12:不審者の話

 オレの目の前には、実に怪しい光景がある。

 階段を上ると、一人の女子生徒が左側の廊下を隠れるように覗き込んでいた。ゆっくりと、その女子生徒と重なるように移動しオレもそちらを覗き込む。そのさきには、オレがよく知っている生徒が一人歩いていた。

 どこか凛とした雰囲気を持つ、スレンダーな黒髪の美少女。

 我が幼馴染み、刺崎とげさき光樹みつきである。

アオハル「アンタ何してんの?」

女子生徒「ひゃぁっ!?!?!」

アオハル「危なっ!?」

 振り向きながら打たれる高速の裏拳を喰らいそうになり、ギリギリで避ける。ご褒美にしてはさすがに火力が強すぎる。

「ん?なんだなんだ?」

「不審者か?」

 女子生徒の悲鳴に周囲の視線が集まる。

「あそこか?」

「いや、月共だな。」

「じゃあ不審者じゃん。」

アオハル「おいゴラ。オレのどこが不審者だ。清廉潔白の正義の善人だろォが。」

女子生徒「っ!!」

アオハル「あっ、待て!廊下走んな!!」

 階段を下り逃げていく女子生徒を、早歩きで追いかける。

「ほら不審者じゃん。」

 上からそう呟く声がちらほら聞こえた。

光樹みつき「…?なんの騒ぎかしら…」


女子生徒「くっ…」

アオハル「追い詰めたぞ…」

 つっても、階段降りてすぐの陰なんだけどな。

アオハル「こそこそと刺崎とげさきになんのようだ?」

女子生徒「うっ!な、なんのことですか?私はたまたまあそこで休んでただけで…」

アオハル「あ~、そう。」

女子生徒「そうです!か、勝手に勘違いして…」

 抑揚がバグってる状態でそう話す女子生徒。

アオハル「そっかー。失礼した。」

女子生徒「では私はこれで…」

 と言いながら女子生徒は去っていた。

 特にないというのであれば、わざわざ聞かなくても良いのかもしれないが…

アオハル「…じゃあオレは刺崎んとこ行こ。」

 階段を上りながらそう呟くと、背後から凄い勢いで足音が聞こえる。そして次の瞬間、束ねた後ろ髪を捕まれる。待って、クソ痛い。

女子生徒「あ、あなた…彼女とどうゆう関係…?」

 髪は離されたが、今度は反り返った姿勢のまま首を両手で捕まれながら尋問される。待って、クソ辛い。

女子生徒「あなた、彼女をどうするつもり……!」

アオハル「く、首、首っ、首がっ…死ぬっ…くび…」

 何て聞かれても、答えられる状態じゃない。

女子生徒「し、死ぬほど首ったけ…ですって!!!?」

 違う。いや、それは別に合ってるけど、今オレが言ってることは違う。

女子生徒「って…あなた…!刺崎さんにいつも引っ付いてるクソ男…!!」

 認識エグいなどうなってんだ。てか待って、そろそろ意識が飛ぶ…

女子生徒「っ…あれ?あの、平気?」

アオハル「……」

 意識が朦朧とする中、階段の上から聞き覚えのある足音が近づいてくるのが聞こえる。

幸舞ゆきま「おや、アオハルじゃないか。」

アオハル「場所変えんぞ。」

女子生徒「えっ…」

 王子様のお陰でオレの意識は完全復活し、女子生徒の手を取りその場を急ぎ足で離れた。

幸舞「う、うぅん……なんだったのかな……?」

 急に会ったと思ったら、急に逃げられた幸舞は困惑と孤立感を覚えた。


 この前の空野そらのとの食事のあとの記憶が頭を過る。

幸舞『はははっ、アオハル。誰とどこに行ってきたのかな?僕、すごく気になるな。』

ネオ『先輩先輩!どこ行ってたんすか!今度ウチともそこいきましょー!』

 グイグイ来て答えるまで腕捕まれた。

 なんだよあの二人オレのこと大好きかよまったく。仕方ねえな~、オレも大好きだぞ。

 先輩二人はしれっと帰ったし、姉さんと水治みはるはそそくさと部屋に戻るし(鍵閉めやがったし)。

 でも流石に急に逃げるのは良くなかっただろうか…

アオハル「って、今はこっちか。」

 先ほどの女子生徒は、警戒心マックスでこちらを見る。

女子生徒「あ、あなた!彼女にまで毒牙にかけたの…!?」

アオハル「かけられてんの。」

 というかオレの牙が毒?完全回復のポーションだろうが。

アオハル「で、なんのようだったんだ?」

女子生徒「っ……あ、あなたには関係」

アオハル「あるんだなこれが。」

女子生徒「なんで…!」

 なんでと言われても。理由なんか決まっている。

アオハル「刺崎はオレの幼馴染みであり大事な友達だ。悪いことなら邪魔するし、良いことなら手伝うさ。」

 オレの言葉を聞くと、女子生徒は徐々に強ばった表情をといていく。

 そして恐る恐る口を開く。

女子生徒「ほ、ホントに…彼女の…友達…?」

アオハル「うん。」

女子生徒「……悪いことじゃないなら、私のこと手伝ってくれる?」

アオハル「おん。」

 女子生徒は、少し悩み、秘めていた言葉を言い出そうとしたり、また閉じたりした。大きく息を吸って、まっすぐな視線でオレを見る。

女子生徒「わ、私の名前は照内てらうち友結ゆうゆ。」

アオハル「オレは月共アオハルです。」

 照内は、もう一度大きく息を吸ってから続きを口にした。

照内「私は、と、刺崎…さんの……!」

アオハル「…」


照内「刺崎さんの!友達になりたいのよ!」

アオハル「……えっ。」

 疑う必要なんかないくらい大きな声で叫んだのに、オレは自分の耳を疑った。

 そしてその大きな声にまた周囲の視線が集まり、オレは再び周囲から不審者扱いされた。

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