14 ギルド長のロートルフ
14 ギルド長のロートルフ
「はっ!?」
と飛び起きた僕は、見知らぬ部屋にいた。
しかも、パジャマを着てベッドに寝かされていて、あたりを見回すとベッドがいくつも並んでいる。
近隣のベッドには、見覚えのある顔が横たわっていた。
両隣にはエイトさんとシトラスさん。
エイトさんは狼のアップリケがちりばめられたパジャマで大の字でぐーすか寝ていて、シトラスさんはリボンがいっぱい付いたパジャマで胎児のように身体を丸めてすやすや寝ている。
正面にはレインさん。
レインさんは着ぐるみのようなパジャマでフードを深く被っており、身体を起こした体勢でじっと僕を見つめていた。
僕はおずおずと尋ねる。
「あの……ここは……どこですか……?」
レインさんは独り言のようにぼそりとつぶやく。
「クリアスカイの療養室」
僕はすぐには信じられなくて、レインさんの言葉をそっくりそのまま繰り返していた。
「く……クリアスカイの療養室!?」
『クリアスカイ』といえば、魔王を倒したSSSランクギルドじゃないか!
いままで僕の頭のなかには、いくつものパズルのピースが散らばったままになっていた。
魔王を倒したあとに出現するという
その最初のルームガーダーであるダマスカスライム。
伝説のスライムと渡り合うエイトさん、シトラスさん。
軍隊をも全滅させるほどの攻撃から、僕を守ってれたレインさん。
最高級のポーションを惜しげもなくくれたママリアさん。
いままで彼らは何者なんだろうと、ずっと疑問に思っていた。
でもまさか、まさか……世界最強のギルドの面々だったなんて……!
冒険者ギルドというのは1ランク違うだけで、平民と領主くらいの格差がある。
Fランクギルドだった僕にとっては、SSSランクギルドの彼らは神様同然だ。
そ……そんなすごい人たちとともに戦っただけじゃなく、同じ部屋で寝ているなんて……。
僕は、とんでもないことをしでかしてしまった……!
ショックがショックを呼び、突き上げてくるような衝動が蘇ってくる。
そうだ、忘れてた!
僕は二重の意味で、こんなところで寝てる場合じゃないと思い立つ。
急いでベッドから降りようとしたんだけど、ガチャリと音がして首が締めつけられる。
首に手を当ててみると犬用の首輪が付いていて、鎖の引き綱でベッドの脚に繋がれていた。
「ああっ、なにこれ!?」
まさに他人事のような表情のレインさんが教えてくれる。
「エイトがやった」
「そ、そんな!? これじゃまるで犬じゃないですか!」
そういえばエイトさんは僕を殴って気絶させる直前に、俺様のペットとかなんとか言っていた。
「じょ……冗談じゃない! 僕は行かなくちゃいけないんだ!」
なんとか外そうとしたけど、鎖には錠前が掛かっている。
カギはどこかと探したら、エイトさんのベッドの支柱にカギ束が掛かっているのを発見。
しかし僕のいるベッドからは反対側の支柱にあり、鎖で拘束されているせいで手を伸ばしても届かない。
僕はレインさんに手を合わせた。
「お願いです、レインさん、あのカギを取ってもらえませんか!?」
「それはできない」と即答が返ってくる。
「なんでですか!? あ、もしかして、まだケガが酷くて動けないとか……?」
レインさんは幼い子供みたいに、ふるふる首を左右に振った。
「エイト風に言うなら、もうピンピンしてる」
「なら取ってくださいよ!?」
「カギを外したら、ボンドはどこに行くの?」
「決まってるでしょう、アウトゾンデルックです!」
「だから外せない」
「どうしてですか!? も……もういいです! んもぉ~~~っ!」
僕は問答をしている時間も惜しいと思い、獣医に行くのを嫌がる犬のように踏ん張ってカギ束に手を伸ばす。
首輪が締まって窒息しそうになったけど、それでもめげずに。
ふと部屋の扉が開いて、ママリアさんが入ってきた。
「きゃあ!? ボンドさん、早まらないでくださいっ!」
僕の顔がピンク色になっているのを見て、ママリアさんは絞首自殺を図っているのだと誤解した。
僕はもう返事もできないほどに首が絞まっていたので、パントマイムでカギを取ってくださいと伝える。
ママリアさんはすぐに僕の要求を理解してくれて、カギ束を取って錠前を外してくれた。
「まったくもう、エイトさんの仕業ですね。病人さんを首輪で繋ぐなんて、起きたらうんと注意しないと。それよりもお身体の具合はどうですか、ボンドさ……」
ママリアさんの心配を振り切るようにして、僕は部屋の外に向かって走る。
「あっ、ボンドさん、どちらに!?」
「お世話になりましたっ! このご恩は一生忘れませんっ!!」
廊下に飛び出て、ふかふかのレッドカーペットを駆け散らす。
おそらくここはフォールンランドのどこかにある、クリアスカイの本拠地なんだろう。
さすがSSSランクの冒険者ギルドだけあって内装が豪華で、お金持ちの屋敷みたいにやたらと広い。
廊下の窓から見える外の景色から、僕はいま2階にいるというのがわかった。
というわけで大階段を見つけて駆け下り、エントランスを走り抜け、両開きの玄関扉を目指す。
しかしちょうど扉を開けて出てきた人と、勢いあまってぶつかってしまった。
その人はいかにも頼りなさげな見た目だったのに、突き飛ばしてしまうどころか僕のほうが倒れてしまう。
「あっ、ご、ごめんなさい!」
尻もちをついたまま見上げた先には、白髪のオールバックにくたびれたサーコートを着た男の人がいた。
年の頃は初老っぽいけど、ひどい猫背のせいで老けて見える。
顔は落ち着いているというよりもちょっと気弱そうで、無数ついている傷が痛々しい。
まるで年老いた負け犬のような印象の人で、その人は僕を見るなりノンキに口を開いた。
「おやおや、キミはたしか、ボンドくん」
「えっ、僕のことを知ってるんですか?」
「ママリアさんから聞いていますよ。ダマスカスライムを倒すのを手伝ってくれたそうですね」
僕はたしかに手伝ったけど、エンチャントをした程度だったので曖昧な返事を返す。
「あ、いえ……僕は、べつに……。ところで、あなたは?」
「私はここのギルド長、ロートルフです」
「ぎ、ギルド長!?」
グッドマックスでは班長までとしか話したことがなかった。
ギルド長ともなると雲の上の存在で、ギルドの中で会ったら言葉を交わすどころか、目を合わせないようにひれ伏さないといけなかった。
慌てて土下座しようとしたけど、ロートルフさんは僕が立てるようにと手を差し伸べてくれた。
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