第136話 ペンジェンの街 クラリス教団の秘密 前編

 リンクル族達がいたスラム街を後にした。


 処刑時刻まで時間を持て余しそうで何をしようか悩んだ結果、クラリス教団について調べようと思った。


『ヒスイ、クラリス教団の教会ってどこにある?』

『街の入口近くにあるよ、行けばすぐにわかるんじゃないかな』

『ありがとう』

『いえいえ』


 隠密を使用しながら街の入口までいくと、教会と思しき建物があった。


『ここか』

『うん』


 教会を出入りする人の流れに紛れ込み中に入った。


 入ってびっくりした。そこには教会とは思える光景ではなく、どちらかというと食堂と言って差し支えの無い光景が広がっていたからだった。


『来るところ間違えた?』

『クラリス教団の教会はここであっているよ』


 食堂の様な教会って……、そう思っていると、ヒスイが自分の肩を離れ辺りを飛び回っていた。


 何しているんだと思いながら、食堂の端に移動しヒスイの様子を観察していた。


 しばらくするとヒスイが自分の肩に戻ってきた。


『出されてる料理にリライアンスフラワーの花びらが入ってる』

『なにそのリライアンスフラワーって』

『毒性自体はあまりないんだけど、強い依存性のある花だよ、根を食べれば興奮剤、葉を食べれば鎮静剤、茎と花びらはただ依存性を高めるだけのものだけど、どれも共通するのは強い依存と、きれると極度の不安に襲われるって位かな』

『薬というより毒物じゃん』

『うん、それでねこれが大事なんだけど、リライアンスフラワーの毒性を消す薬草がエノオンドクダミなんだよ』


 ぇ?ここでエノオンドクダミが出てくるのかと思った。


 クラリス教団の信者集めは薬物によるものの可能性が非常に高くなってきた。すると次なる可能性があるとしたらエノオンドクダミの存在が教会にとって不都合なものの扱いになっているはずだ、毒草扱いされている可能性がある。


 エノオンに向かった兵達が使えなくなった理由がなんとなく見えてきた。現地の人たちは不可解な病気にならないために、エノオンドクダミを好んで口にするが、毒草と認識している教団兵達は口にしない、その為に使えない状態になっていったという可能性が非常にたかい。


『ヒスイ、この教会に書庫の様なものはあるかな?』

『あるよ、2階の部屋あとは地下に』


 どちらにあるだろうか?2階か?地下か?あまり目を通さない物なら地下だろうが、頻繁に目を通すものなら2階だろう。


 さんざん悩んだ末に2階の書庫を目指すことにした。ヒスイの案内の元2階に上がると、人の気配が全く感じられなかった。そのまま2階の奥の部屋を目指した。


 扉には鍵が掛けられておらず、中に入ると壁にびっしりと本が並べられていた、図書室というより本だけを保管している部屋だった。


 この中から探すのかと思うと気分が重くなってきたが、教団の秘密を暴くためだ仕方ないが探そう。


 探すとしたら、植物に関する書物と、せっかくだから創設にかかわる書物もさがしてみる事にした。


 クラリス教団創設に関する書物ならすぐに見つかった。そして執筆者はシモンズだった。中身を読むといくつかの事が分った。


 きっかけとなったのはクラリスという女性は使徒だった。そして彼女は孤児院経営をしているところから始まっていた。シモンズは元々彼女の経営する孤児院出身だったことが判明した。


 クラリスは生前料理人として活動していたらしく孤児院の子ども達に地球から持ち込んだ食材を使い、いつも様々な料理を出していた。多くの子ども達がクラリスの創る料理を楽しみにしていた。


 子どもたちが大人になり孤児院を卒業するときには、クラリスがこの世界でもできるレシピブックをプレゼントし、なかには料理人として成功したものも多くいた事が書かれていた。


 一方シモンズを含めた一部の孤児達は、クラリス自身が料理人として食堂を開くことを提案、そして食堂を開き、早い段階で軌道にのせ成功をしたが、周囲によく思わぬ者がクラリス達の食堂を荒らしたり乏しめたりすることが多くなってきた事、そして乏しめる者達に対抗して食堂を守る傭兵を雇ったが、それでも周囲の悪意は止まらず、料理に薬物を使っている等ありもしない事を言われ、遂には街をそして国を追放されヴォーネス王国(原ヴォーネス共和国)のユーロンスにたどり着いたこと等が書かれていた。

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