第100話 フォレストドール
笛を吹きながらカーライルの森を歩くこと、約一時間。
そろそろ、入口と俺の拠点の中間位置に差し掛かろうとしたその時――。
笛に反応し、左前方の木が大きく揺れたのが見えた。
「なあ、あの木を見てくれ。異様に揺れてないか?」
「あの木って言われても分かんねぇよ! そもそも俺達が見える位置にある木かも怪しいからな!」
「私もちょっと分からないですね。近づいてみませんか?」
俺が先導し、揺れたであろう木に向かって歩を進める。
その間も、ラルフが一生懸命に笛を鳴らし続けており……近づくにつれて、その揺れが大きくなっていった。
「やっぱりあの木はフォレストドールだ。ヘスター、魔法をぶち込んでやっていいぞ」
「あの揺れてる木でいいんですよね? いきますよ。【ファイアアロー】」
先ほどの話もあったため、高火力の【ファイアアロー】を期待したのだが……。
放ったのは命中重視の【ファイアアロー】だった。
威力は弱いが狙った箇所は正確で、フォレストドール目掛けて一直線で飛んで完璧にクリーンヒットした。
……ただ、どうしてもモヤッとし、フォレストドールそっちのけでヘスターに問いただそうとしたのだが――。
そんな俺よりも先に、ラルフがヘスターに突っかかった。
「おい! なんで威力を弱めているんだよ!」
「さっきクリスさんと話した通りです。絶対に外してはいけない場面では命中を重視させました。……周囲の木に当たってしまったら大火事となるから、今回は命中を重視させる場面。――ですよね? クリスさん!」
その完璧な返答に、心臓が大きく一つ跳ねた。
ラルフのお陰で助かったが、危うく俺も指摘していたぞ。
「ああ、その通りだ。場面場面での選択が必要。――ラルフ、フォレストドールを仕留めにいくぞ!」
「なんだよ! さっきまでいい感じのノリだったから、てっきり全力でいく場面だと思っちゃうだろ!」
「いいから早くしろ! ラルフがメインアタッカーだからな」
【ファイアアロー】が直撃したフォレストドールに近づき、一気に仕留めにかかる。
威力を弱めたといっても、超弱点である火属性魔法をモロに食らっている。
立て直されて、土魔法を使われたら面倒なことになるため、ここは一気に仕留める場面。
「ラルフ、合わせろよ」
怯んでいるから必要ないだろうが、念のために皮の盾を構えながら、鋼の剣に手をかけて至近距離まで一気に近づいた。
攻撃の所作がないことを見てから、素早く剣を突き刺し、俺の背後から飛びだしたラルフは思い切り振りかぶってから、一気に剣を振り下ろした。
俺が相手だったならば、両足に怪我を負っていたとしても避けれる攻撃だが、ヘスターの【ファイアアロー】に加えて俺の突き。
動けずにいるフォレストドールには、一番良い攻撃方法だと言える。
一撃でなぎ倒すほどの渾身の一撃に、体を半分くらい削り取られたフォレストドールは、その場で立ったまま動かなくなった。
そんなフォレストドールの生死を俺が確認する前に、ヘスターが追撃の【ファイアボール】を放ち、フォレストドールは背後へと倒れるように地に伏せた。
オークジェネラルやスノーパンサーと比べて、あまりにもあっさりと討伐することができたな。
オークジェネラルは推奨ランクがゴールドだったからアレだが、もしかしてスノーパンサーが強かったのかもしれない。
「クリス、お疲れさん! なんかあっさり倒せたな!」
「笛のお陰ですぐに見つけることができたし、効率の良い依頼かもしれないな。これで一体の討伐につき、金貨二枚だもんな」
「まだ時間に余裕があるし、二体目も探してみるか? 確か、追加討伐の報酬もあったよな!」
「うーん……。確かに、二体目を探すのもいいが――それは植物採取をしながらにしないか? 一体は討伐しているんだしな」
俺がそんな提案をすると、変な目で俺を見てきたラルフ。
……元々、有毒植物をついでに採取する予定だったのがバレたか?
「いいんじゃないでしょうか? 私たちもお金になりそうな植物を採取すればいいですし、笛を吹きながらついでにフォレストドールも探せますから」
「お金になりそうな植物ってなんだよ。薬草ですら、見分ける自信ないぞ」
「それなら俺が教える。一番分かりやすくて金になるのは、オール草って言って万能薬の元になる植物だ。黄色味がかった葉が特徴的で、木の裏とかによく自生している。匂いはスーッと鼻に抜けるメントールの香りもするから分かりやすい。あとは根の部分が――」
「おいおい、ちょっと止まれ! 植物採取は分かったから、ゆっくり説明してくれ! ……本当に人が変わったかのような説明ぶりだな!」
おっと、つい早口で説明してしまった。
有毒植物採取のついでに金稼ぎもできないかと、レアルザッドにいた時に調べていたんだよな。
そこで一番良いと思ったのが、様々な状態異常を治すと言われている万能薬の元となるオール草。
結局、荷物の容量の関係や、毒草と一緒に採取したことにより変な被害が出たらまずいと思い、採取は諦めたんだが……尋ねられたせいで燻らせていた知識が爆発してしまった。
「確かに、実際に採取しながら教えるのが分かりやすいか。とりあえずフォレストドールの死体から部位を剥ぎ取って、採取ポイントへと移動しよう」
「……絶対このためにフォレストドールを候補に挙げただろ」
ラルフがぼそりと漏らした言葉は聞こえなかったフリをし、俺達は剥ぎ取りが終わってから植物採取へと移行したのだった。
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