第137話 ペンジェンの街 クラリス教団の秘密 中編

 追放などがきっかけだったのかクラリスが行方をくらませ、残された孤児達で“クラリス食堂”という名の食堂を開き、残っていた彼女のレシピを元に色々作ったが、現地のリンクル族の好みの問題なのか不明だが、経営が上手くいかず借金経営になり始めた頃、奇跡が起き経営回復をし、その後は、多くの客が安い料理を喜んでくれるようになり組織が大きくなったと書かれていた。


 良く分からん、これだけだとただのレストランの起業の話に思えた。なぜ暗殺とか騎士団とかが出てきた?


 良く分からなかったので、シモンズの死体を取り出し、本人の記憶を見ながらもう一度本を読んだ。


 すると、本の内容は表の部分だけだった。


 国を追放された後、シモンズを含めた一部の孤児達による貶めた大人への報復をしたこと、そしてそれを知ったクラリスが行方をくらませた事、そして経営が悪化している時に来た客の愚痴を聞いていたとき暗殺という手段を思いつき、客に提案したところ、是非にとの反応があり、実行したことが暗殺稼業の始まりだった。

 そして、客からリライアンスフラワーの存在を聞き、花びらを粉末状にし料理に混ぜることにより、料理に依存した客の増加で経営が軌道に乗り始めた事、また周囲の者たちに貶められないように傭兵を雇った事が、テンプル騎士団の始まりになったことがシモンズの記憶から判明した。


 表は貧しき人の為の食堂と裏では暗殺稼業、そしていつしかリライアンスフラワーのおかげで大きな組織になっていったことが分かった。教団と呼ばれるのは、憎い相手を殺したいと願えばその願いが叶うからということと、貧しき者達に手を差し伸べているから何時しかクラリス食堂ではなく、クラリス教団と呼ばれるようになったと……


 人殺しをして対価を得て、そのお金で安い食事を貧しい人達に提供する。そして料理するものとしては禁忌とされるだろうリライアンスフラワーを使う事で客を増やしていくか、多分だが救われた命も少なくはないのだろうなと思った。


 シモンズは言っていた。

 “あんな神など祈っても救われぬ”と、確かに貧しい人達の為に安い食事を提供する事の方が、貧しい人たちにとってはありがたいだろう。


『ヒスイ、クラリスって使徒の事知ってる?』

『うん知ってるよ』

『今はどこにいるか分かる?』

『ヘインズにいるよ』

『ヘインズ?』

『トライベッカ公国の向こう側だけど、ヴェンダル王国に隣接している国だよ』


 アイテムボックスから父にもらった大陸の地図を取り出すと、ヒスイが地図の上に移動ししゃがんで指をさした。


『ここがヘインズ、海洋大国ヘインズの首都だね~』


 ヒスイがスーッと指を動かしていき、とあるところで止めた。


『ちなみに今君が居るペンジェンはここね』

『内海なのか』

『そそ、こっちの岬部分は全部海洋大国ヘインズだね、その対岸にあるのが今君が居るヴォーネスになるよ』


 行方をくらましたと書かれていたから気にはなったが、どうやら存命のようだ、しかもヴェンダルと隣接している国とか思ったより近くに居た。


『クラリス教団か、国を追放されたことが転落のきっかけか』

『そうだね、私は君とミアンくらいにしか興味はないけど人間って面白いよね~そんな事で悪事に手を染めていくとか』


 まあ、精霊から見ればそう映るのだろうが、面白いというよりは少し哀れにも思う、ここまで来ると、冒険者ギルドと商業ギルドがない理由が分かってきた。

 おそらくだがエノオンドクダミの存在を信者ならぬ客に知られないようにする為と、リライアンスフラワーの毒性利用を悟られないようにする為だろうな……


 さて、クラリス教団の弱体化の為にどう動くかな……


『そういえば、隠密は極めたね、それと速読スキルが身についてるよ』


 隠密のまま読んでいたからだろうか?隠密の極みはうれしいが、速読は必要性があまりない気がした。

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