第159話 ノーファスト
オックスターを離れてから、南に向かって約四時間ほど。
王都にも負けず劣らずの巨大な街が見えてきた。
「見えました! あれがノーファストです!」
「三大都市だけあって、王都並みに大きな街だな。門の前で並んでいるし、やっぱり入門検査があるんだな」
「オックスターが異質なだけで、多少大きな街では入門検査はあるだろ! クリス、毒草持ってきてないよな!?」
「流石に持ってきてない。……あ。でも、毒のポーションは持ってきてるわ。流石にポーションなら大丈夫だよな?」
「多分ですけど、大丈夫だと思いますよ。ポーションに加工していれば、成分までは調べないと思います!」
ヴェノムパイソンのポーションは常に持ち歩いているため、何の気なしに持ってきてしまったが、まぁ流石に大丈夫だろう。
見た目も透明だし、怪しげなポーションと間違えられることはないはずだ。
それから門の前にできている大行列に並び、入門検査が行われるまで静かに待つこと約三十分。
ようやく俺達の番が回ってきた。
王都の入門検査と同じように三人の兵士が一人に対して当たり、入念に鞄の中を検査している。
心配なのはヴェノムパイソンの毒と、スノーが無事に通れるかどうか。
俺の前に並んでいたラルフとヘスターが無事に検査を終え、最後尾に並んでいた俺の番がやってきた。
「身体検査と荷物の確認を行わせてもらう」
「ああ。構わない」
鞄を一人の兵士に渡し、両手を広げた俺の体を入念に調べる二人の兵士。
内心ドギマギしつつ、毅然とした態度を見せていると――検査は何事もなく終わったのか鞄が返却された。
「異常なしだ。次に身分証の提示をお願いしたいのと……そっちのペットは魔物か?」
「ああ、そうだ。従魔登録はしてあるから、魔物の方の身分証も見せる」
俺は自分の冒険者カードと、スノーの従魔カードを兵士に渡した。
冒険者カードは流し見程度、従魔カードは入念に確認し……何事もないと判断されたのか返却された。
「…………大丈夫なようだな。くれぐれも問題は起こさないように注意をしてくれ」
「分かった」
「それでは中に入っていいぞ」
無事に入門検査を突破した俺とスノーは、鞄にスノーを入れて大人しくするように言い聞かせてから、先に検査を終えていたラルフとヘスターと合流し、ノーファストの中へと入る。
俺は綺麗な街並みを想像していたのだが……眼前に広がる光景は少し意外なものだった。
建物がごちゃごちゃとしており、街灯ではなく幾つもの提灯が吊り下げられている。
露店も多くあり、無数の看板が張り巡らされていた。
例えるならば、凄まじい賑わいを見せている裏通りのような……決して綺麗な街とはいえないのだがワクワクする街だ。
「形容しづらいが、なんか良い街だな」
「だよな! 俺もこの街はなんとなく落ち着く」
「レアルザッドを大きくした感じですんもんね! 私もノーファストはかなり好きな街です」
俺と同じ感性を二人も持っていたようで、俺の言葉にすぐに肯定した。
オックスターを離れたとして、移住する第一候補として決めているのはノーファストのため、色々と調べていきたいと思っていたところだが――まず第一印象としてはかなり良いな。
さて、【銀翼の獅子】の情報を集めるとして、まずはどこから当たるかなのだが……やはり冒険者ギルドかな。
ミスリル冒険者だし、冒険者なら確実に知っているはずだ。
「二人とも、冒険者ギルドの場所って分かるか?」
「分かりますよ。前回訪れた時も、冒険者ギルドに行きましたから」
「そうそう。冒険者ギルドでカルロについての聞き込みをしたときに…………レオンさんに気に入られたんだ」
レオンとの出会いを鮮明に思い出したのか、少し気落ちした様子を見せたラルフ。
訃報を聞いてから既に数ヶ月が経過しているとはいえ、まだまだ心の傷が癒えていないようだ。
……俺も、ふとした瞬間にアルヤジさんの死に際を思い出してしまうしな。
「そうだったのか。分かるなら案内してほしい。冒険者ギルドなら【銀翼の獅子】の情報も集まるだろうしな」
「分かりました。冒険者ギルドは街の奥ですので、人の多い大通りは避けて裏から回るように行きましょう」
「分かった」
正面の多くの人で賑わいを見せている通りからは離れ、人の少ない裏道を通って街の奥へと目指していく。
一見大回りのようにも感じるが、人が少なくスムーズに進めるというのは大きく、ストレスフリーで街の奥まで辿り着くことができた。
「それにしても凄い入り組んだ構造だったな。以前もここを通っていたのか?」
「はい。あの途中で更に右側へと進むと、レアルザッドでいう裏通り的な場所に出るんです。そこには何度か足を運んでいたのでこの抜け道を覚えました」
「へー。それほど長いこと滞在した訳じゃないのに詳しいな」
「俺は何にも分からないぞ。前回も今回もヘスターについていっただけだしな!」
「わざわざ言わなくても、ラルフが分からないのは知っている」
ヘスターの記憶力に感心しつつ、俺達はそのままの足で冒険者ギルドへと目指した。
様々なギルドが並ぶギルド通りを進んで行くと、冒険者ギルドが見えてきた。
「随分と大きいな。あれがノーファストの冒険者ギルドか」
かなり年季の入った建物だが、大きさはオックスターの冒険者ギルドの三倍はある。
出入りしている冒険者は……オックスターにいる冒険者と大差ないように思えるけども。
「私も初めて見た時はビックリしましたね。ささ、中に入りましょうか」
「ああ、そうだな」
ヘスターに案内されるがまま、冒険者ギルドの中へと入る。
念のため、【知覚強化】【知覚範囲強化】【隠密】【生命感知】のスキルを発動させ、強い人物がいないかの確認も行う。
目立たないように注意しつつ、広い冒険者ギルドの中を索敵する。
流石に三大都市の冒険者ギルドだけあって、冒険者の数は多いが……強い人物はあまり多くない。
カルロ並みの生命反応がある人物が二人、それよりも若干劣る人物が六人。
それ以外の人間は、オックスターの冒険者と大差ないな。
「どうやって聞き込みするんだ? この間は手当たり次第に声を掛けたんだけどよ!」
「……強そうな奴に声を掛けてみたいと思ってる。ついていきてくれ」
「えっ、強そうな人ですか? 分かりました」
二人にそう告げてから、俺は生命反応の強い二人の内の一人に声を掛けてみることにした。
一番奥のテーブルに座り、女冒険者ばかりを目で追っている五十歳くらいの冒険者。
口も半開きだし、女に夢中で近づく俺達に気づきもしていないが……。
強い。確実に強いのが見て分かる。
「ちょっと話を聞きたいんだがいいか?」
「んあ? ッチ。……すまん、今はちょっと忙しいから無理だ」
話しかけた俺を見て、男だと分かると舌打ちをしてからまた女を目で追い始めた。
この様子を見る限りでは話が通じなそうな相手だが、俺は無理やり質問をしてみることにした。
「【銀翼の獅子】という冒険者について知りたい。何か情報を持っていないか?」
「【銀翼の獅子】? ………………しらねぇな」
【銀翼の獅子】という言葉に反応し、俺を睨みつけるようにして見てきたが……。
やはり取り合う気はないのか、知らないと突っぱねられた。
こうなったら、いくら聞いたところで無駄だろう。
このおっさんから情報を聞き出すのは諦めようか。
一番奥のテーブルを離れ、もう一人の生命反応の強い人物に当たることにした。
相手が相手だけにできれば、あのおっさんから聞き出せればよかったのだが仕方ないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます