第18話 敗者の悪あがき
「あれは……ギルマスだ!」
「嘘だろ!? なんでここに!?」
「この一件、俺たちに任せてみないか?」
昨晩、シャロンと話していた俺は、ある提案をした。
「確かに過去の問題は証拠が残ってないかもしれない。だが、これから起こる事件なら証拠を掴むことが出来るかもしれない」
「いやいや、いくらなんでもそれは無理ですよアスラさん。どうやってこれから事件が起こる場所を特定して、あらかじめ待つって言うんですか。私たちが事件の被害者にでもならない限り、そんなことはできませんって」
「それだよ。俺たちが事件の被害者になって、それを証拠にすればいい」
「駄目だ! 君たちが傷つくようなことがあってはいけない!」
シャロンは慌てて止めようとするが、俺は制止する。
「違う。俺たちは――いや、俺が被害者にはなるが、傷つくことはない」
「ますます意味が分からない! どういうことだ?」
「『決闘』を使う。ルールの内容は、5層のモンスターを倒した数が多い方が勝ち、というものだ。……もっとも、あいつらに5層のモンスターと戦う力はないから、3層か4層になるだろうけどな。奴らはそこで不正をしてくるはずだ」
「確かに決闘ならば危害を加えられることはない――が、それはあくまで奴らがルールを守った場合だ」
「そうだ。奴らは必ず手を出してくる。そこをシャロンに抑えて欲しいんだ。具体的には、俺がモンスターを倒した後をついて、ティナが護衛する」
『しかし……』と言葉を漏らし、納得がいかない様子のシャロン。
彼女の懸念はわかっている。この計画は俺が奴らに攻撃されることが前提になっている。それが嫌なんだろう。
「駄目だ、やはり危なすぎる。アスラに万が一のことがあったら大変だ」
だが、俺もそれを想定していなかったわけじゃない。
「仮に、奴らを野放しにして傷つく人が増えてもか?」
シャロンはハッとする。
「ここで食い止めなければ、もっとたくさんの冒険者に被害が出るんだぞ。それでいいのか?」
「しかし……それでも、私の落ち度で君が傷つくなんてことはあってはいけない!」
「シャロン。はっきり言うが、お前は完璧じゃない。誰も傷つかず、自分の力だけでなんとかしようなんて綺麗事じゃ解決しない状態になっているんだ」
「だったら……どうすればいいと言うんだ!」
「俺たちを頼れ!」
不幸中の幸いといえばいいのか……俺は奴らにティナを侮辱されたことが許せない。
今、俺たちと結託することこそが最善だ。シャロンの目を真っすぐに見つめると、彼女は折れたとばかりにため息を吐いた。
「負けたよ、アスラには。君は本当に面白いな、何を考えているかまるでわからない。こんなのは初めてだ」
シャロンは引き出しから紙を取り出すと、ペンでサラサラと何かを書き始めた。
「いいだろう、アスラ。今回の件は、君の力を借りることにした!」
彼女がそう言って掲げたのは、決闘を公式に認める意味する――果たし状だった。
「この決闘は、ギルドマスターの私が見届けた! 結果はアスラの勝利!」
高らかに宣言するシャロン。一方で、悔しそうな顔をする
勝負は、完全についていた。
「上手くいきましたね、アスラさん!」
「ああ、ティナもよく護衛してくれた」
「アスラさんが敵をほとんど倒しちゃったから何もしませんでしたけどね……それに、モンスターを一掃してるアスラさんはカッコよかったです!」
「ふざけるな!!」
ティナと話していると、ラグルクが叫んだ。
「たまたまギルマスが見ていただと!? そんな上手い話があるか! そうだ、お前ら結託してるんだろ!? 罪をでっち上げようって魂胆か!?」
「見苦しいぞ、ラグルク・ワーテンロ。君は完璧にアスラに負けた。そして禁止行為もした。
ギルド追放を正式に言い渡され、ますます顔を真っ赤にして焦るラグルク。もはや後がない。
「そ、そうだ! あいつもハイエナをした! 俺たちが先に
「嘘を吐くな。お前らが先に攻撃したわけじゃないだろ」
俺が反論すると、ラグルクは隣にいたアーチャーの肩を叩く。
「いいや攻撃したね! これが証拠だ!」
アーチャーが背負っている矢筒に手を突っ込むと、ラグルクは一本の矢を突き付けてきた。
矢じりに血が付いている。これのどこが証拠なんだ?
「これはあいつが倒したモンスターから取れたものだ! これこそが、俺たちが先にモンスターを攻撃していた証拠だろうが!!」
おかしい。こんな矢なんか刺さってたか?
「よって、アスラはハイエナ行為で0ポイント! ギルドからも追放だ、ざまあみやがれええええええええ!!」
「では聞こう。その矢は決闘の
狂った笑い声を上げるラグルクの動きが、ピタリと止まる。
「……なるほど、そういうことか!」
「ええっ、どういうことですか!? 教えてくださいよアスラさん!」
「
シャロンにトリックを明かされ、膝から崩れ落ちるラグルク。その体はまるで氷水から上がったように震えており、目からはハイライトが失われていた。
「これにて、アスラと
「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ラグルクの叫びは、虚しくこだました。
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