第24話 幼少期編24 十年の節目と贈り物

 大精霊――ヤミとの出会いから一年の時が経った。


 精霊達の親玉に出会うという、大きな出来事を経験した僕ではあったが、その日常にさほど変化はなかった。


 しいて変化をいうならば、時折ノルン大森林におもむいてはヤミとお話をするようになったことだろうか。彼女は大精霊という強大な存在のはずなのだが、あまりにも気楽な隣人であるためか、その実感がない。きっと感覚が麻痺しているのだろう。


 伝説上の存在と呼ばれるアールヴルディと、人々の記憶からも離れた幻の存在である大精霊ヤミ。その二人と立て続けに出会った僕にとって、伝説だとか稀有けうだとか幻だとか、そういった言葉は誇張こちょう染みた表現に聞こえてしまう。それくらい、彼女たちの存在は僕の日常に溶け込んでいた。


 自室から外を眺める。昼時の街のざわめきが微かに聞こえてくる。

 窓辺から遠く街並みを見るのは僕の日常だった。活気に溢れ、大衆行きかう街の様子に、僕は少しだけ羨慕せんぼの念を覚える。目と鼻の先にあるはずの喧噪けんそうとは、この10年間ほぼ無縁の生活をしていたから。


 とはいえ、堂々と町中を歩く勇気は僕にはない。シラユキを攫うような輩でさえ、僕の目にはわかりやすく慄いていた。慣れているはずの侍女メイドでさえも、僕に対して悲鳴をあげることがある。この街の民の前に現れたら、大パニックになりそうだ。


 僕自身は、ここまで不当に痛めつけられるだとか、食事を与えられないだとか、そういった忌み子にありそうな扱いは受けてきていない。周りから避けられて、外部との関わりを基本的に許されていないこと以外は、普通の子供として生きている。僕がよく関わっている人達は僕に対しての偏見がほとんどないから、正直忌み子としての自覚は薄かった。


 だけど、理解はしている。僕の目は、僕が思うよりもずっと、世間に受け入れられていないということを。

 

 「スイ、アイ」


 僕の言葉に緑の大光スイ青の大光アイが反応して近づいてきた。少し感傷に浸ってしまうときは、つい2人を呼んでしまう。


 はこの1年で更に成長していた。魔力の質量、密度、圧、その全てが一回り大きくなった。2人を超える魔力を持つ存在はこの一帯では大精霊ヤミくらいしかいないだろう。そして変化はそれだけではない。


 僕に近づいてきた2人は、普段の球体の姿をぼやけさせると、今度は三尺ほどのへと変化した。


 『わたくしたちは自分が見せたい姿を見せるのよ』


 僕はヤミの言葉を思い出す。高位の精霊はその姿を変えることができる。スイとアイもその高位精霊の一角だとルディは言っていた。2人がこの能力を使えても、なんら不思議ではない。でも、どうして今まで使ってこなかったのか、それが僕にはわからなかった。

 大精霊ヤミに聞いてみたこともあったが、彼女は「乙女心よ」とかよくわからないことを言っていた。

 

 ちなみに、僕は2人に性別はないと思っていたのだが、大精霊ヤミ曰く女性寄りだということだった。


 ヤミの言葉の通り、人型に変化した2人の姿は女性的である。

 顔の造形は細かくないから、顔だけで二人を判別するのは難しい。だが、その風貌は特徴的だった。


 緑の光で象られたスイは、活発な印象というのが正しい言葉だろう。緑の光で構成され髪を後方で結び――所謂ポニーテールのような――、さらにキャミソールと短いスカートを模したような翡翠色の服を着ている。


 一方でアイは、青い光で構成されたドレスのような服を身にまとっていた。藍色の長髪は綺麗に揃えられており、こちらはいかにも清楚な印象を与えてくれる。どこかヤミに似ている気がするのは、彼女が大精霊ヤミを慕うゆえだろうか?

