第三章

第117話 それからの出来事


 緊急依頼から約一週間が経過した。

 グリースの件は一切バレることなく、ヴェノムパイソンに殺されたということで正式に処理されている。


 グリースの取巻き達は、リーダーであるグリースが死んだことにとってパーティが瓦解し、それぞれが違う街へと去って行った。

 街を離れて時間さえ経ってしまえば、取巻き達が心変わりしてグリース殺害の件を自供したとしても、証拠もないし証明する方法はなくなる。

 ……まぁ、わざわざ自供するような奴らじゃないということは、これまでの行動からみても分かってはいるけどな。


 それから緊急依頼の報酬についてだが、グリースが依頼のメインの受注者であり、緊急依頼の中で死んだ功労者ということで――報酬の三割がグリースの家族に支給。

 俺達の報酬は三割となってしまったのだが、それでも白金貨三枚という破格の報酬を受け取ることができている。


 それに加えて、副ギルド長だけは俺がグリースを始末したと勘付いたようで、追加の礼金として白金貨五枚を頂いてしまった。

 グリースの取巻き達も俺を恐れ、報酬である白金貨三枚を渡そうとしてきたのだが、俺はそれを受け取るのを拒否。

 手切れ金兼口止め料としてくれてやった。


 あとは……討伐推奨ランクがプラチナの緊急依頼の達成。

 翌々日には、残りのヴェノムパイソンの討伐も行ったため、その成果が認められて俺達全員ゴールドランクへと昇格となった。


 まだシルバーに昇格したばかりだったし、コツコツとシルバーランクの依頼も行いたかったところだが、ゴールドに上がっておいて損はない。

 ありがたく昇格を快諾し、俺達は晴れてゴールドランク冒険者となった。

 

 更にこの一週間の間に、ことあるごとにグリースを庇っていたギルド長が、自らギルド長の座を降りて辞職している。

 理由は明かされていないが、確実にグリースがいなくなったことだろう。


 ギルド長が辞めるその日。

 俺はたまたまギルドで居合わせていたのだが、仏頂面の印象しかなかったギルド長は爽やかに笑っており……。

 それを見送る職員のほとんどが涙を見せていた。


 副ギルド長が言っていた通り、嫌々付き従っていたということが、この表情や慕われ具合から分かる。

 そして――俺の横を通りすぎる際、小さな声でだが“本当にすまなかった”そう言い残し、冒険者ギルドを去って行った。


 俺からしてみれば虫のいい話だと思うが、副ギルド長から許してあげてほしいと頭を下げられたため、このギルド長については忘れることにした。

 ……まぁ今後、少しでもちょっかいかけてきたとしたら、問答無用で殺すけどな。


 そして、その前ギルド長の後任として、新しくギルド長となったのはもちろん、俺達が何度も世話になった副ギルド長。

 まだ若いし正義感も強いため、これから長い時間に渡って、この冒険者ギルドを良くしていく。

 俺は勝手ながら、そんなことを思っている。



 ……と、この怒涛の一週間で起きたことはこんなもので、とりあえずグリースがいなくなったことで平和な生活を送ることができている。

 今日も今日とて依頼をこなすべく、部屋から出て下へと降りようとすると――。


「クリス! 早く降りて来てくれ!」


 一階から、ラルフの叫ぶような声が聞こえてくる。

 下へと降りてみると、ラルフは俺を引っ張るようにテーブルへと座らせてきた。

 眠い目を擦りながら、部屋の中をちらりと見渡すと、キッチンの方でヘスターがスノーに餌をやりつつ、朝食の準備をしてくれているのが見える。


「良いニュースと悪いニュースどっちが聞きたいか?」


 俺がヘスターの作っている朝食に気を取れていると、ラルフが急にそんなことを聞いてきた。


「別にどっちでもいい。早く話せよ」

「じゃあ――良いニュースから! さっき出勤前の副ギルド長が来て、例のブツを置いていった!」

「本当か! 早く見せてくれ」


 その一言で、俺は一気に目が覚めた。

 やっと持ってきてくれたか。


 俺は厳重に封がしてある箱から取り出し、光にかざしながら回し見る。

 この瓶に入っているものが何なのかというと……俺達が追加で倒したヴェノムパイソンの毒だ。


 グリースを殺した日に討伐した、七匹のヴェノムパイソンの死体は燃やしてしまったが、翌々日に討伐した四匹のヴェノムパイソンの死体から、毒を抽出してもらうよう副ギルド長に依頼しておいたのだ。

 【毒無効】持ちの俺がやればいいのだろうが、蛇の毒の抽出方法が分からず依頼したわけだが……ちゃんと抽出してくれたみたいで本当に助かる。


 この毒を一体何に使うのかといったら、それはもちろん俺が飲むためのもの。

 植物ではなく、毒自体に能力を向上させる効果があるのではと思い、ヴェノムパイソンの毒を飲んでみることしたのだ。


 ……俺の個人の考えとしたら、能力が上昇する可能性は限りなく低いが、まぁ試してみないと何も始まらない。

 失敗は悪いことではないし、仮に失敗に終わっても――ヴェノムパイソンで使ったように、刃に毒を塗りたくる戦法で使える。


「……あと、ラルフ。副ギルド長じゃなくて、ギルド長だろ」

「そこはいいだろ。もう副ギルド長は副ギルド長だし、ギルド長のあだ名が副ギルド長ってことでさ!」

「なんだそのややこしいあだ名は」


 一つ気になった引っかかりについてをツッコんだのだが、そんなことを言ってきたラルフ。

 ……まぁでも確かに、俺も副ギルド長と呼んでしまっているし、別に副ギルド長のままでもいいのか。

 呼び名は置いておくとして、悪いニュースについてを俺は取りただすことにした。


「それで、悪いニュースというのはなんなんだ?」

「これもさっき副ギルド長が教えてくれたんだが……。クリスの弟、クラウスについての情報だ」


 クラウスについての悪いニュースか……。

 グリースの件がようやく片付いたと思ったら、眠っていた問題が掘り起こされたって感じか?


 一難去ってまた一難。

 また新たな厄介ごとの臭いがしてきた。

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