第134話 美容

「どうやらそのようだな……」


 ジトー侯爵が悔しさを顔に滲ませて言った。


 俺は思わず天を仰いだ。


「やっちまった~」


 するとリリーサも気まずそうな雰囲気を漂わせていた。


 顔を降ろした俺はそれに気づき、声を掛けた。


「ごめん、リリーサ。トリストのことを逃がした俺の責任だ」


 するとリリーサがもの凄く言いにくそうにしながら、何やらごにょごにょと言った。


「ん~と~、貴方のせいってばっかりでもないのよねえ……」


 俺は意味がわからず、聞き直した。


「うん?どういうこと?」


「う~ん、その、わたしもちょっとやっちゃったって言うか~……」


「やっちゃったって何を?」


「う~んと、まあ、もう一人悪魔がいたんだけど~、そいつをぶった切っちゃったっていうか~」


 俺は驚き、聞き返した。


「え?ぶった切った?そいつは黒幕の正体を知っていたの?」


 リリーサは頬をピクピクと引き攣らせ、額に脂汗をかいた。


「え~と~、そうね~、知っていたかもしれないわねえ~」


 俺は思った。


 確実に黒幕の正体を知っていた奴をぶった切ったんだなと。


 だが俺も他人のことは言えない。


 やっちまったのは俺も一緒だからだ。


 俺はしばらくの間リリーサと共に、頬をピクピクと引き攣らせ続けるのであった。




「まあそう気を落とすな。まだ黒幕を探る道は残っている」


 ジトー侯爵が俺とリリーサを励ますように言った。


 俺はため息を吐きつつも、問い掛けた。


「ホントに?どんな道が残っているの?」


 するとジトー侯爵がかなり損壊した館を振り返って言った。


「この館を誰が借りたのかが判れば、そこから辿れるかもしれない。どう考えても悪魔たちが自分で借りたとは思えないからな」


「なるほど。確かにそうかも」


「うむ。それとこのジャイロや、メイデン王子、それにメラルダ夫人などに事情聴取も行うしな。そこから糸口が掴めるかもしれん」


「そうか。まだ一応手はあるってわけだ」


「そういうことだ。だからあまり気に病むな。リリーサもいいな?」


 ジトー侯爵が優しげな笑みを見せる。


 リリーサは少しふさぎがちであったものの、わずかに微笑んだ。


「ええ、そうね。あんまり気にすると、美容にもよくなさそうだし」


 あまりにもリリーサに似つかわしくない言葉に、俺は驚いた。


「び、美容って……」


 するとリリーサの頬がびくりと反応した。


「何よ!わたしが美容を気にしちゃいけないって言うの!」


 俺は危険を悟り、即座にベタ下りした。


「ないない、そんなことはないよ。ただあんまり聞いた記憶がなかったものだから……」


 するとリリーサが大きく首を横に振ってそっぽを向いた。


「ふん!知らない!」


 俺は大いに戸惑い、呆然とするのであった。

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