妊娠しないはずのサキュバスを妊娠させてしまったらしい。
俺氏の友氏は蘇我氏のたかしのお菓子好き
妊娠しないはずのサキュバスを妊娠させてしまったらしい。
「おま、それどうしたんだよ……」
俺、は自宅の玄関の扉を開けて尋ねた。
目の前には、肩まで伸びた綺羅びやかな金髪を小刻みに振りながらぷるぷると震えている少女がいた。
彼女はユリム。金色の髪と透き通った青い目、そして小さな背に似つかない大きな胸が特徴の俺の知り合いだ。
彼女はいわゆるサキュバスというやつだが、普段は羽や尻尾は魔法で隠していて見えない。
「あんたのせいよ……!!!」
彼女はうつむいてぷるぷると震えた後、いきなり顔を上げてそういった。
「どういうことだよ」
俺は彼女が泣きそうな顔をしているのを見て、戸惑いながら尋ねる。
「数ヶ月前、南方の村でその……あの……ほら、私とあなたで……そ、そういうことになったじゃない……!!?」
確かに、俺と彼女はギルドの依頼で訪れた南方の村で……その、雰囲気に飲まれて、そういうことをしてしまった。
「あ、あぁ、まぁそうだな。」
俺は少し気まずくなりながら、うなづく。
「それで、それで……デキちゃったのよ」
彼女の言葉を数秒間理解することができなかった。
えっと、それはつまり、俺とユリムの間に、子供ができたということだよな。
それを裏づけるように、彼女のお腹は久しぶりにあった俺がすぐに疑問を抱くぐらいに大きくなっていた。
「は……? マジで!?」
「うん……。」
確認のために聞き返した俺に、彼女は今にも涙が溢れそうな目を隠しながら答えた。
「よっしゃっぁっ!!!!!」
俺は、ユリムの返事を聞いて思わず声を上げてしまう。
「…………?」
いきなり大きな声を出した俺を、ユリムが不思議そうに見つめる。
その目はどこか怯えていて、今にも崩れてしまいそうだった。
「俺の子だろ!!? 俺とお前の子なんだろ!!! うぉぉおおお!! そんなの喜ばないわけにはいかないじゃないか!!!」
俺は彼女の肩を掴んで、満面の笑みで叫ぶ。
俺と、俺とユリムの子だぞ。
そんなの、嬉しいに決まってるだろ!!!
「…………」
「うぉぉ、俺が父親か……!!!!」
黙り込むユリムを目の前に、俺はふつふつと湧き上がってくる喜びを噛み締めていた。
いつかはと思っていたが、いやまさか、こんな突然にくるとはな。
「……ぅ………うぇ……うぇぇ………」
ふいに聞こえてきたすすり声に下を見ると、ユリムが目をこすって泣いていた。
「ど、どうしたんだ!? つわりか!!?」
俺はそれを見てびっくりして、肩を掴む力を強めて彼女の顔をのぞき込んだ。
「ち、違うわよ……! 怒られると……捨てられちゃうと思ってたから……」
いつも通り強気に言い放った彼女は、そのままの勢いを維持することなく、どんどんと語気を弱めてしまった。
「はぁ? なんで」
「だって……だって、サキュバスと人の間には子供ができないからって、だから私達は……そういうふうになったじゃない。それに、私達付き合ってもないし……。」
尋ねた俺に、ユリムはうつむきながらどこか申しわけなさげに語った。
「まぁ確かにビックリはしたけど、子供だぞ? そんな欲しくなかったみたいに言うのは失礼だろ。それに、あれだよ、あれ」
「……?」
最後を濁した俺をユリムはぬらしたままの瞳で見上げてくる。
その瞳は変わらず綺麗な青色をしていて、俺はその美しさに引き込まれて、もう抜け出せないような感覚を覚える。
「普通に嬉しかったんだよ。お前のこと、好きだったし。お前がいいなら……ちゃんとした関係になりたかった……。」
俺は自分で言っていて恥ずかしくなりながら、頬をかいて告げる。
「……んぅ……んぅぅっ……!!! バカぁッッ!!!! そういうのは、ちゃんと言いなさいよ!! 私だって、好きだったんだからね!!」
彼女は今まで我慢していた感情のダムが崩壊したのか、涙を溢れさせてポカポカと俺の胸を殴りながら叫んだ。
「な、なんだ……そうだったのか……。はは、そりゃすまねぇな。」
俺は衝撃の事実にやはり恥ずかしくなって、頬をかいてしまう。
「けど、なんでだ?」
「え?」
俺の突然の問いに、ユリムは『何が』と言わんばかりに見上げてくる。かわいい。
「なんでサキュバスと、人の間に子供ができたんだ? 普通ならありえないだろう。」
サキュバスと人間は交わることはできても、その間に子を成すことはできないというのが社会の常識だし、サキュバスと人間のハーフなんて見たことがない。
「そ、それは……あのね……」
「うん」
ユリムはなぜか伏せ目になってつぶやく。
「お、掟があるの……」
「おきてぇ……?」
掟って、あれだよな。
人を殴っちゃいけない!! とか、村の水は大切に!! 的な、ルールみたいなやつ。
「に、人間を心から愛してしまったものは、子供を授かる代わりに、サキュバスとして生きていくことはできない、と。」
ユリムはバツが悪そうに目を伏せて言う。
「え……? それ大丈夫なの……?」
サキュバスとして生きていけないって、それ結構やばくない……?
