第26話 D級クエスト

 さて、ついにD級クエストに挑戦する。


 しかしその前に、1つお金を節約する方法を思いついたので、先にそちらを片づけることにする。

 何故今まで考えなかったのか。

 冒険者は宿に泊まるものだと思い込んでいた。


 宿に泊まらない方法。

 そう。賃貸契約を結んで、部屋を借りればいいのだ。

 賃貸アパートだ。


 そう思って街をぶらつくと、普通に貸し物件の店が見つかった。

 契約時に保証金として3か月分の家賃を渡せば、誰でも物件は借りられるようだ。

 何事もなく契約が終われば、渡したお金は戻ってくる。

 つまり敷金だな。

 礼金はいらないらしい。


 目星をつけた部屋の広さは8畳間くらい。

 家賃はひと月(38日)銀貨5枚。


 宿は1日に大銅貨3枚だから、ひと月で銀貨11枚ほど。

 なんと半額以下だ。

 万歳、と思ったら、保証金を全く用意できなかった。

 かき集めても銀貨10枚に満たない。


 仕方ない。

 しばらくは現状維持で、金がたまったら引っ越すことにしよう。

 荷物はリュック1つなので、貯まったその日には引越し可能だ。


 とりあえず、金を節約できる目処がたってよかった。




 ―――――




 さて、冒険者ギルドへとやってきた。

 初めてのD級クエストだ。

 E級よりも実践的なものが多くなっている。

 どれにしたものか。


 あまり、知識が必要そうなものはやめておきたい。

 毒のある植物の採取などは、扱いを誤って取り返しのつかないことになったりしそうだ。

 毒がなくても、発見すること自体に経験が必要そうな依頼も却下。


 となると、やはり討伐依頼か捕獲依頼がいい。

 目的地に行って、魔物を倒して任務達成。

 そんなのが理想的だ。

 まぁ、依頼の大半はその類なので、選ぶのに困ることはない。


 妥当なのは、このあたりだろうか。


<キャタピラー討伐 タゴヤ村 銀貨2枚>


 キャタピラーとは、芋虫が巨大化したような魔物だったはずだ。

 毒などは持っておらず、特殊なことといえば口から糸を吐くこと。

 その程度なら、なんとかなるだろう。


 そう軽く考え、依頼を剥がし、受付へ持って行った。


「受け付けました。こちらが資料になります。お気をつけて」


 何枚かの紙を渡された。

 地図や、キャタピラーの特徴についての記事、状況のあらましなどが書かれている。

 タゴヤ村へは、乗合馬車で2時間ほどかかるみたいなので、行きすがら読むことにしよう。



 アバロンの周辺には、農村が広がっている。

 フラーの果実くらいしか育てていないアバロンへ、食物を運んでくれる村たちだ。


 しかし城壁に守られていないその村々では、やはり魔物の被害に遭うことが多い。


 基本的に、魔物は森から出てこないとされるが、何事にも例外はあるようで。

 たまに人里に出てきて悪さをするやつが出現する。

 そんなときに派遣されるのが冒険者というわけだ。

 依頼の人気がなく、余りにも受諾されない場合は、仕方なく王宮から騎士が派遣されるらしい。



 今回の依頼は、村の倉庫にキャタピラーが住み着いてしまったというものだ。


 最初に発見した農夫は、そいつにやられて重傷を負ったという。

 村人は倉庫に近づけなくなってしまい、怯える日々を送っているそうだ。


 なんだかゴブリン狩りと違って、求められてる感じにテンションが上がるな。

 もちろん無事に退治できてこそだろうが。


 ちなみにキャタピラーの胴体には糸を作り出す臓器があり、その部分は、ギルドに持っていけば幾ばくかの金になるらしい。

 余裕があれば狙っていきたい。



―――――



 村に到着した。


 畑ばかりで、のどかな感じだ。

 ギルドの規約にのっとり、まずは依頼人のところへ向かう。

 村内の地図も載っている。村長の家には印がしてあった。


 ベルを鳴らすと、村長の奥さんらしき人が出た。


「すみません。ギルドから派遣されてきた者ですけど」

「まぁ、よく来てくださいました。どうぞ」


 客間に案内された。

 少し待たされた後、50歳くらいだろうか、白髪のおじさんが入ってきた。


「ようこそおいでくださいました。私がこの村の長です。本日はよろしくお願いいたします」

「冒険者ギルドから派遣されました、ハジメといいます。よろしくお願いします」

