<共通ルート 分岐点> 三章 王国魔法研究所

 王国魔法研究所にいるヒルダさんって人から話を聞いてきた私と姉だったが、魔法についてをタダで教えることはできないと言われ情報料として15000コールをなんとかして用意しないといけない事となった。


「お姉ちゃんとフレンさんが頑張ってるのに私だけお留守番なんて……」


姉は広場でダンスを踊ってお金を稼いでくると言うと、フレンさんも手伝いたいと名乗り出て行ってから数時間。二人は今一生懸命働いている。なのに……


「お姉ちゃんたらいつまでも私の事病人あつかいして! 私だってもう寝てばかりの病人じゃないよ」


そう叫んでみたものの誰の耳に入るわけでもなく私は再びソファーへと座り直す。


「……せめて夕飯を準備してあげよう。市場に買い物に行かなきゃ」


沈む気持ちをごまかすかのように私は言うと出かける準備をした。


「はぁ~。私も役に立ちたいのにな……」


「あれ、フィアナ。溜息なんかついてどうした?」


市場へと向けて歩いていると誰かに声をかけられ振り返る。そこには不思議そうな顔で見てくるルキアさんの姿があった。


「ルキアさん……」


「なに、何か悩み事? オレでよかったら相談乗るぜ」


元気のない私を心配したのか彼がそう言ってにこりと笑う。


「あのね……」


「うん」


なぜかいうのを躊躇ってしまう。姉みたいに「フィアナには無理だ」って言われるんじゃないかと思ったら打ち明けるべきなのかどうなのか悩んでしまったのだ。だけどずっと黙っているわけにもいかない。無理だって言われようと私は自分の気持ちを素直に伝えよう。


「あのね、私仕事を探してるの」


「フィアナが仕事を……何で? 急にどうしたんだよ」


私の言葉に驚いているようで目を何度も瞬く。そりゃ今まで仕事したいなんて言うようなことはなかったから驚くよね。


「実は犬を飼い始めたでしょ。それでその子のご飯代を稼がないといけないことになって、それでお姉ちゃんだけに任せるのは申し訳ないから私も何か役に立ちたいと思ったんだ」


ルキアさんに嘘をつくのは忍びなかったが丁度良い理由も思い付かずそう説明する。


「なるほどね。ティア達はお前に過保護すぎるからな。おおかたお前には無理だって言われたんだろう」


「うっ」


さすがに鋭い。これはルキアさんもダメって言うのかな?


「しょうがないな。……ついてこい」


「へ?」


溜息を吐き出すとそう言って歩き出す。私は理解できなくて不思議に思いながら慌てて追いかけた。


「仕事探してるんだろう。丁度騎士団の社務所の受付女が今日病気で休んでてね。誰か代わりを探していたんだ。受付女って言ってもただ座ってればいいだけの仕事だからそれならフィアナにだってできるだろう。と、いうよりお前に汗水流させるような労働させたなんてルシア達に知られたらオレが怒られるからな。だからフィアナにもできる簡単な仕事ならあいつ等も納得してくれると思うからさ」


「ルキアさん……有り難う!」


笑って説明してくれた彼の言葉に私は心からのお礼を述べる。


それから紹介してもらった受付女のお仕事は本当に簡単なもので、受付にお客さんが来たら手続して待合室で待っててもらうという内容だった。そうして夕方までお仕事をすると私は人生で初めてのお給料をもらう。


「よ、フィアナ。上手くやれたみたいだな」


「ルキアさんが話を通してくれたおかげだよ。有り難う。それで……」


夕方私の様子を見に来てくれたルキアさんに私はお礼にと思い封筒から紙幣を取り出そうとした。


「おっと、お礼なんていらないぜ。それはワンコのご飯代なんだろ。大事に持って帰んな」


「でも……」


その行動を止めるように彼が言う。でもお礼をしないなんて。だって、私ルキアさんのおかげで人生で初めてお仕事が出来たんだもの。本当はこんなものじゃ足りないくらいなのに……


