第17話 完全試合(コールドゲーム)
「いたぞ! ダンジョンクラブだ! お前ら、陣形を整えるぞ!」
アーチャーを除いた
「通らせてもらうぞ」
俺は3人の隙間を縫って走り抜け、すれ違いざまにダンジョンクラブの頭を叩き潰した。
一瞬にして殻が割れたダンジョンクラブ。絶命したと考えるのは容易だ。
「おい! そいつは俺たちが先に目を付けていたモンスターだぞ!」
「そうだったのか。あまりにも遅かったから気づかなかった」
「ハイエナだ! ギルドに禁止されている行為をするなんてありえないぞ!」
「お前らが言うのか……そもそも、最初に一撃を入れたわけでもなく、目を付けただけじゃ自分の獲物としては判定されない。最後の一撃を入れただけでは自分の倒したモンスターにならないのと同じでな」
ブラッディボアの時に振りかざした自分の理屈を返され、ラグルクは下唇を噛んで悔しがる。
その時、<疾風怒涛>のタイムリミットが来た。
「チッ、お前らと喋ってたせいで時間を無駄にしたな。あとはせいぜい、追いついてこい!」
俺は三度目の<疾風怒涛>を発動し、
「ありえない……なんであんなスピードで動けるのに、限界がないんだよッ!?」
ラグルクの叫びは、まさに遠吠えとなってダンジョン内に響き渡った。
それからというもの、俺は奴らの行きそうな場所に先回りしては、モンスターを片っ端から倒していった。
当然、のろまなラグルクたちに太刀打ちは出来ない。俺がモンスターを倒し切った場所に遅れてやってきて、地団太を踏むだけだ。
「なんでだよ……なんで俺たちがあんな雑魚相手にボロ負けしてるんだよ……これじゃあまるで……」
「俺たちの方が遊ばれてるじゃないか、か?」
「アスラ……!!」
「ようやく俺のことを名前で呼んでくれたな。
ラグルクは俺の煽りに怒りを露わにする。胸ぐらを掴もうとしたところで、他のメンバーから宥められた。
「何の用だ……! まだ時間まではあと30分はあるはずだぞ!」
「その通り。だから俺は提案しに来たんだ。もうこんなこと辞めないかってな」
「お前の提案なんか聞くわけあるか!!」
「現状、俺が23体モンスターを倒しているのに対し、お前らは0。今から続きをやっても無駄だ、
ラグルクの膝が震える。体にのしかかる重圧に耐えられないのだろう。
格下相手に敗北。謝罪をしなければいけない屈辱。信じがたい現実。耐えがたい苦痛。
「今、負けを認めたらお前の過去の悪事のことについて何も言うつもりはない。ただし、ティナに謝って、二度と禁止されている行為をするな!」
「黙れ黙れ黙れ! 勝ってもないくせにご高説か!? まだ30分もあるんだ、逆転することくらい――」
「出来ると、思うのか?」
無理だということは、ラグルクがわかっているはずだ。それを示すように、下唇を噛んで悔しがる。
「で、出来る! どうせその加速はデメリットがあって、疲れが限界だから言ってるだけだろ!?」
「なるほど、いい推理だな。確かに俺のスキルは、使った後に疲労がどっと襲ってくる」
「ほ、ほらやっぱりな! ここからは俺たちのターン……」
「それでも、お前らが勝つ道がないから言ってるんだよ。まさか俺が情けをかけてほしくて言ってるとでも思ったのか?」
ラグルクの一瞬の余裕の笑みが消える。俺はこれから、残酷な事実を告げることになる。
「俺はこの層のモンスターを全て倒した。3層のモンスターの発生スピードは3分に1匹と言われている。つまり、残り30分ではどれだけ頑張っても10匹しかモンスターを狩ることが出来ないんだよ」
「う、嘘だ……俺を騙そうったって、そうは……」
「だったら計算してみろ。3層に出現するモンスターは13匹が最大とされている。そして、これまでの30分で発生した10匹。足して23匹。俺は全てを倒した」
「うるせえええええええええええ!! だとしても逆転できるかもしれねーだろうが!!」
ラグルクは俺の肩を掴んで叫ぶ。獣のようになって発狂するラグルクに、俺はさらに残酷な事実を伝える。
「無理だ。<疾風怒涛>のデメリットの疲労も、俺にとっては大した苦痛ってわけじゃない。見ればわかるだろ、俺が本当のことを言ってるのが。それともまた嘘だって言うのか?」
「そんなわけ……俺たちが負けるわけ……」
これまで積み重ねてきたプライドが、砂上の楼閣のように崩れていく。あるいは、自尊心で満ち満ちていたグラスに罅(ひび)が入るような――そんな感覚だろう。
終わりだ。俺の勝利は確定している。嘘によって積み重ねてきた偽りの実力は、いとも容易く壊れてしまう。
そして、全てを失った男が次に取る行動は――、
「あああああああああああああああ!!」
俺を襲う殴打。唐突に横面を殴られた俺は、拳の勢いに押されて揺れた。
「お、おい! 殴るのは駄目って――」
「うるせえよ! このままだと俺たち、負けちまうんだぞ!? だったらこいつを殺してなかったことにしちまえばいいんだよ!
仲間を煽動するラグルク。これが
「黒い雨は、世界を真っ黒に染め上げて、嘘を塗りつぶしていく! それが俺たちだろ!? だから、今こいつを――」
「そこまでだ、
その時、女性の声がダンジョンに響き渡る。
――いいタイミングだ。ここまで頑張ったかいがある。
「この決闘は、ギルドマスターである私が見届けさせてもらった! そして、先の暴力行為はルールに抵触している!」
廊下の角から姿を見せたのは、シャロンとティナの二人だった。
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