「では早速、ご案内してもよろしいですか?」

「はい。お願いします」


 そんな会話の後。

 20分くらい歩き、小屋に到着した。

 万が一があるといけないので、村長には家に戻ってもらう。



 さて。

 ……めちゃくちゃ緊張してきた。


 キャタピラーを見るのは初めてだ。

 大きさは2mくらいあるらしい。

 村人がやられるくらいだから、素早いのだろうか。

 果たしてうまく退治できるだろうか。


 小屋に近づく前に、脳内作戦会議をする。

 作戦は重要だ。

 孫子とかいうえらい人も、戦う前に勝負は決まると言っている。


 使う魔術は、エアスラッシュ。

 ゴブリン退治で一番使った魔術だ。

 小屋のドアをあけ、キャタピラーを視認したら、即座に詠唱する。


 ドアのすぐそばにいる可能性もある。

 距離が近いと、やられてしまうかもしれない。

 開けた瞬間に襲ってきたら、後ろに跳びながら詠唱しよう。


 糸を吐いてくるかもしれない。

 無視して詠唱することにする。

 糸に致死性はないらしい。

 避けずに、狙いを定めることを優先しよう。


 1発目が外れるかもしれない。

 外れても、すぐに次を撃つ。

 とにかく撃つ。

 自分に危険が迫らない限り、エアスラッシュでいい。


 天井に張り付いている可能性もある。

 芋虫っぽいやつならできてもおかしくない。

 開けてパッと見でいなかったら混乱してしまうだろう。

 床に居なければ壁や天井をすぐに探そう。

 見つけ次第、エアスラッシュだ。


 芋虫から蝶に進化してる可能性なんてのも、あるのだろうか。

 万が一そんなことがあったら、エアスラッシュが当たらないかもしれない。

 その時はファイアを広範囲で使おう。

 小屋が燃えてしまうが、小屋に気を使ってやられては元も子もない。

 一瞬の覚悟の差が勝敗を分けるかもしれないのだ。



 ……よし。こんなところだろう。

 アイデアは出し尽くしたように思う。

 あとは実戦あるのみだ。


 小屋のドアの目の前まで来た。


「ふぅー」


 心臓がバクバクする。

 あと3つ数えたらドアを開けよう。


「いち、にの……さんっ!」


 ドアを開く。

 どこだ?

 ……いた! 小屋の隅で丸まっている。


「エアスラッシュ!」


 叫んだ瞬間、キャタピラーはこちらに気づいた。

 しかしその直後には、その体は真っ二つになった。


「ギィィィィ!」


 断末魔が聞こえる。

 嫌な音だ。


 キャタピラーは、液体を撒き散らしながらバタバタともがいた後、すぐに事切れた。

 イモムシよりは、機敏そうな印象だった。

 行動される前に倒せて良かった。


 魔術で水をかけても、動かないことを確認。

 緑色の液体にまみれた胴体を恐る恐る持ち、小屋の外に出した。

 腹からナイフを入れて、糸を作る臓器とやらを探す。

 これだ。白い袋状のもの。少しベタついている。

 案外簡単に見つけることができた。

 魔術で凍らせて、リュックに入れる。


 よし。任務完了だ。

 まぁ、スムーズに遂行できたと言えるだろう。



 ―――――



 その後、村長に小屋の様子を確認してもらい、依頼達成のサインをもらった。

 ついでに、重症を負ったという村人に治癒魔術をかけようかと思って探したら、すでにアバロンで治療したらしい。



 馬車に揺られて、アバロンへと帰る。


 冒険者ギルドで、取ってきた臓器と依頼達成のサインを渡した。


「確かに承りました。では、報酬、糸造器の買い取り代金、必要経費を合わせたものです。ご確認ください」


 銀貨2枚と、大銅貨8枚を受け取った。

 報酬が銀貨2枚、往復の馬車代が大銅貨2枚だから、内臓の値段は大銅貨6枚か。

 常時依頼と違って、移動費も出してくれるのが嬉しい。


 1日の稼ぎとしては、ぶっちぎりで最高記録だ。


 しかしゴブリンと違って、近づかれたらどうなるか分からないというのは、少し恐ろしかった。

 小屋に入る前は、正直かなりビビった。


 ……とはいえ。

 振り返ってみれば、それほど危険はなかったといえるだろう。

 万一ケガを負っても治癒魔術がある。


 ……うむ。

 方針はそのままだ。

 この調子で、Dランクのクエストをこなしていく。


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