「代わりに今度ワンコ触らせてくれればいいよ。オレ動物好きなのフィアナ知ってるだろう?」


「待って、そんな事でいいの?」


にこりと笑い言われた言葉に私は慌てて尋ねる。フレンさんを触りに来るってそれは流石に止めた方が良いよね。ルキアさんは知らないけれどフレンさんは元は人間なわけだし犬あつかいされるのは嫌だろうから。


「あぁ、オレはそれで全然かまわないぜ。それとも、フィアナは犬に会わせたくないの?」


「そ、そういうわけじゃないけれど。私のお礼の気持ちはそんなものじゃ足りないくらいだから」


確かに会わせたくないと思ってるけれど、見抜かれている。何とか話題をそらさなくては。そう思い慌てて説明した。


「う~ん……じゃあさ、ちょっとついて来て」


「?」


彼が何事か考えると大通りの方へと歩いていく。どこに向かうんだろう?


「これ、買ってもらっていいか」


「これって、パン?」


向かった先は近所のパン屋さん。そこに入ると並べられているパンの中から一つを選び私に話しかけてきた。


「うん、フィアナの初給料でこれをおごってくれよ。それがお礼ってことで」


「! うん。分かった」


笑顔で言われた言葉に私は意味を理解し急いでそのパンを購入してくる。


「ありがと。実はオレお腹すいてたんだよな~。そんりゃ、遠慮なくいただきます。ん~。フィアナに買ってもらったからかいつものパンより余計に美味く感じるな」


「もう……パンの味なんて変わるわけないじゃない」


「それより、暗くなってくるとティアが心配するから家まで送ってやるから帰るぞ」


私の言葉にごまかすかのように彼が言うとパンを食べながら歩きだす。私はその後についていった。


そうして家に帰って来るも姉達の姿はなく。まだ帰ってきていないようであった。私は夕食の準備をしながら二人の帰りを待つ。


「あ、お姉ちゃん。フレンさんお帰りなさい」


「ただいま……」


「……」


しばらくしてからぐったりと疲れた様子の二人が帰って来る。


「お姉ちゃん、お金集まった?」


「それがね……あと5000コール分どうしても稼ぐことが出来なかったの」


「俺がもっと頑張ればよかったのだが……すまない」


私の言葉に二人は肩をおとし答える。どうやらくたくたになるまで頑張ってお金を稼いだけれどどうしても情報料分のお金を稼げなかったようだ。それならば!


「お姉ちゃん今何て言った?」


「だから5000コール分足りないのよ。明日もう一度広場に行って踊りを踊って稼ぐしか――」


「あるよ。丁度5000コール。これ、これを使って」


姉の言葉を途中で遮ると私はお給料袋を差し出す。


「このお金どうしたの?」


「ルキアさんが受付女のお仕事を紹介してくれたの。今日一日だけお仕事させてもらったんだ。だからこのお金を使って」


驚く姉へと私は自信たっぷりに言い放つ。もうひ弱扱いはさせないんだから。私だってちゃんとお仕事できたんだもんね。


「フィアナがお仕事を?」


「ともかくフィアナのおかげでお金は集まったんだ。良かったじゃないか」


驚きすぎて呆ける姉の横でフレンさんがそう言って見上げてくる。


こうしてお金を集めた私達は翌日王国魔法研究所へと向かい魔法の事についての話を聞いてフレンさんを元の人間に戻すための方法を無事に知ることができた。


そうして急いで帰ってフレンさんにこのことを伝えようと思ったのだが……


「あれ、ルキア? 私達の家の前で何してるの?」


「お前達の帰りを待ってたんだよ」


玄関前にはルキアさんが立っていて何で彼がここにいるのか分からないといった顔で姉が尋ねる。私達の帰りを待っていたって一体どういうこと?


