第13話 シャロンに会いに

 ティナと正式にパーティを組んでから2日。俺たちはいつもの狩場にいた。


「えいっ!」


 一本の矢がスライムに向かって引き寄せられていく。矢じりがスライムの体に突き刺されると、小さな体はぷるんと吹っ飛ばされた。


「おお、なかなか上手いな!」


 矢を放っているのはティナ。正確な狙撃に、自信たっぷりな笑みを浮かべている。


「短い時間でよくここまで上達したな! これなら実戦でも使えるぞ!」


「やっぱり、私はこっちの方が適性あるかもしれません! アスラさんのお役に立てると思ったら嬉しいです!」


「弓はさらに上達すると弓矢に魔法を付与できる『エンチャント』も使えるようになるから、戦術も幅広い。とはいえ、今はまだ初心者だから、少しずつ覚えて行こうか」


 さて、これで午前中の練習の時間は終わり……ということで。


「ティナ、例の件をそろそろ進めようと思うんだ」


「あれですね! 待ってましたよ!」


 例の件、というのは新しく出現したクエストのことだ。


――


『ギルドマスターの苦悩』 ★★


【概要】

ギルドにいるギルドマスター・シャロンの話を聞き、彼女の悩みを解決したら達成。


【報酬】

・経験値30

・スキル<自動防御オートガード>


【条件】

このクエストは、『孫娘をよろしく』『受付嬢の怒り』をクリアした場合に表示されます。


――


 このクエストの残り時間も1日になった。そろそろ手を付けた方がいいだろう。

 おそらく、このクエストに『孫娘をよろしく』のクリアが必須になっているのは、あの金髪が関係しているはずだ。


『さしずめ、ブラッディボアが死にかけなのに気づかないで慌てちまったか、愛しの最弱くんがブラッディボアを倒すのを皆に見て欲しかったんじゃねえか? 本当に見る目がない女だぜ』


 くそっ、思い出すだけで腹が立つ。あいつら、絶対に吠え面かかせてやる!


「この『シャロン』っていう人は、ギルドマスターさんなんですよね? そんなすごい人に会えるでしょうか……?」


「ああ、その点は大丈夫だ。シャロンとは知り合いだから、仕事が忙しくなければ会えるはずだ」


「やっぱりそうですよね、そんなすごい人に会えるわけ……って、ええええええ!? なんで当然のようにギルドマスターと知り合いなんですか!?」


 まあ、一介のFラン冒険者がギルマスと知り合いなんて言ったらそういう反応もするか。

 といってもこの前たまたま知り合ったっていうだけなんだけど。


「問題はそれより、このクエストの難易度が2ってことだ」


 今まで受けてきたクエストの傾向から、難易度1のクエストはそもそも戦闘がなかったり、戦っても弱いモンスターだったりだ。

 しかし、難易度が2になると強いモンスターとの戦いが入ってくることが多い。前回のブラッディボアのように。


「じゃあ、モンスターとの戦いに注意しつつシャロンさんの悩みを解決しましょう! 私がお助けします!」


 息巻くティナを見て、彼女の快活さに思わず微笑んでしまう。



「……で、君たちは私が何か困っているんじゃないかと思って、この部屋を訪れたんだな」


 やってきたのはギルマスの部屋。中央にあるデスクについているシャロンは、冷静に話を聞いた後、軽快に笑った。


「ははは、君は本当に面白いな、アスラ。何が原因でそう思ったのかはわからないが……」


 シャロンはひとしきり笑った後、ティナの方を見る。


「君は確か、ティナ・アージリスだったな。君はアスラの仲間になったのか?」


「えっ、私の名前を覚えててくれたんですか!?」


「冒険者になったのはつい最近だったね。この数日で仲間に引き込んでしまうとは、アスラも隅に置けない男だ」


 シャロンは咳ばらいをした後、優しい笑顔で俺を見る。


「何か心配をかけていたならすまない。だが、私は特に困っているわけではないから、君たちは引き続き仕事をしてくれて構わないぞ」


「いや、そういうわけにはいかない!」


 シャロンは嘘をついている。もし、本当に困っていないなら、クエストに表示されるはずがないんだ。

 おそらく、シャロンはまだ俺たちに心を開いていない。彼女から本音を引き出せていないだけだ。


「一体どうしたんだ? 君の事だから、何か理由があるんだろう?」


「俺たちは、シャロンに少しでも楽になってもらいたいんだ。だから……」


 俺はシャロンに頭を下げる。


「一日だけ、シャロンの荷物持ちをやらせてくれ!」


「それはまた急な話だね?」


「俺は体力があるから、荷物持ちくらいなら役に立てるはずだ。ティナは料理が得意だから、職員にご飯を作ることもできる」


 今の段階で彼女の本心を聞けないなら、聞けるように歩み寄るしかない。

 そのためには、シャロンと一緒に仕事をして心を開いてもらうのが一番だ。


「……いいだろう。君が何を考えているかはわからないが、ちょうど荷物持ちが欲しかったところだ」


 シャロンは席から立ち上がり、腕を組むと挑戦的な笑みを浮かべた。


「ただし、私の荷物持ちは死ぬほどきついが、覚悟は出来てるか?」


「……受けて立つ!」


 俺とティナの、ギルドでの仕事が始まる!

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