2-27:東都の夜は明るく、長い

東都の一室。

グリーンに貸し出されたその一室には3つの人影があった。


「そういうわけで、勝利おめでと~!フフフ。祝勝会ってやつだね!」


アマリリスがシャンパンのようなビンを片手にそう言うとグリーンと肩を汲もうと接近する。


「やめろ……!またそうやって狙ってるんだろう!?」


グリーンは自分の口元を抑えながらアマリリスのそれを躱す。


「グリーン……お前と最初にキスするのは俺様だと思ってたんだがな……まさかそんな趣味があったなんて!」


セレブリーの大げさなフリでふざけているだけなのはわかるが、それでも腹立たしいことこの上ない。


「大体、友達になりたいんじゃなかったのかよ!?なんでキスしてんだお前は!」


「フフフ……世界的にはキスを友人とするのもおかしい事ではないのだろう?友達同士、親愛のキスってやつさ!」


「友達が舌まで入れるか馬鹿!」


「……なぁ、さっさと反省会済まさねぇか?それにクロヌリが死に際に言ってたセリフが臭いって言ったのはグリーンだろ?」


「“……我らが女王はここまで読んでいた、か……流石、我が女王だ。”って言って死んだクロヌリは絶対に何か聞いていたはずだ。キリキリ話せよアマリリス?」


グリーンはアマリリスを睨みながら自身の疑問をぶつける。


「そもそも君たちは今回の侵攻の目的について気付いていたかい?」


アマリリスはそう切り出した。


「それはイベントのフレーバー的な意味じゃなくて、アマリリスの目的ってことだよな?」


「そうだね。イベント的には南都を滅ぼすのが目的だったけど、それとは別に私の目的があった。」


アマリリスはクッキーを一つつまんで話し始めた。


「今回の侵攻の肝は二つ。一つはグリーンのクエストの達成、そしてもう一つはクロヌリのスキルのCスキル化だよ。」


「あぁ?つまり俺様だけじゃなく、クロヌリもグリーンのために動いていたってことか?」


「順を追って説明しよう。本来このイベントは弱体化したオクタディア一人とプレイヤー達による戦いであって、時間ギリギリでオクタディアを倒せるバランスになっていた。」


アマリリスがクッキーの袋を手元に寄せながら続ける。


「あぁ、それはわかるぜ?グリーンも言ってたがクロヌリが結構耐えてたのに驚いたからな。」


「そう、つまりクロヌリが耐えている間に私たちにとってどれだけ有利な結果を出せるかがこの侵攻イベントの肝というわけだ。」


「アマリリス。アタシのクッキー取りすぎだろ。少し返せ。」


クッキーを取り返したグリーンにアマリリスが続ける。


「私にとって、グリーンの生存とグリーンのユニーククエストの達成を一つのゴールとして定めた。その為にグリーンには軍団長の役目を与えて戦闘を避けさせたんだ。」


「それが俺様とやった南側からの奇襲だな?俺たち二人だけだから戦力もほとんど割かれなかったし、ほとんど安全な状態で1000人斬りを達成したってわけだ。」


「その通り、見事ユニーククエストを達成したうえにおまけで“殺人鬼”のユニーククエストも終わっただろう?」


「……だが後はクロヌリが負けてグリーンを血眼になって探す奴らから逃げるだけだったはずだ。どうして俺様達はクロヌリの元へ行かされた?」


「それこそがグリーンへのCスキル譲渡を目的とした一連の流れさ。二人がいくら邪魔立てしてもクロヌリがやられる可能性は十分にあった。そこで傍に軍団長であるグリーンが居ればせめてCスキルとしてクロヌリは力を与えて死ぬ。ただオクタディアをやられるだけでは割に合わないからね。だから多少のリスクを負ってでもクロヌリの元へ二人を行かせたんだ。」


「クロヌリは死ななかった可能性もあったと……?」


グリーンはなぜこんな言葉が出てきたのか自分でもわからなかった。

まるでクロヌリもまた、一つの命であるかのように思っていたことを見透かされているようだった。


「フフフ。アオバはなかなか、いい子だね。私たちのようなAIにもまるで人間のように接してくれる。とてもやさしい子だ。」


アマリリスはするりとグリーンの傍に寄り添うように座ると軽くグリーンを抱いた。


「これからも一緒に頑張ろうね、アオバ。」


それをポテトに手を突っ込みながら見るセレブリーは細い目で言った。


「お前らもう結婚でもなんでもしろよ。満更じゃねぇだろ?」


「うるせぇよ!」


東都の夜は明るく、長い。

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