「この前約束しただろう。時間が出来たら犬を触らせてくれって」


「あ……あ~あ。そんな話ししたかな?」


瞳を輝かせて話すルキアさんの言葉に姉はすっとぼける。


「したした。ってことで今日は特に用事もないからワンコを触りに来たんだよ」


「ど、どうしよう」


「とりあえずフィアナはルキアと何か話して待ってて。フレンにこの事伝えてくるから」


私達は顔を近寄せ内緒話をする。姉の言葉に私は頷くとルキアさんへと近寄る。


「えっと、犬を触る前に約束して欲しいことがあるの。だから説明を聞いてくれる?」


「お、動物と触れ合うにはあるあるか? いいぜ。説明始めてくれよ」


「そ、それじゃあ私は先に中に入って犬をケージから出したりしてるね」


私の言葉に食らいつくルキアさん。姉はその間に家の中へと入っていく。


「まず。いきなり触らない事。びっくりして噛みついちゃうかもしれないから。それから触る時はなるべく頭や顔を撫ぜない事。嫌がるからね」


「ふむふむ。動物あるあるだな」


「それから。尻尾を掴んだりしないこと」


私が何とか犬に関しての当たり前知識の説明をし時間を稼いでいると姉が玄関に戻って来る。


「お待たせ。ちょっと機嫌が悪かったけれどちゃんと言い聞かせておいたから多分大丈夫よ」


「ようやく御対面できるんだな。何か楽しみだな」


姉の言葉に彼は嬉しそうに言うと足音も軽やかにリビングへと向けて歩いていく。


部屋の中にはケージの前にちょこんとお座りして犬のふりをしているフレンさんの姿が。


「お~お! こいつか! 思っていた以上に賢そうでカッコいいのに可愛さが半端じゃないワンコだな。なぁ、こいつの名前は?」


「へ?」


「な、名前?」


瞳を輝かせフレンさんにくぎ付けのルキアさんが放った言葉に私達は焦る。フレンなんて犬につける名前じゃないし。どう答えよう。


「犬っころとかワンコとかじゃこいつがかわいそうだろう。名前くらい付けてあげてるんだろう」


「な、名前は……と、殿! 殿っていうのよ」


ルキアさんの言葉に姉がでたらめな名前を言う。「殿」ってどこから絞り出してきたんだろう。


「おぉ。殿か。なんかかっこいい名前だな!」


「ワフッ……」


ルキアさんの言葉にフレンさんが明らかに嫌そうな顔で溜息を吐き出す。


「殿、殿。良い子だな~」


「ワン、ワワワン」


そんな様子になど気付くことなく彼はフレンさんを撫ぜ回す。フレンさんの声が棒読みに聞こえるのは気のせいじゃないと思う。


そうしてしばらくフレンさんを撫ぜ回すと満足したようで離れる。


「こいつおりこうさんだな。ティアとフィアナのしつけがいいのか? どうやったらこんな賢い犬にしつけられるんだ」


「そ、そんな。しつけなんて。私達はただ普通に家族の一員として過ごしているだけよ」


「そうだよ。フ……殿は出会った頃からおりこうさんなだけで私達何もしつけてなんていないよ」


ルキアさんの言葉に私達は慌てて答える。


「また殿に会いに来るからな」


「もう帰るの? もっとゆっくりして行けばいいのに」


「そうだよ。せっかく来たんならお茶でも飲んでいけばいいのに」


彼の言葉に私達は内心ではほっとしながら心にもないことを言って引き留める。フレンさんが本当は犬じゃなくて人間だなんてばれたらきっとルキアさん更に瞳を輝かせて「解明させてくれ」なんていうかもしれないからね。彼が人間であることがバレないうちに早いところ出て行ってもらわなくては。


