第168話 旅立ち


 商業通りを抜け、街の入口に近づくと――入口付近で話している五人とスノーの姿が見えた。

 ヘスター、ラルフ、シャンテル、副ギルド長、そしてスザンナと呼ばれていた受付嬢だ。

 受付嬢は、俺と顔を合わせる度に毎回挨拶してくれていたんだが、わざわざ見送りにも来てくれたのか。


「待たせてすまないな」

「約束通り、お見送りに来ましたよ! スザンナも是非来たいということで、連れてきました」


 副ギルド長にそう紹介され、俺に対して深々と頭を下げた受付嬢。

 グリースに絡まれ、冒険者ギルドで姿を見なくなったときは心配したが、無事に働けるようになって本当に良かった。


「クリスさん! グリースと揉めた際に助けて頂き、本当にありがとうございました。助けて頂いたことは一生忘れません」

「いや、助けてもらったのは俺の方だ。受付嬢が俺を庇ってくれなければ、ギルド長とグリースにギルドから追い出されていた可能性だってあったと思うしな」


 というか、あの場で俺がグリースを斬り殺していたと思う。

 クラウスから追われている身でありながら、殺人犯としても指名手配されていただろうから、本当にスザンナには助けられた。


「私は何もできなかったです。……でも、クリスさんがそう思ってくれているなら、あの時勇気を振り絞って声を出して本当に良かった」


 満面の笑みでそう言ったスザンナ。

 ギルドの受付嬢はみんな美人だが、大抵が張り付けたような作り笑顔を見せる。

 今のスザンナは心から笑っているのが分かり、整った顔立ちに花が咲いたような笑顔は思わず目が惹かれるな。


「おっとー!? クリスさん、鼻の下が伸びてませんかー!? 駄目ですよ、私という存在がいながら他の女性に現を抜かすのは!!」


 結構感動的な話をしていたところだったのだが、両手を広げて割り込んできたのはシャンテル。

 何故かスザンナに威嚇をしており、俺はそれを軽いチョップで止めさせる。


「何してんだよ。ただの別れの挨拶だろうが」

「うぅ……痛いっ! 私にも優しくしてくださいよ!! ……皆さんが行ってしまうの本当に悲しいんですよ?」


 声のトーンを落とし、今にも泣きそうな顔のシャンテル。

 ここまで寂しがってくれるのは……なんというか嬉しいものだな。

 

「俺だって寂しくない訳じゃない。シャンテルには本当に世話になったしな。……だから、一つプレゼントをやるよ。世話になった礼だと思ってくれ」


 俺はそう言ってから、一つのアイテムを鞄から取り出す。

 そのアイテムを、目をぱちくりとさせているシャンテルに手渡した。


「ク、クリスさんからのプレゼントですか!?」

「カーライルの森に籠っている間は、特に世話になったからな。シャンテルがいなければ死んでいただろうし、そのお礼の品だ。あんまり高い物じゃないけどな」


 俺がプレゼントしたのは、綺麗な装飾が施された腕輪。

 腕輪といってもただの腕輪ではなく、魔力操作がしやすくなる腕輪らしい。


 ヘスターが以前言っていた通り、錬金術師には【魔法使い】が多い。

 理由は明確で、魔力を使う職業だからだ。


 錬金のどこで何に魔力を使うのかはさっぱり分からないが、この腕輪があれば作業効率が上がると思う。

 俺がノーファストでこっそり買っていた腕輪をプレゼントすると、驚いた様子で受け取り、シャンテルはすぐに腕に身につけた。


「本当に、本当に嬉しいです! クリスさん、大事にしますね!」

「ああ。魔力を扱いやすくなる腕輪らしいから、大事に使ってくれ」


 身に着けた腕輪を見てニヤつき、静かになったシャンテルから離れ、最後に副ギルド長に挨拶を済ませる。

 出会いは決していいものとは言えなかったが、最初から副ギルド長は俺達を尊重してくれていた。

 その後も献身的にサポートしてくれたし、シャンテル同様に世話になった人物の一人。

 

「副ギルド長。今まで助けてくれて本当にありがとう。最初は糞な冒険者ギルドだと思っていたが、副ギルド長のお陰で考えを改めることができた」

「お礼の言うのは私の方です。ギルドを助けて頂き、本当にありがとうございました。グリースの問題を解決してくれたクリスさんには、本当に一生頭が上がりませんよ」

「いや、もうそれ以上の恩は返してもらった。……急に出て行くってなって悪いな。俺達が抜けたあとの穴埋めを任せることになる」

「そんなこと気にしないで大丈夫です! グリースがいなくなったことで、他の冒険者がいきいきとし始めていますから! すぐにゴールドランク冒険者も出てくるはずです!」

「そうだといいんだが――とりあえず、何かあったら呼んでくれて構わない。貸しがあるしすぐに駆けつける」

「ありがたいがですが……大丈夫です! クリスさんは、クリスさんの目的だけに向かってひた走ってください! そして全てが終わったら、また顔を見せにきてくださいね」

「ああ、必ず顔を見せる」


 副ギルド長と固い握手を交わしてから、俺達は三人に背を向けてオックスターの外を目指す。

 ……良い街だったな。本当に色々とあったが、街は本当に良かった。

 オックスターでの思い出が頭の中を駆け巡り、少し感傷的な気持ちになる。


「クリスさーん!! 絶対、ぜーったい戻ってきてくださいね! 私、腕を磨いてまっていますから!」

「私もです! 良い冒険者ギルドにしますから、絶対戻ってきてください」


 後ろからシャンテルと副ギルド長の声が聞こえ、俺は片手を上げてその言葉に答える。

 ただ、もう後ろは振り返られない。

 クラウスだけに照準を向け、俺達はエデストルへ向けて歩を進めたのだった。





三章終了時のステータス(最後の能力判別時)


 

―――――――――――――――


【クリス】

適正職業:農民

体力  :25 (+344)

筋力  :22 (+427)

耐久力 :21 (+271)

魔法力 :5 (+139)

敏捷性 :14 (+217)


【特殊スキル】

『毒無効』


【通常スキル】

『繁殖能力上昇』『外皮強化』『肉体向上』『要塞』

『戦いの舞』『聴覚強化』『耐寒耐性』『威圧』『鼓舞』

『強撃』『熱操作』『痛覚遮断』『剛腕』『生命感知』『知覚強化』

『疾風』『知覚範囲強化』『隠密』『狂戦士化』『鉄壁』『変色』

『精神攻撃耐性』『粘糸操作』『魔力感知』『消音歩行』

『自己再生』『身体能力向上』『能力解放』『脳力解放』

―――――――――――――――




第168話 旅立ち にて、第三章が終了致しました。

ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます!

ぜひブクマ、★★★での評価を頂けると嬉しいです <(_ _)>ペコ


そして、6/23(金)から書籍版第一巻が発売されております!

ぜひお手に取って頂けると幸いです <(_ _)>ペコ

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