第105話 スノーの今後


 カーライルの森を出て、家へと着いたのは夕方ごろ。

 依頼をこなしているのであれば、二人はまだ家に帰ってきていないと思ったのだが……。


「スノー! 元気だったか? よーしよし。体調も悪そうじゃないし、無事でよかったぜ!」

「ラルフ、私にも撫でさせてください! 独り占めは駄目ですよ」


 今日帰ってくるということを知っていたからか、依頼を早めに終わらせて待っていたようだ。

 二人の後ろには、ミルクとスノーの大好きなメロンも置かれている。

 一玉銀貨四枚と高額なのだが……まぁスノーも疲れているだろうし、今日ぐらいは奮発してもいいか。


「そんなに触りたいなら、まずお風呂に入れてあげてくれ。臭いが少しキツくなってる」

「ん? ……くんくん。――あっ、確かにちょっと臭ぇな!」

「それじゃ、私と一緒にお風呂に入りましょうか。綺麗にしてあげますからね」


 ヘスターはラルフから奪い取るようにスノーを抱きかかえると、風呂場へと消えて行った。

 スノーを奪われたラルフは、お風呂から上がるまで待つことにしたのか、俺の方へと寄ってきた。


「それでクリス。この一週間どうだったんだ?」

「ああ、完璧に近い一週間を過ごせた。成果としては今まで一番かもしれない」


 オークジェネラルのオンガニールを成功できていれば、正しく“完璧”だったのだが……。

 こればかりは仕方がないことだ。


「クリスは本当に順調に成長できているな。自家栽培用の植物とやらも採ったのか?」

「この鞄の底に土が敷いてあって、そこに苗ごと植えてある。あとキノコのついた原木も庭に置いてあるから、後で部屋に運び込む予定だ」

「……本気でいよいよって感じだな! ――なんかよ、上手く言葉にできないんだけど、めちゃくちゃワクワクするわ!」

「ふっ、語彙力がなさすぎるだろ」


 手をワキワキとさせながら、何故か自分のことのように興奮しているラルフ。

 確かに俺もワクワクはしているが、まだまだ始まったばかり。

 現状で満足してはいられないし、家での環境でしっかりと育つかどうかも不明だからな。


「クリスが順調なのは分かったが、スノーの方はどうだったんだ? 狩りのやり方を教えることはできたのか?」

「うーん……。狩りを教えることはできなかったが、スノーだけでゴブリンを二匹倒したな」

「ゴ、ゴブリン!? もうゴブリンと戦わせたのかよ!」

「別に俺が戦わせた訳じゃない。鞄から抜け出して、自分から向かっていったんだ。俺が止める間もなく、二匹のゴブリンを瞬殺しちまったんだよ」

「ゴブリン二匹を瞬殺……? え? あんなに小さいのに、そんな強いのか!?」

「多分、戦闘に関しては天才なんじゃないか? 風属性攻撃と氷属性攻撃を使ってたし、動きに関してもリスとの追いかけっこで大分鍛えられてたからな」


 ラルフもやっぱり驚くよな。

 走り方は大分様になってきていたけど、あれだけ動けるとは思ってもみなかった。


「属性攻撃? リスとの追いかけっこ? 端折られ過ぎてて分からねぇよ!」

「とりあえずヘスターが戻ってきたら、一から説明させてもらう。今後の方針も決めたいしな」

「ううー、早く何があったのか聞きたい!」


 また手をワキワキとさせながら悶えているラルフ。


「そっちはどうだったんだ? 何か報告するようなことはあったか?」

「ん? こっちは特にないな。……あー、そうだ。二人で依頼を受けるときは、壁役を使わない立ち回りでいくことにした」

「徹底的に攻撃面を鍛えるつもりか」

「ヘスターは迷いが吹っ切れてぐんぐん強くなってるから、俺も頑張らないと置いていかれる。それだけは絶対に嫌だからな」

「確かに――早く成長しないと、スノーに負けちまうかもな」

「スノー!? やっぱそんなに強いのか!」


 俺のスノーという言葉に食いついてきたラルフを一度無視し、ヘスターが戻ってきてからスノーについての話を一から説明した。



「スノー、そんなに強くなっていたんですか」

「なっていたというか、元々強かったのかもしれない。風属性と氷属性の攻撃なんか誰も教えていない訳だしな」

「可愛いだけじゃなく、実力もあるって……。スノー、凄すぎるぞ!」


 洗われてふわふわになったスノーを、わしわしと撫でまくるラルフ。

 スノーも嬉しそうに、ラルフに体を擦りつけている。


「それでなんだが、これからスノーをどうするか考えたい」

「どうするかっていうのは?」

「端的に言えば、依頼に同行させるかどうかだな。道中の弱い魔物をスノーに狩らせて、成長を促していきたいと思ってる」

「おっ、いいじゃん! スノーと一緒に冒険できるなんて楽しそうだしさ!」

「うーん、私は反対ですね。まだ小さいですし、流石に早すぎると思います。いずれそうしたいという話なのであれば、賛成ですけど……」


 ここはやはり賛否分かれるよな。

 スノーの実力を冷静に分析するのであれば、連れて行っても問題ないと俺は思っている。

 ただ、今日みたいに勝手に飛び出して、自分よりも強い魔物に向かって行ってしまったらと考えると、怖いという気持ちがあるのは事実。


「えー……。俺は今のうちから、連れて行った方がいいと思うけどな! 危険とか言い出したら、圧倒的な強さを持つまで外に連れ出せないことにならないか?」

「そこは丁度良い塩梅を見て決めれば――」

「それに、今なら鞄に入れて連れまわせるからな! 小さいから駄目じゃなくて、小さいからこそできることがあると俺は思う!」


 珍しくまともな意見を出したラルフ。

 本人はただ一緒に冒険したいだけだろうが、確かに小さい今だからこそ連れ出しやすいというのはある。


「今のラルフの意見で、俺も同行させるはアリだと思った。鞄にすっぽりとハマる大きさの内に、色々と経験させられることはさせておきたい」

「クリスさんも同行させる派ですか……。万が一を考えてしまうと、私はどうしても怖いですね」

「だったら、ヘスターがスノーの入った鞄を持っていればいい。魔物から離れている後衛だし、主攻が魔法なら戦闘でもあまり邪魔にはならないだろ?」

「鞄から逃げ出さない工夫も施せば大丈夫だって! な、スノー!」

「アウッ!」


 スノーも元気よく返事をしたことで、ヘスターは渋々ながらも了承した。

 ゴブリンやコボルトといった雑魚をスノーに狩らせ、それ以外の時はヘスターの持つ鞄に入っていてもらう。


 ……これで一時的にだろうが、三人と一匹のパーティとなった。

 いつスノーが通常の魔物と同じように、人を襲うようになってしまうかが怖いけど――。

 一度面倒を見ると決めた以上、その時が来るまでできる限り強くなるように育てていこうと思う。


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