第109話 祝賀会
目覚めた後、帰宅許可を得て王城の医務室から退散した俺は、早速バルトハイムの屋敷に戻った。
屋敷の正門前まで戻ると、そこにはヴァーゼル(よく護衛をしてくれる人。シュナイゼルの副官らしい)と共に立つサラスヴァティの姿があった。
「お帰りなさい」
「ただいま」
数日ぶりの再会だからか、俺を見たサラスヴァティは安堵のため息をつく。
「もう平気なの?」
「あー、まあ。うん。そもそも疲労で長時間気絶してただけみたいだから」
「本当に?だって試合終わった後、色んな人があんたのとこに走って行ったのよ?」
「その辺、俺もよく分からないんだよ。でも帰ってくる前に平気だって言われたから」
「······ふうん。ならいいわ。戻りましょ」
「はいよ。出迎えありがとな。ヴァーゼルさんも、ありがとうございます」
「いえ。シュナイゼル様の頼みでございますので」
堅苦しい雰囲気で礼をするヴァーゼル。この人は徹頭徹尾シュナイゼルのために動いてるよなぁ。
多分、あの人の弟子や娘だから、俺達にも優しいのだろう。
久し振りに戻ってきたバルトハイム邸は、まるでお祭り騒ぎのような様相であった。
誰もが笑い、浮かれ、何やら楽しそうな雰囲気が漂っている。
「何かあったんですか?」
「バルトハイムは武術大会で、近年稀に見る好成績を収めましたから。その騒ぎでしょう」
「ああ、確かにそうかもですね」
「自分の事じゃない。もっと喜びなさいよ」
「最後は負けたからな。どっちかと言うと悔しいんだよ」
口をへの字に曲げて不満を露にするサラスヴァティ。
彼女自身も悔しさの中で負けたから、色んな感情があるのだろう。
「幼少の部だけでこんなに騒ぐものなんですね」
「ノルウィン様が眠っておられた間、成人の部でもバルトハイムの分家筋が、準優勝と四強の二枠を占める結果となりましたので」
「ああ、なるほど」
流石は武の名門家。とんでもなく強いんだな。
でも、シュナイゼルがいなかったとはいえ、そのバルトハイムに勝った無名がいるわけで。
誰だろう。ちょっと気になるな。
もし数日後に催される武術大会の祝賀会にいたら、少しだけ話し掛けてみるか。
それからヴァーゼルは仕事に戻り、俺はこれからも頑張るわよ!と息巻くサラスヴァティとも一旦別れ、自室に戻ろうとしたのだが―――
「······ねえ」
「お、ルーシー」
その途中、何故か険しい顔をしたルーシーに道を塞がれてしまった。
どうしたのだろう。
俺に勝ってしまって気まずいとかなら理解できるが、明らかにそうではない感情を向けてきている。
「······ノルウィン、剣もできたの?」
「あ······」
そうか。あの時実際に戦っていたルーシーは、突然熟練の剣技を見せた俺を疑問に思っているのか。
―――もしかしたら、というかほぼ間違いなく、試合を見ていたサラスヴァティにも気付かれてるよな。
それでも言及せずにいてくれたのは、気遣いか優しさか。
二人には申し訳ない事をしてしまったな。
この件について訪ねられた際の解答は、既に用意しているものがある。
嘘を言うのは気が引けるが、真実を語る訳にもいかないため、俺はそれを口にした。
「ごめん」
「·····え?」
謝罪である。
「いや、本当にごめん」
あれだけ卓越した技術を見せてしまった以上、天才であるルーシーに下手な誤魔化しは利かないだろう。
だから、取り敢えず謝り倒してこの場を収める。
類い稀な天才でもルーシーはまだ六歳。何度も謝ってくる相手の対処法なんて知らないに違いない。
「マジでごめん」
「······わ、わかった。わかった」
「ごめん。本当に本当に本当にごめん」
「······もう、いい!」
「オッケ。んじゃ、俺ちょっと行く所あるから!細かい話とかはまた今度でいい?!」
「······ぁ、うん」
