第160話 受付嬢
俺達は買取専門の受付前の列に並び、順番が来るのを待つ。
広い冒険者ギルドだけあって受付の数も多いのだが、それでもかなりの列を成している。
「……なぁ? なんで買取の受付に並んでるんだ? 聞き取りするんじゃないのか?」
「するんだよ。……あの受付嬢からな」
「受付嬢から? わざわざなんでだ?」
「情報を持っていそうだから」
要領を得ない俺の話に、首を傾げるラルフとヘスター。
確かに訳の分からない行動だろうが、この冒険者ギルドで強い生命反応があった二人の内の一人は、俺達が並んでいる受付の受付嬢なのだ。
他の受付嬢と何ら変わりない見た目をしているが、秘めている生命力はさっきのおっさんと同等。
まぁ流石に、さっきのおっさんやカルロの方が多いが……。
【魔力感知】
もう一つスキルを発動させ、受付嬢の魔力を盗み見てみると――やはり膨大な魔力を持っていた。
何かしらのスキルやアイテムで抑え込んでいるみたいだが、スキルのお陰で俺は盗み見ることができている。
「いらっしゃいませ。こちらは買取用の受付となりますが、よろしかったでしょうか?」
「買い取ってもらう予定はないんだが、質問があって並んだ。【銀翼の獅子】についてを知らないか?」
「……へ? え、えーっと、関係のない質問でしたら他を当たって頂きたいのですが……」
「他ではなく、お前から話を聞きたい。あっちのおっさん冒険者には断られてしまったからな。改めて、【銀翼の獅子】についてを教えてほしい」
「あっちのおっさん――分かりました。ここではアレですので、あそこの入口から中に入って奥の部屋で待っていてくれますか?」
「分かった。情報提供助かる」
俺は受付嬢から指示された通り、ギルド職員専用の扉から中へと入り、ギルド職員しか入れない奥の部屋へと入った。
ラルフとヘスターには、スノーと共にフロアで待っていてもらい、俺一人で奥の部屋に入っている。
「お待たせしました。こちらの部屋まで来てくれますか?」
「ああ」
しばらく待っていると、先ほどの受付嬢が受付から離れてやってきたため、案内されるがままとある一室へと入る。
……【知覚感知】のお陰で気づいているが、受付嬢から殺気が漏れ出ているな。
俺の行動が怪しすぎるから仕方ないとはいえ、スキルをいつでも発動できるようにしておこう。
警戒しつつ、案内された部屋の中に入ると――そこの部屋は一際豪華な部屋だった。
そんな部屋の正面に置かれているこれまた豪華な机には、『ギルドマスター』と書かれた札が置かれている。
「んで? なんでわざわざ俺に話しかけたんだ?」
男の声がしたため振り返ると、そこには女装をした男が立っていた。
いや、服装がさっきの受付嬢と同じということは……受付嬢は変装していたというわけか。
「お前、男だったんだな」
「は? 気づいてて話しかけたんじゃねぇのか!? ……こりゃただの変人を招き入れちまったか。馬鹿と天才は紙一重とはよく言ったもんだな」
頭を抱えてそう呟いた受付嬢だった男。
見た目は若いが、恐らく年齢は俺よりもかなり上。
そして、この部屋につれてきたことから……この女装男はこのギルドの長だろう。
「男かどうかは知らなかったが、お前が実力者ということは知っていた。強い生命反応を感じたからな」
「どうだかな。適当に話しかけただけだろ」
「違う。……そうだな。もう一つ付け加えるならば、お前からは生命反応よりも強い魔力を感じた。つまりは魔法職ってとこだろう」
「――正解。俺はギルドマスターのアルカーンだ。アルカーン・マグス……聞いたことはあるだろ?」
「いや、ないな」
「嘘だろ……? マグスの名を知らない奴なんているのか……?」
心底驚いた表情を見せているが、本当に聞いたこともない。
これだけの強さを誇っているし、もしかしたらノーファストでは有名人なのかもしれないが、俺はオックスターの住民だからな。
「それよりも情報を教えてくれ。情報料ならばキッチリ渡す」
「ん? 情報……【銀翼の獅子】についてだっけ? 教えてやる前に、俺からも聞きたいことがある。何故お前は【銀翼の獅子】について調べているんだ?」
「知り合いだからだ。俺はオックスターに住んでいて、【銀翼の獅子】はオックスターに来ていた。四ヶ月前くらいのことだ」
「――確かに、四ヶ月くらい前にオックスター付近の依頼を受けていたな。なるほど、合点はいった。……【銀翼の獅子】は死んだ。全員何者かに殺された。唯一、一人だけ生き残っている可能性はあるが、その人物も消息を絶っている」
やはり、全員殺されていたか。
レオンが奥の手を持っていたのだとしたら、もしかしたら生き残っているかもしれないと思っていたが……。
生きている可能性があるという人物も、恐らくアルヤジさんのことだろう。
「そうだったか。【銀翼の獅子】の面々はどこに眠っている? 墓は建てられてあるんだろ?」
「あまり驚かないんだな」
「まぁ姿を見せないとなれば、冒険者なら死が一番考えられる可能性だ」
「…………なるほどな。墓の場所なら教会を訪ねてみるといい。教えてくれるだろうよ」
「ありがとう、助かった。これは情報料だ」
俺は銀貨を弾いて渡し、部屋から出て行こうとしたのだが、ギルドマスターはそんな俺を呼び留めた。
「ちょっと待て。俺からも一つ質問がある。お前は何者なんだ?」
「この質問に答えたら、もう一つ質問に答えてくれるか?」
「いいだろう」
「俺はクリスという名の冒険者だ。さっきも言った通り、オックスターで冒険者をやっている」
「クリス? …………クリス、か」
俺が名前を告げると、ギルドマスターは顎に手を当て必死に考え始めた。
クラウス関連で聞き覚えがあるのか分からないが、思い出す前に去りたいところ。
「俺からのもう一つの質問だ。良い武器屋があれば紹介してほしい。ギルドマスターなら知っているだろ?」
「んぁ? ……武器屋? 武器屋か。ノーファストの武器屋なら『イチリュウ』って店一択だ」
「そうか、情報助かった。それじゃ俺は行かせてもらう」
必死に考えているギルドマスターを他所に、俺は部屋から出てギルドのフロアへと戻った。
ラルフ、ヘスター、スノーと合流したタイミングで、奥から「思い出した!」というギルドマスターの声が聞こえた。
あのギルドマスターが敵かどうかは分からないが、レアルザッドの教会の一件を考えると避けるのが得策。
有益な情報を貰ったから馬鹿正直に自己紹介したが、偽名の方が良かったかな――なんて若干後悔をしつつ、俺達はギルドマスターの情報を頼りに教会へと向かったのだった。
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