第12話 天気明朗なれど波高し
その後、いよいよ一人で作業するのが色んな意味で厳しくなってきたので、口入屋組合の紹介で錬金錬成の出来る人材を紹介してもらい、どうにか乗り切る事が出来た。
口入屋の方も、件の経緯で俺に借りがあると感じていたのか、あるいは、これ以上騒がれても困ると考えたのかはわからないが、思いの他早い対応をしてくれたので、驚きを感じた。
まぁ。それはそれとして、錬金術のレベルは色々だったが、全員錬金錬成が可能なレベルでの魔法技能を持ち、それなり以上の魔力値を有していたので、条件を調整の上で専属契約を結んで雇い入れた。
この専属契約と言うやつは、一種の魔法契約で、双方が同意した条件で契約する事で、片方が一方的に契約を破った場合、その契約に基づいてペナルティーを科すことが出来ると言うものだ。
今回の契約では、労務者は魔法の行使が可能な範囲で使役者の指示を受けて魔法を行使する。労務者の行使する魔法は原則として錬金錬成に関するもので、その行為によって法や公序良俗を犯す事が無いものでなければ行使を拒否できる。使役者は労務者に魔法の使役に必要と考えられる十分な休養を与える義務を負う。使役者は労務者に対価として…。労務者と使役者は双方の同意がなければ契約を破棄する事が出来ない。労務者乃至使役者はその一方が他方の同意なく契約に違反した場合、その違反の度合いに応じて後述の罰を受ける…。等々双方が妥当だと同意できる内容に事前に調整を行った上で契約を結んでいる。
なお、この中に守秘義務条項も盛り込まれており、この条項は本契約が解除された後でも有効性を保つ事になっていて、その分については使役者側から労務者側に追加の報酬として一定額を加算して贖われる事になっている。
また、契約違反時の最大のペナルティーは、能動的な魔法能力の喪失とした。
要は、魔法で人並以上の生活をしてきた以上、本気でこっちが怒る様な真似をしたら、意図して魔法を使えなくするから覚悟してね、と言う事だ。
契約後、早速彼らにクロムの抽出と鋼材への添加を命じたのだが、抽出がどうにもうまくいかなかった。
色々試した結果、概ね理由を理解する事が出来たのだが、抽出精錬には抽出する素材への理解が一定レベルに達している必要があるらしい。
実は、俺の工房でクロムを含む希少金属の抽出を行う場合、まず一番始めに利用するのが、町営高炉から出るスラグ(鉱滓)だったりする。
実際、鋼を精錬した後で残されているスラグには、こちらの世界では殆ど認知されていない希少な金属が結構残されており、それを認識した上で錬金精錬等を駆使する事により相応の諸々が入手出来る。
改めて未精錬の鉱石類を集めてきて、鉄の精錬も行うより効率が良いのだ。
スラグ自体は本来ごみとして廃棄されて来たもので、これを安く購入してあげる事で町側も喜ぶし、こちらもそれを利用した上で残った本当のゴミを改めて廃棄すればいいのだから、笑いが止まらない訳だ。
町からは過去に廃棄したスラグの回収許可ももらっており、回収したスラグは重さに応じた金額を支払う事で利用できる。この町では諸々の事情で高炉の機能が碌に活用されていない時期もあり、スラグ(カス)と言っても一般的な意味でとてもそう呼べないグレードのカスが多量に破棄されていた。それも、町への悪影響を配慮して、ちゃんと廃棄場として機能するように処理された特定の場所へだ。
まるで、地球における都市鉱山もかくや、と言うほど諸々の資源が楽に採掘できる宝の山であり、笑いが止まらないとはこの事なのだが、はたから見るとゴミの山の上で高笑いしてる小僧に見える訳で、周りからはかなり引かれていたらしいとは、後で聞いた話だ。
そんな訳で、日頃の抽出精錬業務のかいあって、この世界ではあまり知られていない金属類・非金属類の資源ががかなり確保できた。
後はこいつらを使って、俺の知っている合金鋼、特殊鋼を再現出来れば、濡れ手に粟の大儲けなのだが、いかんせんそこまで手が回らない。
こちらも、古い廃棄場からスラグを採取して、せっせと素材の抽出に励んでいる訳だが、しょせんその作業ができるのは俺一人である。敵は町が運営している組織で、しかも、俺の指導でそれなりの生産能力を持つに至っている。町の鍛冶士からの信頼も大分回復した様で、おかげで、俺が国家認定の鉄鋼材を仲介する必要性も大分低くなったのだが、その分結構力を入れて鋼材の製造に励んでいる。
となると、かなりのペースで結構な量のスラグが出る訳で、こっちの処理が間に合わないと言う事になる。
ぶっちゃけ、俺はこの2月ほどほとんど休みらしい休みを取れていない。
なんでスローライフを目指してやってきたのに、過労死仕掛けているんだろう?
どうやら、真面目に地球の科学知識をこっちの人間に伝授する必要がある様だ、と気が付いたものの、じゃぁ誰に?って話になる。
既に、商品化が成功している物に関して取得できる特許はあらかた取得済で、今後20年近くそれらについては製造が独占できる。或いは、特許権料をもらって製造を許諾出来る。
問題は、民度が低すぎてこの手の技術を理解できない、若しくは理解できても利用できない人が多すぎると言う事だろう。
既に、こちらの人間に対応できそうなものについては、生産を委託する形で、必要なら技術指導込みで分散をしている。
最近では、そういう製品に関しては、最終検品ですら弟子たちに任せて、俺はスポットで抜き取りチェックしかしていない状況だ。
だのに、時間が無い。
それでも、希望に沿えていないと、依頼者から督促が来る事もしばしだ。
考えれば考えるほど、背中に嫌な汗が出てくる。
何処で道を間違えたんだろう?
見渡す限り進むべき先は晴れ渡って見えると言うのに、進むべき道が見えない、いや道が荒れすぎていてまともに進めないのか?
好きに生きて良いんじゃなかったのかよ、ジーザス(神様)!
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