 

 そんなことを考えながら僕は2人へと手を伸ばす。

 小さな手が僕の手に触れて、暖かな光が流れ込んでくる。僕の無力透明な魔力が青緑色に煌めくと、自分の精神が安定していく気がした。

 

 流れ出でる魔力は周囲に溶けて、青と緑の光たちが呼応するように明滅した。


 と、2人が何かを察知したように僕から離れる。向かう先は自室の扉のほう。その動きをみて僕は「もうそんな時間か」、と独りごちた。

 

 そして。

 ――コンコン。

 

 ノックの音が響くと、今度は聞きなれた少女シラユキの声が響く。


 「ご主人様、コルネリア様とフェリシア様がいらっしゃいました」

 

 それは母と妹の来訪を告げる声だった。彼女たちが本家の方によく身を寄せるようになってから、めっきり少なくなった事柄の1つだ。

 僕は沸き立つ心を抑えて、扉を開ける。そこにはシラユキの姿がある。この年代の女の子故か、シラユキは成長が早い。彼女は今の僕の身長をゆうに超えている。シラユキは僕の姿認めると、深々とお辞儀をした。

 

 今日は少し特別な約束事があった。それはこの10年間、僕がほとんど縁のなかった行事であった。

 

 それは――祝い事。僕の10歳の祝い事が、今日行われるのである。



 *


 

 10歳、というのはこのルーフレイム王国において1つの節目である。

 この年齢に達した子供は、大人に準ずる存在として扱われるようになる。ちゃんとした成人年齢は15歳であるため、完全な大人ではないが、それでも多くのことに対して自分で責任を取るように求められる。それがこの国における10歳の扱いだ。


 流石に早いのでは、と思わなくはない。だが、それは僕の前世の常識だ。今世で10歳を超えた人の為すことは、子供の戯れとは思われなくなる。かなりシビアな世界なのだ。


 シラユキに連れられた場所には、すでにコルネリアフェリシアがいた。その近くには見かけない侍女や兵士の姿がある。おそらく本家の人間たちだろう。一様に僕とシラユキのことを不気味そうに見ていた。慣れているはずのこの屋敷の侍女ですらあの有様だ。普段会うことのない本家の人なら、なおさら僕が薄気味悪く映るだろう。


 母は僕の姿を見つけると、普段と変わらない微笑みを向けてくる。相変わらず経産婦とは思えない若々しさであった。2年ほど前に3人目――僕の弟――産んでいるはずなのになぁ。


 フェリシアは僕の姿を認めると、途端に顔を明るくした。だけど、いつかの幼いころのように抱き着いてはこない。すぐにハッとしたように母に顔を向けると、彼女の真似をするように微笑んだ。


 妹ももう7歳になろうかという年齢だ。男よりもよっぽど精神の成熟が早い女の子には、何かしらの葛藤があるのだろう。少しよそよそしくなってしまったフェリシアへの寂しさと、彼女も成長しているという喜び。相反する感情を何とか咀嚼そしゃくしながら、僕はこれが「父親の気持ちか」と哀愁漂う感慨に浸っていた。


 「お久しぶりです、母様。フェリシアも久しぶり」

 「久しぶりね、グレイ」

 「お久しぶりです! おにいさま!」

 

 いつもと変わらない彼女たちの様子に僕はうれしくなる。僕の血縁にあたる人はすごく多いけど、本当に家族と言えるのは彼女達だけだ。

 シラユキも彼女たちに挨拶をする。2人はシラユキに対して寛容だ。自然に挨拶を返していた。


 「フェリシアは今日もかわいいなあ」

 「えへへ」

 

 僕の言葉に、わかりやすくフェリシアがはにかんだ。フェリシアはよそ行きの愛らしい装いで、精いっぱいのお洒落をしてきたらしい。


 そんなフェリシアを優しくなでようとして、僕は手を止める。おめかしした女の子の頭を撫でるのはちょっと違うかもしれないと思ったからだ。髪の毛をセットしたりしているかもしれないし。代わりに僕は彼女の頬に唇を触れさせた。フェリシアもお返しと、僕の頬に口を近づける。

 兄妹のスキンシップを済ませた僕は、母を見上げた。

 

 「今日は2人なんですね」

 「そうね。ディーはメイシアに預けてきたから。本家でお留守番よ」


 ディーというのは僕の実弟のことだ。本名はディートハルト・ノルザンディ。まだよわい2歳ほどの男の子である。

 

 「メイシアはこちらに来ると、渋っていたのだけどね。本家向こうではあんまり預けられる人もいなかったから」

 「そうですか……。それは仕方ないですね」


 少しだけ落胆してしまう。やはり、自分より下の兄弟というのは可愛いものだ。できるなら弟にも会いたかった。

 家族と顔を合わせる機会というのは年々少なくなってきているから、なおさらそう思ってしまう。


 「おにいさま! おにいさま! フェリシアとお話ししましょ!」

 

 母と話していることで疎外感でも感じたのか、フェリシアが僕の手を引いてくる。

 そんないじらしい妹の相手をしながら、僕らは祝いの場へと向かっていった。


 場所はいつもの僕が食事を摂っている部屋だ。一応お祝い事ということで少しだけ飾り付けがされている。普段僕を避ける侍女メイドたちが、そんなことをするのかとも思ったが、おそらくコルネリアの命令によるものなのだろう。


 部屋にはこの屋敷の侍女メイドが数名いた。僕らのことを認識すると一様に礼をしてくる。

 母は本家から来たであろう人達に声をかけると、彼らは一礼ののちに踵を返した。

 そして、コルネリアは僕とフェリシアをテーブルの方へと連れ立った。

 

 座席は僕が主賓席。この世に生まれて初めての経験である。母が屋敷の侍女メイドを呼んで言葉を交わすと、母はこちらを向いてにっこりと笑った。


 「さあ、始めましょうか」

 

 僕の10歳の祝い――十年の節目アルフ・ティアが始まった。






 

 母の号令と共に料理が運ばれてくる。

 暗黒鳥のコンフィ、巨牙鮫のスープ、猛進豚のステーキ、千年草のサラダ……。色とりどりの料理が数え切れぬほど運ばれてくる。

 食欲をそそる香気が食卓に揺蕩たゆたう。その暴力的ともいえる匂いに、思わず喉が鳴った。


 地球では聞いたことのない食材ばかりだが、今世の僕は知識としてそれらを知っている。運ばれてくる料理、その全てが普段の食事では到底でてはこない高級食材ばかりだ。特に暗黒鳥や巨牙鮫といった魔物の肉は、手に入れるのが難しいこともあってその希少価値は高い。無論のことながら、僕はこれまでの人生でこういった料理を食べたことがなかった。

 侍女メイドたちは料理を運び終えると、そそくさと部屋から出て行った。侍女が一人だけ勝手場の前の扉で待機している。

 

 「では、いただきましょうか」


 母の言葉を合図に、僕と妹は食事へと手を伸ばした。食事のあいさつという文化はこの国にはない。上位の仕切る人の言葉が、食事開始の合図である。心の中で「いただきます」と言った僕はナイフとフォークを手に取った。

 料理はすでに取り分けされている。僕は暗黒鳥のコンフィに丁寧に刃を入れた。肉厚な姿とは裏腹に、ナイフはバターを裂くようにすっと入った。銀の通る道からはじんわりと肉汁が滴る。香辛料の香りが鼻腔をくすぐった。

僕はそれをわくわくと口に運んだ。

 

 (うっっま!)


 思わず声が出そうになるのを抑えた。塩味、旨味、そして香辛料の刺激。そのすべてが調和している。味蕾みらいが感じ取るその味は今までに経験したことのない衝撃だった。溢れる肉汁もしつこさがなく、いつまでも食べられそうだ。

 自然、食事に手を伸ばすスピードが速くなる。妹も同様のようで、一心不乱に料理を口に運んでいる。

 その様子を見て、コルネリアがくすり、と笑った。

 

