第135話 ペンジェンの街 老人の覚悟
「頼みとは?」
「ふむ」
ダッスは自分の肩越しで背後を見ていた。
「聞き耳立てている者がおるようじゃな……」
それだけ言うと、自身の指を使って地面に何か書き始めた。
そこには“クラリス教団の信徒のふりをしてワシを殺せ”と書かれていた。
「なぜです?」
「お主読めるのか?」
「ぇ?」
『彼が書いたのはリンクル族独自の古い文字だよ、普通人族は使わないし読めない』
言語理解が働いたか、だからもう少し早く教えてくれても……
「お主、使徒じゃな」
試されたのか……
「なぜそう思うのです?」
「ワシが書いた文字はリンクル族の年寄りしか知らぬ、リンクル族以外で以前読めた者も居たが、その娘は使徒じゃった」
まぁ元々ヴィンザー達は知っているし、何れは知れる事だし。
「そうですね、ネア様からの使いです」
「使徒殿が味方に付いたか、ならば、なおの事先ほどの事を実行してほしい」
「だからなぜ……」
ダッスは自分の耳元に寄ってささやいた。
「街から逃れて森の中に集落をつくっている者達もおる。その同胞達を蜂起させるためじゃ、」
「その為にあなたが命を?」
自分もダッスの声に合わせ小声で返した。
「そうじゃ、この先短い老いぼれの命じゃ未来ある若者たちの為にこの命を散らせるのも悪くはない」
そう言うのは自己満足だと思うけど、気持ちは分かる、生前自分も居合をやるようになってからだろうか、本当の戦場でどれだけ通用するのだろうか?やるからには実際の戦場で生き抜けるように極めてみたいと何度も思った。それと同時に散るなら戦場でなんて思った事もあった。
ダッスの望みもかなえよう、ただ命を散らす必要はない。幸いなことにテンプル騎士団所属のベルガムの死体もある。
「ちょっと失礼をば」
ダッスの後頭部から髪の毛を1本抜いた。
「痛」
「あなたが散る必要は無いですよ」
そう伝え、ダッスから離れ間をつくった。
そして盗聴される事の無いように、大気魔法を使い自分とダッスを囲むように空気の振動を抑えるイメージをした。
「何じゃと?」
「まぁ見ててください」
そう言って、神の手を使い髪の毛からダッスの身体を作り上げた。
「こいつは……、ワシじゃな?」
ダッスは驚いた表情を見せた。
「えぇ、今現在のあなたと同じ状態ですね」
「もしや死ぬのはそれか?」
「そうです。そしてあなたを殺すのは……」
アイテムボックスからベルガムの死体を出した。
「騎士団のベルガムか、エスティアに居ると聞いていたがの、それは本物か偽物か?」
「本物ですよ」
「そうか、死体をどうやって動かすのじゃ?」
首元に触れベルガムの死体を起こした。
「ほぉ……、その様子だと、肌に直接触れている必要がありそうじゃの」
「そうですね」
「お主が他の者に見えてどうする?」
そうなんですよね、それが課題だ、足は防具と服で肌が露出していないし、まだ隠密を極めているわけじゃないからどうするか、と思っていると、影渡りがあるじゃないですか。
幸い明かりの少ない建物の中だ、自分に改めて影渡りを付け、影渡りを使用し、ダッスモドキの影に身を隠した。
そして影からダッスモドキの足を掴み神の手を発動させダッスモドキを動かしてみると……、歩かせる際にすり足にしないとやり難いのが課題だが出来たこれなら、防具や服の一部を削いでしまえば!
とりあえずダッスモドキの影から戻った。
「こうやって操作しますよ」
「今のスキルは影潜りか?レアなスキルをもっているんじゃな」
「影渡りですよ」
「それはシャドーウルフしか身につかぬスキルと聞いた事があるが……」
「別に種族固有ではないですよ」
「もしや先ほどワシの肉体を作ったスキルか?」
「そうですね」
「お主にそのようなスキルはないようだが……、使徒だから出来る事と言ったところか……」
狐のお面外しても、鑑定偽装中だからな、使徒だとばれてるなら手の内を明かすのもいいが、今じゃないとおもった。
「ならば1つ頼みがある、わしにも影渡りを貸してくれんか?演説が終わったら、消してくれて構わん」
「演説ですか?」
「さよう、首を落とされる前に言い残す事があるかどうか問われるんじゃ」
なるほど、その際に陰に隠れて周囲に伝えるのか、
「わかりました。それではいつどこでやるので?」
「そうじゃな、明日の夕方、いつものキャラバンがこの街に来る、奴らはワシらの協力者だ」
そういえばエスティアでもキャラバンが情報伝達役だとかって言っていたな。
「なるほど、そのキャラバンが来ているときにやると」
「そうじゃ、場所は南門の上でよいじゃろう、奴らは見せしめ処刑は大体そこでやるからの」
はて夕方の時間か影が繋がるように配置しなければ、あとで下見しておく必要が有りそうだった。
「それでは、明日の夕方、南門の上で」
「その前にワシの所に来てくれ」
「わかりました」
キャラバンを利用して他の話を街に流すのか、キャラバンのペースだから瞬時に広がる事はないだろうが、ジワジワと広がっていくだろう。
その後は、処刑と救出方法の打ち合わせをしてお開きとなった。
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