それで会話を打ち切り、なんとか追求をかわすことが出来た。
ただ、このまま終わるのは何となく可哀想だから、最後に一言添えておこう。
「ルーシー、優勝おめでと。でも次は俺が勝つから」
「······ッ!」
ようやく笑顔になったルーシーに
もう一度手を振ってから、俺は自室に戻った。
そして、それから数日後。
⚪️
数日前に王城の医務室から帰ってきたばかりだというのに、俺はまたもや王城の前に立っていた。
俺の周囲には、シュナイゼルやヴァーゼル、サラスヴァティにルーシーなど、バルトハイムの主要人物が勢揃いしていた。
今回は武術大会の祝賀会に呼ばれたのだ。
最早お馴染みとなりつつある白亜の超巨大建築物。
世界に誇る王城だの何だのと聞いたが、見慣れてしまえばどうということはない。
初見の感動は消え失せてしまっていた。
「わぁ、すごいキレイね」
「······キラキラしてる」
そんな俺とは対称的に、赤毛の双子は聳え立つ王城を見上げて目を輝かせている。
女の子だし、こうした芸術的なモノには目が引かれるのだろうか。
俺には理解できない感情だ。
ていうか、感動してる暇なんて無いんだよな。
今後クレセンシアの護衛としてやっていくために、今日は少しでも仲を深めておきたいし、その他にも敵対、あるいは友好的な貴族も把握しなければならないのだ。
気合いを入れなければ。
「······今日も、いっぱい、食べていい?」
「ダメに決まってるじゃない」
「······なんで?」
「そういうものなの」
「······よく分かんない。ノル、なんで?」
早速食い意地を張るルーシーとそれを咎めるサラスヴァティ。
納得がいかないらしいルーシーは、俺の方を向いて尚も質問を重ねた。
「王族だったり大貴族だったり、偉い人が沢山来るんだよ。それなのに食べてばっかじゃみっともないだろ?」
「······わかんない」
あ、こいつ理解できたけど都合が悪いからわからない振りしやがった。
「ルーシー。今分かったよな?」
「······知らない」
「ちょっとルーシー、今日はホントに色んな人が来るんだから、変なことしちゃダメよ?」
「オラ、行くぞー」
「あ、はい」
三人で騒ぐ俺達は、シュナイゼルの合図でピタッと静まり返った。そして祝賀会の会場まで向かって行く。
道中、廊下で多くの貴族達と遭遇したが、その全てがこちらにへりくだってきた。
何せシュナイゼルはバルトハイム公爵家の当主であり、将来の大将軍を確約された武人である。
その権力は、最早並みの貴族では太刀打ちできないレベルなのだ。
ゆえに、全員が道を開ける。遠巻きに向けられる視線には、羨望や嫉妬、憧れと言った感情が込められていた。
―――それは、会場に着いても変わらなかった。
「見ろ、バルトハイムが来たぞ」
「今年もほぼ独占だったよな」
「アイゼンブルクと双璧を成すと言われておりますが、実際は一強でしょう」
「次期大将軍も決まり、その下の世代には武術大会で優勝した娘と準優勝の弟子がいる。しばらくはバルトハイムの時代だな」
誰も彼もがシュナイゼルを、バルトハイムを上と見る。
この場でシュナイゼルを下に見れる者など、たった一人しか存在しないのだ。
「よく来たな、シュナイゼル」
その唯一である男が、祝賀会の壇上から声を掛けた。
派手な衣装を身に纏い、頭部には輝かしい権力の象徴を被り。
誰が見ても一目で分かる。彼はアルカディア王国の国王である。
「少し話がある。弟子を連れてこちらに参れ」
――――――――
新作は今週中にあげられたらなって思います。
ちょっと新作について質問なのですが物語はドシリアスか少し緩めか、どっちがいいですかね?
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