「べ、別にいいのよ。ただ、今までみたいに定期的に人の種を接種しなくて良くなって、ちょっと魔力が減るだけだから。」
「そ、そうなのか」
なんでもないことのようにユリムが言うものだから、俺は拍子抜けしてしまった。
けど、良かった。
俺のせいでユリムが嫌な思いをしてしまわなくて。
「うん。それよりも、あなたと子供ができる方が、嬉しい。」
ユリムが恥ずかしげもなく真っ直ぐにそんな台詞を吐くもので、
「ッ!!! かわいい」
俺は思わずそんな素直な感想を漏らしてしまった。
「なっ………!!!! うぅ……バカ」
自分で言うのは良くても俺に言われるのは駄目らしく、顔を真っ赤に染めたユリムが、またポカポカと俺を殴って『バカぁ』とつぶやく。
もうかれこれ数年来の中なので、『バカ』と言われることも何百、何千回目だし、それが本心からではないことは知っている。
「とりあえず、中入れよ」
俺はまだ頬の赤い彼女の頭をポンポンと撫でて、まだ玄関だったことを思い出し、そう声をかける。
「うん……。あ、あのさ」
ユリムは改まったように、俺から数歩距離を取ると、目を横にそらしながら言う。
「なんだ?」
「ちゃんと、ちゃんと言ってほしい……な」
彼女は収まってきた頬の赤みをもう一度取り戻して、まるでリンゴのようになりながら、俺を上目遣いで見る。
「ちゃんとって、何を?」
俺はその姿にドキンと、胸を貫かれながら、何を言えばいいのかと尋ねる。
「…………」
ユリムは問には答えず、『そこまで言わせるの?』とばかりに、『言わなくても伝わるでしょ』と、期待する目でこちらを見つめ続ける。
なるほど……ね。
声に出さなくても伝わるけど、やはり、声に出さなきゃ伝わらないこともあるというわけか。
いやぁ、参ったな。
俺、そういうの苦手なんだけど。
まぁ、しょうがないか。
父親になるんだ、こんな時くらい腹くくらないとな。
俺は心の覚悟を決める。
一歩、ユリムに近付き、まるでプロポーズをするかのように地面に膝をついて、彼女の瞳を見つめる。
『待ってました』とばかりにゆらりと揺れる彼女の瞳は、本当に美しくていつまでも見ていられそうだった。
これをこれからは独り占めできるんだもんな。
そんなの、最高以外の何物でもないよな。
「ユリム、好きだ。結構……というかずっと前から好きだった。」
俺はそこまで言ってから、指輪の代わりに精一杯の力を込めて、氷の花を創り出す。
「俺と、結婚してほしい。」
俺の手の中に生み出されたのは、青い薔薇。
ありえないと言われ『不可能』の花言葉がつけられた青い薔薇だが、努力の末作り出すことに成功して、花言葉が変わったそうだ。
その花言葉は――――『夢叶う』
「バカぁ……そこまで言ってほしいわけじゃなかったのにぃ……!!」
ユリムはそう言って泣き出して、俺に抱きついてくる。
「ダメだったか?」
俺は彼女の体を抱きとめながら、耳元で囁いた。
「そんなの、良いに決まってるじゃない!!!」
ユリムはそう言って俺のバラを受け取り、涙とともに笑ってみせた。
本当に、サキュバスってやつは最高だぜ!!!
こうして、俺たちは末永く幸せに暮らしました。
――End――
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
初めましての方々は、お初にお目にかかります。
そうでない方は、お久しぶりです。
リハビリがてらに書きました『妊娠しないはずのサキュバスを』気に入っていただけたでしょうか?
少し前に思いついて、これは書かねばということで今回書かせていただきました。
私から言うことは一言です。
ユリムちゃん可愛すぎぃ!!!
またどこかでお会いできるように、もしよろしければ私の作者フォローよろしくおねがいします。
⇩
https://kakuyomu.jp/users/Ch-n
では皆様、お体にはお気をつけて。
またいつかお会いできることを祈っております。
どうぞ、ご贔屓に!!!!
妊娠しないはずのサキュバスを妊娠させてしまったらしい。 俺氏の友氏は蘇我氏のたかしのお菓子好き @Ch-n
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます