第28話 ユリヤンとの再会
晴れてC級冒険者になった。
お金も着々と貯まっている。
ということで、またお祝いの飲みに行くことにした。
しかし前回、1人で飲んで少し寂しい思いをしたので、今度はユリヤンを誘うことにする。
魔術学院の入学金無料の話も、ついでにお願いしよう。
翌日。
アバロンの中心にどっしりと鎮座する、アルシュタット城へとやってきた。
近くで見ると本当にでかい。
てっぺんの塔からは、街が一望できるのだろう。
目の前には分厚い城門。
その正面には2人の兵士が、微動だにせず直立している。
あれ、場違い感が半端じゃないけど、大丈夫かこれ?
曲者! 出会え出会え! みたいなことにならないだろうな。
「……あのー」
「むっ、何だ貴様は。城に用か」
話しかけた瞬間、スッと剣柄に手を置かれた。
怖い。
「えーっと、ユリヤン……様にお目通りをお願いしたいのですが……」
「貴様、名前は?」
「ハジメです。ハジメ=タナカ」
兵士は2人でじろじろとこちらを見て、ぼそぼそと話し合ったあと、急に相好を崩した。
「失礼いたしました。ハジメ様ですね。
殿下よりお話を承っております。どうぞこちらへ」
急に態度を変えられても、逆に怖いわ。
俺は兵士に案内され、城門をくぐった。
絢爛豪華な部屋の数々を横目で見つつ。
長いこと歩かされてようやく目的地へとたどり着いた。
兵士は目の前の扉をノックする。
「殿下。ハジメ=タナカ様をお連れしました」
兵士が言うと、中から「入れ」と聞こえた。
兵士に促されて扉を開ける。
中では、ユリヤンが本を読みながら飲み物を飲んでいた。
広い部屋だ。
ユリヤンがついている机とは別に、来客用のソファとテーブルが置いてある。
花瓶や絵画が飾られ、調度品の一つ一つにセンスの良さを感じさせる部屋だった。
「よう。ハジメ。久しいな」
ユリヤンが振り返って言った。
ブロンドの髪がサラリと流れる。
相変わらずのイケメン野郎だ。
「……お前、本当に王子様だったんだな」
「なんだよ、信じてなかったのか?」
「ああ、こんな下品な王子様が、存在するわけないと思ってたからな」
「俺だって、こんな典型的なおのぼりさん、いるわけないって思ってたよ」
軽口を言い合うと。
一瞬にして、旅をしていた頃の感覚が蘇った。
懐かしい。
コンコン、とノックの音。
「入れ」
ユリヤンが言うと、扉から入ってきたのはメイドさんだった。
飲み物とお菓子を運んできてくれている。
それらをいただきながら、しょうもないやり取りをしつつ、しばし思い出話に花を咲かせた。
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「しかしアレは傑作だったな。どこだったか……そう、テグスの街の宿屋だ」
「俺たちの部屋に、おっさんが怒鳴り込んできたやつだろ。『お前らがヤッてる声がうるさくて眠れねぇ!』って言ってな」
「それだ。扉を開けて、ハジメが『なんなら混ざりますか?』って言ったんだよ。ははっ。あの時のおっさんの顔は傑作だった」
「うるさかったのは結局、廊下挟んで反対側の部屋のやつらだったよな」
「ああ。こっちにも響いてたからな。おっさんがあんな口調じゃなきゃ、味方になれたんだが」
ひとしきり笑って、ユリヤンは一息ついた。
さりげなくメイドさんが入ってきて、飲み物を注ぎたしていく。
俺はそれを口元へ運ぶ。
ふわりと甘い香りがした。
この世界における紅茶だ。
カシーよりも希少で高価なのだそうだ。
銘柄は知らないが、高いだけあって、飲むとホッとするような、優しい味がする。
ユリヤンも合わせて飲み、おもむろに時計を見ると、ハッとした表情を作った。
「……っと、そろそろ時間だ。
悪い。これから会議なんだ。
ここに来たのは、魔術学院への口利きの件でいいんだよな?」
「ああ。頼めるか?」
「当たり前だろ。もともとこっちから言い出したことだ。
ただ、入学金だけだからな?
あとの費用は自分で何とかしてくれ」
「分かった。助かるよ」
ユリヤンは机に向かうと、高級そうな紙にサラサラと何事かを書き、印鑑を押した後、封筒に入れて俺に寄越した。
「学院へ行って、これを見せれば通るはずだ」
「ありがとう、ユリヤン」
「礼には及ばない。
俺も体面上は、地方に埋もれた人材を探しに行くってことになってたからな。
お前が魔術学院に入ってくれれば、少しは面目が立つ」
そうは言うものの、ユリヤンは入学を強く勧めることはしなかった。
そう思うとこの言い草も、俺に恩を感じさせないための気遣いのように感じる。
だがまぁ、それを指摘するのは野暮というものだろう。
「そうか。
それなら、お前が困ったときは相談してくれ。
何か手助けできるかもしれん」
まぁ、俺にできて王子様にできないことなんて、想像もつかないが。
「分かった。またな、ハジメ。話せて楽しかったよ」
しかし俺の発言を侮る気配など微塵もなくそう言って、ユリヤンは部屋を出ようとした。
あ、いかん。
「待った。まだ用件が1つあるんだ」
「なんだ?」
訝しげな顔でユリヤンがこちらを見る。
「今夜、久しぶりに飲みに行かないか?」
―――――
その後、会議が終わるのを待って、ユリヤンと街に繰り出した。
ユリヤンも、なんやかんやで鬱憤が溜まっていたらしい。
ニヤリと笑い、「親父には内緒だぜ?」と一言。
王族にしか伝わっていないという抜け道を通り、城門の外へ抜け出してきた。
影武者を置いてきた、とのことだ。
そんなものまでいるのか。
落ち合った後は、浴びるほど酒を飲んだ。
せっかくなので前に行ったバーを紹介すると、ユリヤンも知っていた。
というか、アバロンでこいつが知らない店は、もしかしたら存在しないのかもしれない。
途中で隣の席の女の子が声をかけてきたが、いつになくユリヤンにその気がなかった。
地元でうかつに手を出すとまずいからな、などと言っていたが、どうだろうか。
俺は正直、今日はユリヤンと2人で飲んでいるのが、一番居心地がよかった。
さすがに2か月も人と話してないと、大人数での会話は疲れそうだ。
俺のそんな気配に気づいていたのかもしれない。
ユリヤンは、あと半年ほどアバロンにいるそうだ。
それからは、前にも言っていた通り、魔族との戦争の前線に行くという。
まぁ、1000年間停滞中の前線だが。
C級冒険者になったと知らせたら、ワインっぽい酒のボトルを1本おごってくれた。
その酒がかつてないほど美味しく、こっそり値段を見たら銀貨1枚だった。
少し高いが、名前を覚えて家に置こうと決めた。
店を3軒ハシゴし、俺もユリヤンも完全に酔っぱらって、夜明けも近くなった頃。
どちらからともなく、お開きにすることにした。
「楽しかったぜ。ハジメ。またな」
そう言って、ユリヤンは歩いていった。
……俺も楽しかった。
アバロンに来てから、一番楽しい夜になった。
よし。気分が晴れた。
明日からまた、魔物狩りの毎日だ。
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