「いや、ゆっくりしていきたいけどそういうわけにもいかなくてな。王国騎士団の隊長が幼馴染の家で犬を撫ぜ回して遊んでいたなんて噂が流れたらルシアに叱られるからさ」


「それは残念ね……また、遊びに来てね」


「気を付けて帰ってね」


ルキアさんの言葉に私達は笑顔で見送る。そうして玄関の扉を閉ざし彼が家から出て行ってしまうと安堵の息と共に姉と一緒にその場にへたり込んだ。


「ルキアさんに秘密がバレなくて良かったね」


「そうね。フレンには申し訳なかったけれど、これで満足したからしばらくの間はこないと思うわ」


「その、俺の事を秘密にしてもらっているから二人には負担をかけさせてしまってすまないな」


いつの間にか側に来ていたフレンさんに私達は顔を向ける。


「気にしなくていいのよ。それよりも王国魔法研究所で良い話聞いてきたの」


姉が言うと私達はリビングへと戻り聞いてきた人間に戻る方法を試してみる事となった。


「それじゃあ、やってみるぞ」


「「うん」」


フレンさんの言葉に私達は頷く。彼はその言葉を聞くと瞳を閉ざし何やら集中している様子。すると白い光が辺り一面を照らし私達は驚く。


「「!?」」


次の瞬間見知らぬ男性が部屋の中に立っていて私と姉は驚いて壁まで後退った。


「だ、誰?」


「誰って……俺だが」


「本当にフレンさん?」


姉の言葉に男性が不思議そうに首をかしげて言う。その声は確かにフレンさんなのだが目の前にいる美青年が先ほどのシェパードっぽい犬だとはとても思えなかった。


「二人の反応を見るに、元の姿に戻っているようだな。……ティア、フィアナ。二人には本当に感謝している。有り難う。それから……長い話になるが俺が何者で何故魔法をかけられたのか説明したい。聞いてくれるか」


「勿論」


「はい」


いずまいを正したフレンさんの言葉に私と姉は顔を見合わせると姿勢を直し話を聞く態勢になる。


「実は二人には今まで秘密にしていたのだが、俺は隣国であるザールブルブの第一王子だ。そして俺の父親が先日死去されて、その知らせを聞いて留学先の国から急ぎ船に乗り戻っている最中、船が何者かに細工されていて座礁した。表向きでは事故となっているが確実に誰かが仕組んだことだ。そして船に乗っていた俺の身にも異変が起こり光に包まれたと思ったら犬に姿が変わっていたんだ。そこから海に投げ出された俺は船の残害につかまり何とかこの国まで流れ着いた。森の中を彷徨っている間クマやオオカミに狙われそうになったこともある。何とか街までたどり着いたのだが飲まず食わずで彷徨っていたところをティアに拾われたというわけだ」


「そ、そうだったんだ」


彼の話に姉が納得して呟く。


「だから、先ほどの「殿」という名前もあながち間違いではなかったな」


「そ、それは言わないで。慌ててとっさに口に出しちゃった言葉なんだから」


フレンさんが重苦しい空気を換えようと思ったのか小さく笑って言う。その言葉に姉が羞恥心で頬を赤らめ止めてくれと訴える。


「だが、二人にこの話をしたのには理由があるんだ。俺は何者かに命を狙われている。だから俺の乗った船は細工され、俺は死に至る魔法をかけられたがそれが失敗に終わり犬になった。つまり俺が生きていると知られればまた相手が命を狙ってくるに違いない。その前にこちらから黒幕を暴き仕掛けようと思っている。そこで二人には協力してもらいたい。迷惑をかけたうえこのような事を頼むのは申し訳ないが、他に信頼できる者もいないからな。俺が自由に外を出歩けない代わりに二人には情報を入手してきてもらいたいんだ」


「わ、分かった」


「私達で出来る事ならお手伝いします」


彼の言葉に私達は神妙な顔で頷く。それから私と姉はフレンさんを助けるために町で情報を集める事となった。

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