第16話 1対4の戦い

 1時間後、ダンジョンの3層にたどり着くと、既に黒き雨粒ブラックレインの連中はそこにたどり着いていた。


「……ずいぶん早いんだな」


「早めに待機してたっていいだろ。それより、始めようぜ」


 ラグルクが好戦的に笑う。勝ちを確信している、という感じの笑顔だ。

 それも当然か、相手はギルド最弱で、しかも自分たちは4人に対してその間抜け・・・は1人で挑んできたんだから。


「これは遊び……といえど、一応は決闘だ。倒した数を過剰に申告するのは無しだぞ?」


「ああ、最初からそのつもりはない。お前らには一匹もくれてやるつもりはないからな」


「はぁ~? お前、いいかげんにしろよ? 大口を叩くと負けた後に響くぞ?」


 ……大口なんて一度も叩いたつもりはないんだけどな。


「それじゃ、このコインが地面に落ちたらスタートだ。行くぞ……」


 当たり前のように会話をしているが、俺はこいつらのことが嫌いだ。ブラッディボアの件はたまたま俺がいたからなんとかなったが、そうでない場合もあるだろう。

 報告が上がっていないだけで、もっとたくさんの被害者がいるはずだ。なのにこいつらがヘラヘラしているなんておかしい。


 チャリン、という音がダンジョンの床に響く。

 金属音の残響。壁に反射されて音が拡散されていく。


 さて――いこうか。


「<疾風怒涛>」


 開始の合図とともに、俺は<疾風怒涛>を発動して全身に力を溜めた。

 そして、足をバネのようにし踏みしめ、走り出す。


「「「「速いッ!?」」」」


 ダンジョンの角を曲がる。奴らはまだ動き出してすらいない。ずいぶん悠長なことをしているな。


「あいつ、まさか速度上昇系のスキルを持ってやがるのか!? クソ、卑怯者! 黙ってやがったな!」


 ダンジョンの壁に反響して聞こえてくる声に、『それだけじゃないんだけどな』と小さく返す。


「ゲゲゲゲゲゲゲッ!」


 前方に現れたのは、人を飲んでしまいそうな大口のガマガエル。ジャイアントフロッグだ。


「まずは一匹!」


 速度を緩めることなく前進した俺は、そのまま剣を振るって敵のイボイボの体に斬撃を食らわせた。

 たった一撃だが、ジャイアントフロッグを倒すには充分だった。まるでゼリーをぐちゃぐちゃにしたようにして、ジャイアントは一瞬で死んでしまう。


 3層のモンスターだったら、こんなもんか。ブラッディボアと比べるとやはり、格落ち感は否めないな。


「お、おい! あいつもう一匹倒してるぞ!」


 そこでようやく角を曲がって追いついてきた黒き雨粒ブラックレイン

 俺の姿を見つけるなり、大声でこちらを指さしてきた。


「チーターだ! あいつ、絶対何かチート行為をしてるぞ! そうでもなければあんなスピードで敵を捌けるわけない!」


「俺が何かズルをしてるっていうなら、それを証明してもらわないと困るな。お前らだってハイエナの時に同じことを言うだろ?」


「ク、クソッ! お前ら、あいつの不正行為に目を光らせろ!」


「そんなことしてると、俺がこの層のモンスター全部狩るぞ?」


 俺は再び角を曲がり、先に進む。


「ギャウン!」


 目の焦点があっていないコボルト。マッドコボルトだ。不規則な動きをしてくるのが厄介だが――、


「この状態の俺には、関係ないことだな」


 マッドコボルトの槍による刺突を回避すると、首を剣で跳ね飛ばす。

 これで二匹目だ。


「――時間切れか」


 その時、<疾風怒涛>のタイムリミットである1分が経過し、全身から力が抜けていく。

 同時に、重たいリュックを背負わされたような疲れが襲ってくる。


「まずは1回目・・・だな」


 <疾風怒涛>は強い。これさえ使えば一時的とはいえ、随一の速度を出すことが出来るだろう。

 だが、最大のデメリットは時間制限だ。1分間で効果が切れてしまえば、長期戦や連戦には不向きだ。特に今回のような場合では。


 このデメリットは、一刻も早く克服したい。具体的には、効果時間を持続させる訓練をして、近いうちに3分は突破したい。


2回目・・・、行くぞ!」


 二度目の<疾風怒涛>。体力には自信がある。このくらいの疲れなら、昨日の荷物持ちの方がよっぽど上だ!

 次は1分10秒を目指す。よし、モンスターは――、


「ッ!」


 その時、どこからともなく矢が飛んできた。

 <疾風怒涛>で身体能力が向上していた俺は、矢を見切り、頭に直撃する寸前で掴むことが出来た。


「何のつもりだ?」


「悪い悪い、モンスターかと思って間違って撃っちまった」


 陰から姿を見せたのは、スキンヘッドの男だ。あいつは黒き雨粒ブラックレインのメンバー。アーチャーだったのか。


「直接相手を攻撃するのは決闘のルール違反だろ?」


「だから、ただ間違えただけだって。そうイライラするなよ」


 嘘だ。近くにモンスターがいないんだから間違えるわけがない。おまけに、俺の頭を狙ってきたということは、殺意があったことの証明。

 それに……こいつ、どこから撃ってきた? 陰から出てきた割には、軌道に違和感があったような……?


「それより、モンスター退治はいいのか? 早くしないと俺の仲間たちが数で上回っちまうぞ?」


「……チッ!」


 奴の言う通りだ。こっちに奴を追及している時間はない。

 黒き雨粒ブラックレインには一匹のモンスターも倒させない。完封してやる!

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