第47話 ウェディング・ラプソディ③
全ての賓客が揃い、婚姻及び披露宴の日がやって来た。
結局、披露宴に関しては、うちの工房や屋敷ではとても収まりそうにない事が判明して、教会の庭を借りてガーデンパ-ティ形式で執り行う事になった。
天候が悪いと大変な事になるので若干懸念されたが、幸いこの季節のこの地方ではかなり天候が安定しているそうで、公的な行事なども多数企画されるのだそうだ。
もっとも、それでも悪天を引き当ててしまう場合は、日頃の行うがどうのと、周りから後ろ指刺される事になるらしいのだが…
本来、この地方で行われる婚姻の儀と言うのは、立会人や神官の立ち合いの元、神に結婚の意志を表明してその許しを請い、許されてその内容が記載された宣誓書(当人達、立会人、神官らのサイン入り)を家族や友人知己に示し、正しく夫婦となった事を公表した事が始まりだそうだ。
基本平民達の間では費用などの都合もあって大げさな儀式は簡略化される事が多く、神官の立ち合いの元で神に宣誓を行い、宣誓書にサインをした物を役所に届け出て、役所はその確認を以て婚姻を承認すると言う形が一般的なのだそうだ。なおこの時、金銭的に余裕のある者は、教会から役所に届け出に行く際にそれ用に飾った馬車に乗って移動し、結婚の事実を街の人々に広く周知したのが、ウェディングパレード・結婚披露の始まりだそうだ。
現在、この形式での結婚は、お貴族様の跡取りの結婚の際に若干形を変えて執り行われるそうだが、完全に執り行われる事はめったに無いそうだ。
そこで代官様が閃いた。
せっかく婚姻を契機に妊婦にも優しい新型馬車を開発したのだから、この機会を利用して大きくアピールしないのはもったいない。
婚姻の儀は教会で執り行われ、今回の披露宴も教会の庭で行われる。
その間の移動は徒歩でわずか1~2分ほどでしかない。また、多少の金を積めば、役所も担当者を派遣してくれて、その場で婚姻届けを受け付けてくれるので当然、馬車での移動など普通はありえない。
しかし、あえて役所への届け出を行って、それに使う馬車をデコレーションして、派手に街中で乗り回せば、結婚の事実を街のみんなに知らせる事も出来るし、新型の馬車のお披露目も出来て1石2鳥、いや、主要な顧客として想定される富裕層にも周知出来るので、1石3鳥ではないかと。
勿論、俺たちは抗議しましたとも、見世物じゃないと。
でも広く周知するのが宴の目的なんだから見世物じゃんとメイドの1人に言われてあえなく撃沈。微妙に妻2人からも恨みがましい目で見られる事になったのは、実に腑に落ちない事だったが、パレードは実施せざるを得ない事になった。
そこで、大急ぎで馬車の改造が行われる事になった。
幸いと言うか災いと言うか、うちで保有する馬車の足回りはすべて新型に改装済みであり、その評判はすこぶるいいものだったが、その中から2台ほどを布等で飾り立て、1台はクッションなどを使って3人横並びで座れるパレード用馬車風に仕立て、残りの1台を立会人用兼祝い菓子のばら撒き用に仕立てる事になった。
まぁ、元が駄馬を使った2頭引きの荷馬車である以上、どうしても安っぽくなってしまうのはどうしようもない事なのだが、そこは割り切る事にした様だ。
当日は、婚姻の儀が終わったら、こいつに乗って街中を大回りして役所に行き、書類を届を出して受理されたら教会にまた大回りして引き返し、みんなに報告する。
その後は、やはり飾り立てられたひな壇に座らされ、延々宴席が終わるのを待つ事になっている。
この辺の演出もいささか派手にはなったが、元からそういう予定だったので、気合で乗り切るしかない。
宴席の時間として、最長で2刻程庭を使わせてもらえるのは、日頃の寄進をそれなりにしている事への礼なのか、いささか長すぎる様な気もするが、喜んで使わせてくれる話になったそうだ。
この間全く飲み食いできなくなるわけでもないので、頑張って乗り切ろう。
と言う訳で結婚の儀の為、神官殿の導きで祭壇の前に着き、3人で祈りをささげています。まぁ、個人的にもこの世界の神様には、ようやく無事にここまでたどり着けましたと感謝をささげたい部分があるので、結構真剣に祈りをささげていたら、儀式は次の段階に進んでいた様で、タリンから肘鉄をくらう事になってしまった。もっと新婦として新郎に優しくしてくれても罰は当たらないと思うんだけどねぇ。
次は誓いの儀だ。神官殿の言葉を復唱して、神に誓いの言葉を奏上する。
今回は3人なので若干アレンジが必要だったが、”私たちは、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、互いを愛し、敬い、慈しむことを誓います。”と言うあれだ。
形式として、ここで神から許しがいただけることになっているのだが、神様だって暇じゃない。この世界の住民がどれほどいるのか知らないが(いや、頭にそんな数字浮かばなくて良いから!)の結婚の度にいちいち承認してたんじゃやってられないだろう、と言う事で、暫く待って明らかな凶兆が発生しなければ、許しを頂けた事になっているのだそうだ。
そんな心算でいたら、明らかに人のものとは異質の存在感?の高まりを感じる。
何か神官殿も微妙にビビってる?
