第99話 アドバイス


「家具とかはまた金を貯めてから買おうか。しばらくの間は、とりあえず寝袋で寝てくれ」

「リビングにテーブルだけはあるけど、めちゃくちゃ寂しい家だな! だだっ広いだけに、より寂しく感じるぞ」

「仕方ないだろ。俺達はずっと宿屋暮らしで、家具なんて持ってないんだからな。金もまだ家具に割けるほど余裕はないし、とりあえずは依頼をこなしまくって金稼ぎだ」

「今日は早速依頼に行きますか?」

「そうだな。まだ昼前だし、依頼をこなしに向かうか」


 ヘスターが自作した簡易的な人形を口に咥えたスノーに見送られ、俺達は新居を出た。

 今日からは更に忙しくなってくる。


 依頼をこなして金を稼ぎながら、殺風景な家の家具を揃えていきつつ、植物を育てる基盤を作って植物採取にも行かなければならない。

 オンガニールの特性も早く解明しなくてはならないし――本当に一日も休んでいられないな。

 日に日にやれることが増えて大変さが増しているが、それ以上に充実した日々が楽しい。


 これでグリースがいなければ完璧なんだけどな。

 ふと思い出してしまったグリースに対してげんなりしつつ、俺達は依頼を受けるために冒険者ギルドへと向かった。



 今回受けた依頼は、フォレストドールの討伐。

 以前から受けようと考えていた三つの依頼の一つで、カーライルの森に生息する木に擬態した魔物。


 依頼内容によれば、木こりがこのフォレストドールに襲われるという事件がいくつか起こっており、その危険を排除するために出された依頼のようだ。

 木こりが襲われたということから、森の入口付近に出没しているみたいだが……俺は一度も見たことがないんだよな。


「クリス。カーライルの森ってどんな森なんだ?」

「普通の人から見たら、ゴブリンとコボルトの森って感じだろうな。俺にとっては楽園に近いけど」

「楽園ってとんでもない表現だな。植物採取ってそんなに楽しいのか」

「植物採取ってよりかは、俺の能力が上がっていくのが楽しい――だな。求めている有毒植物を見つけた時の興奮は、ラルフには一生分からないだろうよ」

「鍛える以外にも、強くなる方法があるっていうのはいいですね」


 そんな雑談を交えつつ、俺達はカーライルの森へとやってきた。

 いつものように、森の入口には低ランク冒険者と木こりの姿がちらほらとあった。


 あそこにいる冒険者に情報提供してもらえば、すぐにフォレストドールの情報は集まりそうだが、グリースと敵対している俺達に情報を流すわけないよな。

 ひそひそ話をしながら離れていく冒険者達を横目に、俺達はカーライルの森へと足を踏み込んだ。


 ――何度来ても、やっぱりワクワクするな。

 今日はその予定はないのだが、どうしても視線は植物を追ってしまう。


「クリスさん、本当に楽しそうですね」

「だよな! こんなにテンションが高いクリス初めて見たぞ」

「そうか? 新居に入った時もテンション高かったけどな」

「それにしても、これ見つかるのか? 木に擬態しているって言っても、これだけ木が生えてたら分からないぞ。目の前にいたとしても見逃す自信あるわ」


 ラルフの言う通りで、索敵能力が高いと自負している俺でも、まだ見つけたことがないんだよな。

 どの程度の擬態によるか分からないが、とりあえずただ歩き回って探しているだけじゃ、一日二日じゃ絶対に見つからない。


「そこでこの笛ですよね! 副ギルド長から貸して頂けて助かりましたよ」


 ヘスターが持っているのが、フォレストドールの擬態を解くことができると言われている笛。

 先ほど依頼を受けた時に、たまたま通りかかった副ギルド長が貸してくれた。

 初めて会った時に宣言された通り、本当に俺達に協力してくれるようだ。


「もう少し先に進んだら、笛を鳴らしながら進もう。擬態しているフォレストドールが出たら、ヘスターの出番だぞ」

「はい。火属性が弱点だから、私が主攻になるって訳ですよね」

「そうだ。だから笛を吹くのはラルフが頼む。俺はタンクとしてフォレストドールを押さえる」

「ああ、分かった! ……すまねぇな。壁役を任せてしまってよ」

「謝罪はいらないから、早いところ攻撃のコツを掴んでくれ。――といっても、スノーパンサー戦での動きは悪くなかったけどな。相手が一枚上手だっただけで」

「それじゃ駄目なんだ。そんな相手にでも上手を取れるようにならなきゃな」


 ラルフの方は、失敗にめげている様子はない。

 この調子なら、今回も色々と試しながら戦ってくれるだろう。

 問題なのは……ヘスターだな。


「そういえば色々とゴタゴタしていて聞けなかったが、ヘスターは前回なんで魔法の威力を弱めたんだ?」


 スノーパンサーの子供、それから新居の契約でバタついていたため、後回しになっていたことをこのタイミングで訪ねた。

 

「それは……あそこは確実に当てなければならない場面だったからです」

「確実に、か。ヘスターがあの場面で、【ファイアアロー】を当てていなければどうなっていたと思ってる?」

「退こうとしていたラルフに攻撃……。いえ、クリスさんに攻撃が集中していたと思います」

「まぁそうだろうな。スノーパンサーは追撃の出を伺っていて、俺が退こうとしたラルフの前に入っただろうから、俺に集中攻撃がされたはず。……ただ、あの場面でスノーパンサーの猛攻を受けたとして、ヘスターは俺がやられていたと思うか?」

「それは思わないです。スノーパンサーの攻撃は一度も食らっていませんでしたし」

「だったら、あの場面は威力の高い魔法で押すべきだったと俺は思う。あそこの弱気は、駄目な弱気だと戦いながらに思った」


 状況を整理し直し、一から何が駄目だったかを説明した。

 全身に氷を纏わせ、本気の姿勢を見せていたスノーパンサーだが、俺は攻撃を受けきることができたと思っている。


 ヘスターは冷静に分析ができるからこそ、あの場面での確立の高い手を選んだのだと思うが……。

 もしその戦い方を求めているのであれば、今後は安定重視の魔法を命中させることだけを意識して戦っていくべき。


 ……ただ、ヘスターが魔法一発で戦況を変えることができる人になりたく、威力にこだわりたいのであれば、その意思を貫かなくてはいけなかった。

 いずれ訪れるであろう、威力の高い魔法を絶対に当てなければいけない場面のためにもな。


「……そうですね。私は無意識に、確率の高い手と考えて逃げたのかもしれません。魔法を唱える瞬間、一発目の【ファイアアロー】を外したのが頭にチラついたのは事実ですので」

「まぁ自分で決めた道だ。一人で戦況を動かせるようになりたいんだったら、こだわり続けた方がいい」

「はい! 本当に危ない場面以外は、攻めていきたいと思います! ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします。」

「迷惑かけて当たり前なのがパーティだ。なぁ、ラルフ」

「そうだな! 俺も迷惑かけっぱなしだけど、その分強くなることがお返しだと思っているから!」

「いい心構えですね。……本当にたまにですが、ラルフのアホさ加減が羨ましく思います」

「なんだよ、アホって! ヘスターだってアホだろうが!」


 わちゃわちゃと言い争いになったが、俺の言わんとすることが伝わって良かった。

 これからの戦いでどう変わるのか期待だな。


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