ、聖職者ですら醜い権力争いをしているのですから。
ある時から、「私が憧れるような素晴らしい人間は居ない」そう思う様になりました。
それでも自由な生活は楽しい筈です。
シスターになり、これから田舎の街に派遣される。
ようやく、恋愛をしたり、外の世界を見たり 人らしい生活が始まるのです。
そんな時期に神託が降りてきて..聖女になってしまいました。
頭の中が真っ白になり、女神様を心底恨みました。
何故、私ばかりに女神様は貧乏くじを押し付けるのでしょうか?
女神様を信仰していた両親は若くして死にました。
その後の私は教会に居たから救われたのかも知れません..ですが自由が無かった。
友達を作り、恋愛もしたかった..ですがシスターになる修行の為、私にはそんな自由は許されません。
そして、ようやくシスターになり、人間らしい生活が始まる。
そんな時に死刑宣告です。
何故なら、今の魔王ゾルダは、最強の魔王と言われています。
昔に戦った勇者は殺され首を晒しものにされ、聖女の体は真っ二つに切断され捨てられていたそうです。
今の勇者様の実力は解りませんが恐らくは勝てないでしょう。
皆は「おめでとう」って言いますが、その目は「私で無くて良かった」そう物語っています。
そして、他の聖女には無い、私だけに更に辛い試練を教会は課しました。
それは顔すら知らない「勇者との間に子供をつくる」という事です。
「愛し子」と言うのだそうです。
これは勇者と聖女に間に生まれた子が、その昔、暗い時代に人々を導いたと言う事から教会に強いられました。
その勇者と聖女は愛し合っていたのでしょう!
私は違う..顔も知らない男と子作りなんて嫌です。
だけど、その運命から逃げる事は出来ない。
私の人生は、「好きでもない男に抱かれて、残酷に死ぬ」それだけです。
私は聖女、だけど私に辛い人生を歩ませる女神が嫌いです。
だから、教会に約束をさせました。
魔王と戦っている間は莫大なお金を私に払う事。
そして、「全てが終わったら教会の意思や王族すら無視して自由にして良い」そういう約束です。
司祭様どころか教皇様がサインしてくれましたね。
まぁ、聖女ですから「支援は当たり前」
魔王を倒した後は「どんな願いもきく」のが当たり前ですから当たり前の事です。
そして、勇者セトと出会い旅に出ます。
魔王の情報を聞き絶望しました。
魔王所か四天王にすら自分達は勝てそうにありません。
更に賢者のユシーラと会い、それは更に確信に至りました。
戦況分析にたけた賢者が「絶対に勝てない」「四天王の一番弱い者相手にも絶望的」なのだそうです。
仕方なく、「愛し子」の話を二人にしました。
そうしたらユシーラも「人工勇者」の話をしてきました。
正直ユシーラが羨ましい。
彼女は精液の採集で良い。
ですが私は妊娠しなくてはいけないのです。
勇者であるセトは「俺には心に決めた女が居る」そう言いました。
「だが、義務である以上は仕方ない」そう言って受けてくれました。
私は彼で良かった、少しだけそう思いました。
それは私が彼との行為で感情を出さないように彼も感情を出さないで抱いてくれるのです。
つまり、恋愛では無く、ただ「愛し子」を作る仕事として行為をしてくれているのです。
彼は良い人です..ですがこんな始まりでは恋愛感情なんて湧きません。
信仰という名の元に強制された行為なのですから。
ただ、普通とは違うのは相手も強要されている..そういう事です。
お互いに愛していない、そんな親から生まれた子は可哀想に思います。
多分、私は生まれた子を愛する事は無いと思います。
まぁ教会が育てるから問題は無いでしょう。
何とかお互いが割り切れるようになり三人で仮面が被れるようになった。
そんな時にまた試練が訪れます。
ソードが仲間になったのです。
ソードの容姿は「綺麗な銀髪に女性みたいに白い肌」小さい頃に憧れた王子様に似た容姿をしていました。
話し方は変だけど優しい方でした。
私には解ってしまった。
私はソードを愛し始めている..多分時間が経てば本当に好きになってしまう。
今迄、何事も無くセトに抱かれていた事が凄く不快感に感じ。
セトが行為の時に幼馴染の女を思い浮かべるように私はソードを思い浮かべてしまう。
だけど、それは昔と同じ「私にとって決して手の届かないショーウィンドウの中の人形」と同じです。
私が好きになってもソードを手にする事は出来ない。
そう考えたら気が狂いそうになる。
いっそうの事彼を殺して私も死んでしまおうかな?
彼に一緒に逃げて、そう言ったらどういうかな?
それは決して許されないけど..そんな事ばかり考えてしまいます。
セトから相談を受けました。
「彼を追放したい」と。
理由は知っています、私もセトもユシーラも彼が好きだからです。
セトは親友か弟の様にソードを思っている。
ユシーラも同じ様に弟の様に思っている筈です。
私のは..多分異性に対する愛だと思います。
理由はともかく皆が彼が好きです。
だから、この計画に乗りました。
私は前もって金貨を1枚彼の上着ポケットに入れておきました。
これ位あれば暫くは暮らせる。
本当はもう数枚入れてあげたいけど何枚も入れたらバレるだろうしな。
追放当日私は自分感情が抑えられなくなりました。
若い子を抱いたですって...
「貴方みたいな女の敵に守られたくはありません! それに私だって自分の身位は守れます!」
「その、僕ちゃんて話し方気持ち悪いわ、しかも戦った対価に体を求めるなんて...最低です、見たくもありません」
私には言う資格は無い、それは解っています。
彼の横で好きではないとはいえ他の男に抱かれているのですから。
しかも、貴方が聞いているのが解って、あえて声をあげた事もあります。
その声は貴方を意識した物だけど...そんな物は貴方は解る筈も無いですよね。
本当に最低なのは私です..
多分、暫くしたら私は愛する事も無い子供を産んで、その後は殺されます。
もし、奇跡的に助かったら、そうね残りの人生は貴方を遠くから見て生きようかな?
奇跡が起きて助かっても私はきっと五体満足では無い..迷惑は掛けないから遠くから見る位は許してくれるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます