16 クリアスカイの武器工房
16 クリアスカイの武器工房
大理石の通路を進んだ先には『武器工房』と札のかかった部屋があった。
扉を開けて中を覗いてみると、ムワッとした熱気が顔を包み込んでくる。
室内は武器を作っている工房のようで、タンクトップにエプロン姿のたくましい男の人たちが汗にまみれて仕事をしていた。
武器工房はグッドマックスにもあったけど、規模がぜんぜん違う。
グッドマックスの武器工房は掘っ立て小屋で、職人は親方含めて3人ほどで、設備もちいさな窯と金床があるだけだった。
しかしクリアスカイの武器工房は中に住めそうなほどの大きな窯がいくつもあり、金床も床に作り付けられた台座のようにしっかりしている。
職人の数にいたっては、両手両足の指でも数え切れないほどだ。
SSSランクギルドの武器作りというのはどんなものかちょっと興味があったけど、仕事の邪魔をしちゃ悪いと思い、ネズミのように素早く部屋を横切る。
そのまま、裏口から外に出ようとしたんだけど……。
「だ……ダメだぁーーーーっ!!」
工房の親方らしき大柄な男の人が、頭を抱えてガックリとヒザをついていた。
その人は職人たちのなかでもひときわ身体が大きくガッチリしていて、浅黒い肌にハゲ頭と、職人というより山賊みたいだった。
汗で光る頭を抱え、クマのような大きな背中をよじらせて喚き散らしている。
うなだれた先には金床があって、真球のような丸さの鉛色の球があった。
「せっかくダマスカスライムの素材が手に入ったのに、硬すぎる! 硬すぎるんじゃぁぁぁーーーーっ!」
まわりで見ていた部下の職人たちが、わらわらと集まってくる。
「親方! こっちも同じです! 交代でひと晩中叩いてみたんですけど無理でした!」
「こっちはいろんな薬品を試してみたんですけど無駄でした! こんな硬い金属は初めてです!」
「この調子でやってたら明日の朝どころか、新しい武器ができるまで何年もかかっちゃいますよ!」
「もう、悠長に試してる場合じゃないです! アウトゾンデルックが閉じるまで、あと5日しかありません!」
「親方! こうなったらダマスカス鋼はあきらめて、別の金属で武器をこさえましょう! それで行ってもらうしか……!」
職人たちから決断を迫られても、親方はダマスカス鋼の加工をあきらめきれない様子だった。
「ああ! エイトの小僧はプレッツェルをくれてやっても行くだろうさ! 俺様ならこれでじゅうぶんだ、ってな! だがそれは死ねって言ってるようなもんなんだよっ!!」
親方は、エプロンのポケットから刃が折れた剣を取りだした。
あの剣はたしか、エイトさんの……。
「こいつを見てみろ! 一級の魔法金属をなんとか手に入れて、苦心して打った、ワシの最高傑作の剣だ! それが棒っきれみてぇに折れちまったんだぞ! ってことは、アウトゾンデルックの攻略にはダマスカス鋼の武器が絶対必要なんだよっ!」
半狂乱になって叫ぶ親方に、部下の職人たちはどうしていいのかわからない様子だった。
ダマスカス鋼の武器を作りたいのに、加工には三ヶ月もかかる。
しかしそれだと、アウトゾンデルックが閉じるまでにできあがらない。
しかも他の金属の武器じゃ代用できないとなると、八方塞がりじゃないか。
「小僧どもは、命をかけて最悪の
親方はとうとう男泣きをはじめる。
しばらく職人たちからなだめられた後、ダマスカス鋼の加工をあきらめてしまった。
泣きながら、別の金属を火床にかける親方。
さっきまであんなに大きかった背中は、いまはとても小さく見えた。
とても見ていられなかったので、僕はつい声をかけてしまう。
「あの、すいません……」
職人たちが一斉に僕を見る。親方は作業の手を止めて、ギロリと僕を睨んだ。
親方は不機嫌そのもので、ただでさえ迫力と貫禄のある顔が、地獄の鬼みたいになっていた。
「なんだぁ、坊主……?」
「えっと……僕、
「エンチャントだとぉ? このクリアスカイには
ステータスが100ポイントも上昇するなんて、ものすごく有り難いんじゃ……と以前までの僕なら思っただろう。
でもエイトさんやママリアさんにエンチャントをしてから、その考えは変わっていた。
筋力1280のエイトさんや、信心1514のママリアさんには、100ポイントのエンチャントでは上昇率は1割以下だ。
でも、僕なら違う……!
「お願いです、ダメ元でやらせてもらえませんか? 他に手が無いのなら、エンチャントを試してみてもいいでしょう?」
しかし、にべもなかった。
「ダメだダメだダメだ! こっちは明日の朝までに武器を仕上げなくちゃならねぇんだ! ガキのお遊びに付き合ってるヒマなんかねぇ! とっとと出てけ!」
「そんな、だったら仕事を手伝わせてもらえませんか!? お願いしますっ!」
「それもダメだっ! ……と言いたいところなんだが、こちとら猫の手も借りたいくらい忙しいんからなぁ……。う~ん、そこまで言うならしょうがねぇ、手伝わせてやるよ。だが、仕事の邪魔をしたら叩き出してやるからなっ!」
土下座までしてようやく、僕は親方の鍛冶を手伝わせてもらえることになった。
僕はやらなきゃいけないことがあるのに、こんなことしてる場合じゃないのに……。
たぶん、夢でグッドマックスでの武器工房の出来事を思い出しちゃったせいだろう。
だからどうしても気になっちゃったんだ、クリアスカイの職人たちのことが。
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