第71話 カーライルの森の情報


「カーライルの森について、知っていることがあれば教えてほしい」

「カーライルの森ですか? お客さん、珍しいことを聞きますね! いいですよ。私、カーライルの森にはよく行くので詳しいんです!」

「それじゃあ……出現する魔物、絶対に食べてはいけない植物の二つの情報と――。後はこの辺で、この紙の情報と一致する植物があるかどうかも見てくれ」


 俺は持ってきた自作の有毒植物図鑑のレイゼン草、ゲンペイ茸、リザーフの実のページを開き、錬金術師に尋ねる。

 前者はカーライルの森について、後者はオックスターの近くで三種の植物を見たことがないかの質問だ。


「ちょっと見せてもらいますね! えーっと……紫色の小さな花で猛毒を持つ? 特徴がなさ過ぎて該当するお花がいっぱいありますので、これは分からないですね。次は……真っ白な笠と柄におびただしい赤い斑点があるキノコ? これも分からないなぁ。――えーっと最後は……紫色に白い斑点がある実ですか! これは知っていますよ!」

「本当か! 情報を教えてほしい」

「カーライルの森にいっぱい生えている実です! 入口付近にも生えている実なんですけど、猛毒を持っているから絶対に食べてはいけない木の実として教えられてます!」


 よしっ。俺は小さくガッツポーズをとった。

 リザーフの実があるのであれば、オックスター街の周辺にあるであれば、とりあえず及第点だ。

 それも、カーライルの森に自生しているのだとしたら話も早い。


「情報ありがとう。カーライルについての情報も教えてくれ」

「えっと、カーライルの森で絶対に食べてはいけない植物でしたっけ? 一つはお客さんが言っていた実です。あと二種類ありまして、一種類目はジンピーって呼ばれるハートの形をした葉っぱですね! 無数の棘がついていまして、刺さったら死ぬとまで言われている植物です」


 棘つきの植物か。

 有毒植物には割と多いタイプなんだが、俺は意図的に避けている種類のもの。


 毒が大丈夫でも、棘の方はどうにもならないからな。

 口内をぐちゃぐちゃにされたらたまったものじゃないため、俺は食べていない。


「そして、二種類目はオンガニールと呼ばれる植物です。緑色のリンゴのような木の実でして、近づくことすらしてはいけないと言われている猛毒の木の実です」

「オンガニール……!? それって“死のリンゴ”か?」

「あっ、はい! そうです! 普通の人の中でも有名で、一般的には“死のリンゴ”として知れ渡ってますね」


 これは――凄い情報を手に入れたかもしれない。

 『植物学者オットーの放浪記』に記載されていた“死のリンゴ”。


 オットーがスキルの実についで解明したがっていた木の実で、その超強力な毒故に、凄まじい潜在能力を秘めている可能性があるとオットーが感じていた木の実。

 詳しいことは分からないのだが、“死のリンゴ”は個体差が大きく出るようで、一部のものには著しく潜在能力を上昇させたり、はたまたスキルの実と同じような効能を持っている可能性が秘めていると記載されていた。


 放浪記のカーライルの森の欄には、その存在についての記載はされていなかったはずなのだが、これはラッキーすぎる。


「おいっ! オンガニールについて、もっと詳しい情報を教えてくれ。森のどの位置に自生しているとか、どの環境下に自生しやすいとか」

「すいません。詳しいことは何も知らないんです。何せ近づくことすら駄目な植物と言われているので、その存在を見たことがある人はいないと思いますね」


 ……それもそうだよな。

 わざわざ超強力な毒を持つ木の実を探そうとする奴なんて、俺かオットーくらいしかいない。

 流石に情報を求めすぎてしまった。


「それもそうだよな。……この情報は本当に助かった。ありがとう」

「いえいえ! 後は出現する魔物についてでしたよね。これも聞いた話なんですけど、カーライルの森の奥地には怪鳥が住んでいると聞いたことがあります!」

「怪鳥? どんな魔物なんだ?」

「すいませんが、こちらも噂程度なので詳しくは分からないんです。カーライルの森は、その怪鳥以外は特に危険な魔物が出るとは聞きませんし、比較的穏やかな森だと思いますよ! 定期的に冒険者が魔物の駆除も行っていますしね!」

「……なるほど。色々な情報助かった。ポーション代以上の情報を貰った気分だ」


 錬金術師なら詳しいと踏んでやってきたが、予想以上の成果を得られたな。


「そんなにお役に立てたなら良かったです! 植物や魔物の素材についてなら詳しいと思いますので、いつでもお店に来てくださいね!! ……あっそうだ! 自己紹介がまだでしたね。私は錬金術師のシャンテルです! お客さんのお名前はなんですか?」

「……俺はクリスだ」

「クリスさんですね! 覚えました! また是非ご来店してください」

「ああ。また気が向いたら来させてもらう」


 俺はそう言い残して、『旅猫屋』を後にした。

 店員のシャンテルは正直苦手な類だが、そんなことが気にならないくらいの情報に加え、役に立ちそうなポーションも手に入れることができた。


 性格は面倒くさいが口は軽そうだし、オックスターを拠点にしていくなら常連になるのもアリかもしれない。

 そんなことを考えつつ、露店でオブラートと日持ちする食料を適当に買ってから、俺はカーライルの森を目指して歩を進めた。

 

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