 「ふふ、そんなにおいしい?」

 「……っ! んく……。はい。おいしいです」


 口内に残ったお肉を一息に飲み込んで、僕は頷いた。重厚な肉を食べた後とは思えない爽やかな後味に感動を覚えながら、僕は少し反省する。

 ちょっと貴族としてはよくない食べ方だったかも。とはいえ、母が気にした様子はなかった。ただにこにこと僕ら二人を見ている。


 その後も食事は続いた。暫くは無心に食べていた僕とフェリシアだったが、そのうちお腹も膨れてきて、口数も増えてきた。

 僕は2人との談笑に花を咲かせた。

 妹がそろそろ降臨の儀に赴くころだとか。本家ではどういうことをしているのかとか。お互いの近況を話したり、聞いたり。


 楽しい時間はすぐに過ぎるものだ。

 食事も一段落し、残す時間もわずかとなった。2人は今日はこの屋敷に泊まっていって、明日には本家の方に戻るらしい。

 そうなると、またしばしのお別れとなる。

 

 「グレイ?」

 

 少し憂鬱な顔をしてしまったからか、コルネリアが心配そうな声をかけてきた。僕は慌てて、笑顔を作る。

 

「なんでもないです。ちょっと考え事を」

「そう? ならいいのだけど」


 彼女の声には僕を案じる響きがある。ちょっと失敗したな。

 コルネリアは僕の顔を少し見つめた後、ポン、と手を打った。

 そして、扉の前の侍女へと声をかける。侍女はお辞儀をして外へと出て行った。


 「? どうかしたのですか?」

 「ふふふ。少し待ってて」


 いたずらっ子のように笑う彼女の言うとおりに暫く待っていると、ノックと共に扉が開いた。

 そこにいたのは本家から来た付き人たち。その中で手になにやら袋包みを持った侍女メイドが2人母のところまでやってきた。

 1つはフェリシアの背丈ほどもある大きな包み、もう1つは手のひらサイズの小包だ。

 それぞれ赤い包装で、リボンで飾り付けがされている。


 侍女たちは母にそれらの包みを渡すと退出していった。

 それを見届けた母が僕の方へと向き直る。

 

 「ふふふ、グレイ。十年の節目アルフ・ティアの贈り物よ」


 そう言って母は大きな包みを僕に渡してきた。受け取った贈り物はかなり重かった。何が入ってるんだこれ。


 「あー、お母さまずるい! フェリシアも!」


 フェリシアが母のところに行き、彼女から小さな包みを手渡してもらうと、その足で僕のところへとやってきた。

 手には小包み。フェリシアはにぱっと笑うと、僕にそれを渡してきた。


 「おにいさま! おめでとうございます!」

 「……ありがとう、フェリシア」

 

 あまりの歓喜に決壊しそうになる感情を制御しながら、僕は感謝の気持ちを口にした。

 

 「おにいさま! 開けてください!」

 「わかった、わかったよ」


 フェリシアにねだられた僕は、苦笑しながら大きな包みを椅子に立てかける。あまりに大きいから、持ったままでは袋を開けられない。

 まずは小さい包みから開けよう。

 リボンをほどくと、中には小さな箱が入っていた。箱を開ける。


 「わぁ、綺麗だね」


 入っていたのは金色に光り輝くペンダントだった。流麗な曲線と繊細な紋様、そこには高度な技術が使われているのが一目でわかる。

 

 「それはフェリシアが考えて、選んでくれたのよ」

 「……フェリシアが!」


 フェリシアを見ると、どこか得意そうに胸を張っていた。

 狂喜乱舞しそうになる心を必死に抑えて、僕はフェリシアを抱きしめた。妹の前では冷静で知的な兄でありたい。


 「おにいさま! つけてあげますね!」

 

 そう言って、フェリシアが背伸びをして僕の頭にペンダントをかけようとしてくる。ぷるぷるとしているフェリシアはとっても可愛い。吹き出しそうになるのを堪えながら、僕は頭をかがませた。

 フェリシアは自らペンダントを付けられて満足したのか、やり遂げたような顔をしてこちらを見上げてくる。僕は「ありがとう」、と彼女に言う。

 可愛いフェリシアに、によによとしながら今度は大包みのほうに向きなおった。


 「こちらは……母様が?」


 大きい方の包みに手をかけながら僕が言うと、コルネリアは肯定の頷きを返してくる。

 相変わらず大きい方の包みは重く、とても大きい。何が入っているのか見当もつかない。フェリシアもこちらの包みは何が入っているのか知らないらしく、僕にあけることを急かすように手を引いてくる。

