第162話 提案
教会の墓を後にした俺達は、宿屋へとやってきていた。
無駄なお金は使えないため適当な安宿を取り、三人一部屋で過ごしている。
「なぁ、宿屋を取ったけどよ……取る必要あったか? 用事は済んだわけだし、後は帰るだけだろ?」
「いや、ノーファストでまだやることがある」
「やること? なんだそりゃ」
「オックスターを出る前に決めたことなんだが、近日中にオックスターを離れるつもりでいる」
「えっ!? そうなんですか? ……追手が来るからでしょうか?」
「いや、追手についてはあまり関係ない。もう追い返せる力はつけただろうしな」
「それじゃ、なんでだよ!」
「一言で伝えるなら、平和すぎるからだな。基本的にゴールドランクの依頼しかこないし、俺達の実力から考えると簡単すぎる依頼なんだよ」
俺がそう伝えると、二人もそのことを感じてはいたのか思い当たったような表情を見せた。
「強敵である追手に追われる中で、カーライルの森に身をおいたから分かるだろうが、厳しい環境に置くことで成長速度がグッと上がる」
「で、でも、それならまたカーライルの森に籠れば……」
「それじゃ効率が悪いんだ。俺だけに関していえばもしかしたらそれが最効率かもしれないが、それでも植物から得られるスキル量も減っていたからな。留まるメリットがかなり薄れている」
「……私もそう思います。ここノーファストのような、難度の高い依頼の集まる街に移住するべきだと思います。掲示板をチラッと見たのですが、ダイアモンドの依頼も普通に張り出されていましたからね。成長への一番の鍵は、やはり強敵との戦いだと思います」
ヘスターも賛同してくれたことにより、ラルフは何も言い返せずに黙ってしまった。
居心地の良さもあるし、シャンテルや副ギルド長といった人にも恵まれている。
だから長く住みたい気持ちは分かるが、強くなるなら移動するのがベストだと俺は思う。
レアルザッドからオックスターに出た時も似たような気持ちだったが、結果としてオックスターに移り住んだことで、俺達はより強くなることができたからな。
「…………分かった。二人がそこまで言うなら、もう反対はしない。それでどこの街に行くつもりなんだ?」
「今のところの第一候補は、ここノーファストだな。オックスターからも近いし、何かあれば戻ることもできる」
「他の候補もあるんですか?」
「他はあまり考えていないが、三大都市の一つエデストルはかなり気になっている。……なにせダンジョンがある街だからな」
エデストルは正直、俺個人としては一番移りたい街だ。
今言ったダンジョンもそうだが、近くにはカーライルの森とは比較にならない大森林があり、その大森林には……スキルの実が隠されているであろうとされている候補の一つでもある。
今更、スキルの実が必要かどうか聞かれると難しいが、もし仮にスキルの実が特殊スキルを得られるのであれば、喉から手が出るほど欲しい実だ。
オンガニールは通常スキルだけだったが、スキルの実は特殊スキルを身につけることができる可能性が大いにあるからな。
「ダンジョンは確かにいいな。強い魔物は絶対にいるだろうし、鍛えるのには持ってこいの場所!」
「……ですが、確かエデストルのダンジョンには、クリスさんの弟のクラウスがいるんじゃなかったでしたっけ?」
――そう。
だから、必然的にノーファストを第一候補に選ばざるを得なかった。
もしかしたらクラウスと互角にやり合える可能性はあるかもしれないが、関係上カルロがクラウスの下につく形となっている。
つまりは……あのカルロよりも強いと思って動かなくてはならない。
「そうだ。だから、エデストルには行くにいけない状態。エデストルにクラウスがいなければ、俺の中では一択なんだけどな」
「……あっ、分かったぞ! ノーファストに残る理由は、エデストルの情報を集めるためだな?」
「半分正解だな。エデストルとノーファストについての情報も集めたいと思う。エデストルにクラウスがまだいた場合は、必然的にノーファストを拠点とするわけだからな」
「それじゃ明日以降は、二手に分かれて情報を集めて回るんですね!」
「ああ。俺とラルフがエデストルについて。ヘスターには、ノーファストの情報を集めてもらうつもりでいるが大丈夫か?」
「もちろんです! スノーと一緒に、ノーファストについてを調べ上げますね!」
「本当に心強い」
本音を言うのであれば、俺とヘスターで徹底的にエデストルについてを調べたかったが……。
それでは二手に分かれる意味がなくなるからな。
「そういうことで、明日からは情報集めに動いてもらう。二人共よろしく頼むな」
「任せてくれ! 徹底的に集めて回る!」
「私も任せてください!」
こうして、新たな移住先の情報を集めるため、俺達は手分けしてノーファストで聞き込みを行うことにした。
遠く離れた街、エデストルについての情報だ。
ノーファストにある情報屋を使うことを検討しつつ、情報を集めに行こうか。
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