力の在処を探して祭壇の辺りを見つめていると、一瞬その力が揺らぐのを感じた。と思ったら、力そのものが消失した?
…でも、まだ何か感じるな。力の残り香?
そう思ってごく薄くなって感じ難くなった力を探してあちこちに視線を向けていると、絶句している固まっていた神官殿とその前に置かれた誓紙?婚姻宣誓書の上に極色彩の光を放つ羽根?を見つけた。
暫く見つめていると、羽根は誓紙に溶け込む様に消えて行き、
”クァージュ、タリン、フェンディーネの3名の婚姻を祝福する”との言葉に続いて、”The GODs”の文字が、意味は分かるが読めない文字で記載されていた。
会場騒然とはきっとこういう事を言うのだろう。
ぶっちゃけ、導師役の神官殿も、会場を貸してくれた神殿の各位も、列席していた有力者達も、実際の結婚式で神の立ち合いを見るのは初めてだったらしい。
奇跡にかち合った当事者としては、ため息しか出ない事態な訳だが、むろん、悪い話じゃない。
面倒なだけではあるのだが、希に聞くだろう、ゴルフでホール・イン・ワンを出して、保険に入っていなかった為に、ひどい目にあった等と。
つまるところ、そういう事だ。
俺じゃなけりゃあ、破産するぞ、下手すると。
そんなちょっとしたハプニングで、予定より若干時間が長引いたが、無事?に婚姻の儀は終了し、パレードのパートが始まった。
要は3人でデーハーな馬車に乗って、役所に乗り付け、出来立てホヤホの婚姻宣言書を見せて、婚姻の届けを行い、受理されればミッションコンプリートである。
帰りもチンドン馬車に乗って、教会まで戻ると言う苦行のおまけ付だが。
街中を流して行くと、子供に指さされている。
このクソガキ様は親に人を指さしちゃいけませんと習わなかったのかね。
まぁ、こんなかっこで街を流していく俺たちも悪い様な気もしなくもないが。
教会に戻って、届け出が受理された報告を行い、いよいよ披露宴開幕だ。
後ざっと4時間かぁ、頑張るぞ!
まぁ、宴席と言っても地球の様に、ビデオを流したり、友人に芸をしてもらったり、とかは無い。ビデオなんてものは影も形も無いのだから流せないのは当然だが、俺たち3人とも親も親戚もおらんし、立場も微妙だしな。
俺はもちろんの事、タリンも村を出る時のあれこれでそっちとのつながりは切れているし、フェンディに関しては、おらんことも無いらしいが、奴隷落ちの時のゴタゴタで、ほぼ縁が切れているそうだ。元々の出身もこの町からはかなり離れたところらしく、連絡を取る事は出来ないらしい。
と言うか、借金奴隷に限らずだが、出身地やその周辺に残しておくと、売買の際やその後も含めてもめる事が多いので、出身地周辺で売り出す事は殆どしないらしい。奴隷商にはそういうネットワークがあるので、購入地とはある程度以上離して、別の商人が、それなりの教育を施した上で売るのがマナーなんだそうだ。
と言う訳で、3人そろって、書類が受理された報告を行い、ご領主様、代官様、地の名士からのご挨拶なんかは定番でするらしいが、その後は用意した酒と肴が尽きるまでフリーだ。
中には、祝いに来たのか絡みに来たのかわからない様な客もいたし、喧嘩を売りたいなら、買おうかと言いたくなる様な事をするやつもいたが、とりあえず無事に時間は流れて行った。そして、そろそろ宴席も終わりかな、と言うタイミングで最大のサプライズがさく裂した。
アポなし、仕込みなしで、第3等位の王族、ウージ・アズバル様の乱入だ。
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