 リボンをほどき、中身を取り出す。

 取り出したそれは――剣だった。

 

 刃渡り1m弱ほど直剣。子供にとっては少し大きいその剣は、上品な黒鞘に納まっている。鞘に触れると、それはやすりで懇切丁寧に磨き上げたような滑らかな肌触りだった。刀身に見がまうほどの色艶はまさしく名工の一品と呼べるものだろう。

 柄頭つかがしら、握り、つばと手を添えたあと、僕は鞘から剣を引き抜いた。


 剣身は総毛だつほどの白銀だった。鍔元から切っ先にかけての滑らかさはまるで流水のようだ。その切っ先は恐ろしいほどに研ぎ澄まされており、大岩をも貫きそうなたたずまいを感じさせる。一目見ただけで業物わざものだと直感した。

 

 とても、とても、すごい剣だ。

 だけど。だけれども。

 正直、この剣は今の僕にはあまりにも過ぎた代物だろう。年齢的にも剣の腕的にも。まだ扱えるような段階にはない。

 母はなぜこれを僕に渡そうと思ったのだろう? それとも十年の節目アルフ・ティアの贈り物はこう言った成人した際に使えるようなものを渡すのが一般的なのだろうか? 僕が母に目を向けると、彼女は微笑みながら僕に話しかけてきた。


 「グレイは剣が上手とバルザークから聞いてたから、剣にしてみたのよ」


 剣が上手と聞いたから贈り物は剣にした。理論としては納得できるものだが、それだけで10歳にこれほどの剣を与えるものか。しかし、僕の疑問は続く母の言葉で解決することになる。


 「バルザークがグレイならどんな剣も扱えるだろうって言ってたから、とびきりのものをお願いしてみたのだけど……どうかしら?」

 「…………」

 

 バルザークのせいだった。コルネリアは彼の言葉を一片も疑わずにこの剣を用意したらしい。……そういえば、コルネリアは僕のことを天才と思っている節があったのを思い出す。僕であれば、10歳にはハードルの高いものも扱えると思ったのだろうか?

 とはいえ、身体的に使えないものはさすがに厳しい。


 「本当は魔術関連のものも考えたんだけど……、その、グレイはちょっと、ね?」


 少しバツの悪そうにコルネリアが言う。魔術を使えない僕に魔術道具を渡しても、確かに無駄かもしれない。それにコルネリアは僕の魔術関連の事柄にひどく気を使う傾向にある。あれだけ小さいころから魔術に興味を持っていたから、今魔術が使えないことを気に病んでると思っているのだろう。だから、下手に魔術関連の贈り物をして僕を落ち込ませたくなかったのかもしれない。

 僕の反応があまり芳しくないからか、コルネリアが少し不安そうな顔をした。

 

 「その、あまり嬉しくないかしら?」

 「……いえ、とても嬉しいです! なんというか、あまりにすごい剣だったのでつい呆然としてしまって……」


 実際、僕はとても嬉しかった。自分を期待してくれて、最大限の贈り物をしてくれるというのは純粋に僕の心を満たしてくれる。それにコルネリアの贈り物は無条件で嬉しいものだ。

 あんまり剣が好きじゃないから、ちょっぴり感情が複雑なだけで。喜びの感情がないわけではない。

 僕は慎重に剣を鞘に戻した。


 ここまでの剣を貰ってしまったら、もう生半可な剣の腕じゃいられない。最低でもこの剣に相応しい技術を磨かないと。それに、僕はコルネリアの期待を裏切りたくない。

 一瞬、これも僕に剣をやらせようとするバルザークの策かと思ったけど、もうこの際なんでもいい。

 精霊術も剣も極める。もう、それでいいじゃないか。

 僕は改めてコルネリアフェリシアに感謝の言葉を伝えた。

 

 「母様、フェリシア、本当にありがとう」


 こうして僕の十年の節目アルフ・ティアは終わった。

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