2-25:黒い彼岸花

「私はミュラークイーン・アマリリス。デスティアの楽園、東都が女王。そして君たちの言う“ラスボス様”よ!」


その言葉にプレイヤーの反応は様々だった。

一億円の賞金首、今ここで倒さんと目を輝かせるもの。

イベント失敗という結果を理解して絶望したもの。

そして渋々と言った表情で歩いてきたもの。


「アマリリス。もう戦闘は終わったからって呼び戻さなくてもよかったんじゃないか?あいつらアタシを殺しかねない目で見てるぜ?」


グリーンがやってくるとアマリリスは地上に降り立ち、グリーンを抱き寄せる。


「フフフ。グリーンを私のものだって、ちゃんとアピールしたかっただけよ?こうやって……ね?」


アマリリスは見せつけるようにグリーンの唇を奪う。

不意打ちに震え、体を熱くするグリーン。

半目を開いてプレイヤー達へ勝ち誇った視線を向け、長いキスを見せつけると、唇を離して宣言する。


「第一回デスティア軍侵攻イベントは軍団長グリーンによって勝利した!これより南都は東都アイ・マイの傘下となり、我らが東都の領域と化す!」


その宣言に答える者はいなかった。

物言わぬビスデス達と数人残った半死半生のデスティアが死にそうになりながら生き残った人間の掃除を始めている。


「まだ俺たちは負けてねぇ!ここでアンタを倒して1億貰って勝ちだぜ!」


V-STARSの喧嘩っ早い赤のドレススーツ。グリーンの呪いでキルされていたベガがアマリリスへと走りだす。

その目にはラスボスであるアマリリスしか映らない。


「グリーン。守ってほしいな?」


アマリリスの甘いささやきがグリーンの耳から脳を痺れさせる。


「“強打”。」


ベガとは先ほどまで戦っていたのだから充分対応はできる。


「邪魔だどけぇ!“強打”ァ!」


ベガの撃ち込んだ“強打”がグリーンの“強打”を打ち破り、グリーンへと叩き込まれる。

しかし。


「一撃じゃぁ、VIT型のアタシを止められねぇよ。」


グリーンはその身でベガを止めることができる。


「フフフ。ありがとう、アオ……グリーン。それじゃあ暴れたりない虫けら共が滅茶苦茶にする前に終わらせようか。“ディスペアー・リコリス”」


アマリリスの足元から次々と黒い彼岸花が広がっていく。

それはまるで花畑の様に一面を黒く染め上げていく。


「こいつは……なんだ!?」


至近距離で撃たれ、一瞬で身動きの取れなくなったベガを見たプレイヤーがうろたえる中、無慈悲に花畑は広がっていく。

やがてうるさいほどの戦闘音が響いていた南都は静寂に包まれた。

石造りの市場も、神殿も、人間が住んでいた全ての痕跡を黒い彼岸花が覆い隠してしまったのだった。


「“リコリス・ペリシュ”……これでアオバと二人っきりだね……?」


黒い彼岸花はアマリリスの発動した二つ目のスキルと共にその姿を消した。

花畑に取り込まれたティラー全てを飲み込んで。

枯れた彼岸花が土へと帰り、花弁は宙に舞う。

南都を黒い彼岸花が包み込んだのだった。


「な……アタシにそっちのケはねぇ!」


キスを拒むグリーンをステータスの暴力で抱き寄せて己のものにするアマリリスは全ての生物が居なくなった南都でグリーンを正しく自らのモノにしたのだった。

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