第54話 グアーラと再会

 ポーコスの街を出てしばらく縮地移動していると、侯爵たちが野営をしていると思われる場所に到着した。辺りを見回すと、奥の方でグアーラが焚き火をしていた。近くまで行くとグアーラがこちらに気づいた。


「ナットか?」

「グアーラさん、お久しぶりです。」

「また珍しい服装だな、それに両脇の子どもは?」


 生前の仕事着のままだったからな、 両脇に抱えていた2人の子どもを地面に下ろした。気を失っているのか?ぐったりしている。


「ポーンタナ男爵とポーコス子爵ですよ。」

「2人とも子どもだったんだな」

「じゃなく、子どもにしたんですよ。」

「なるほど、大人を抱えて走るよりは楽だな」


 納得したような様子を見せた。


「そんなところです。侯爵はもう寝てますよね?」

「だろうな、2人の子どもも休ませてやれ、テントたてるか?」

「いやいいです。」


 土魔法を使って、簡単な寝床を建ててみるか。しゃがんで地面に両手をつけ雪で作るかまくらをイメージし魔素を流し込むと、目の前にもこもこと土のかまくらが出来た。


「器用な事をするな。魔素が切れると崩れるから土魔法で建物を作る事は無いんだが」

『君の場合は、絶対健康の恩恵で魔素量常時回復してるからその心配はないよ』


 まぁそうだよね、土魔法で建物建てられたら木造家屋なんていらないはずだし。


「そうなんですね、まぁ朝まで休ませられればいいですよ。」


 今日はそこまで寒くはないかな?大気操作魔法と熱の与奪魔法を使用し、かまくら内を快適な気温にした。平らになっているとはいえ硬い土の上で寝にくいだろうが2人を寝かせた。


「腹は減ってないか?こっちに来て何か食べるか?」

「ありがとうございます。色々持ってきてるんで自分で作りますよ」

「おまえさん大量に買い込んでたもんな」

「グアーラさんも食べます?」

「あぁ、頼む」


 グアーラには既に使徒だという事も伝えてるしあまり遠慮しなくてもいいだろう。

ファイティングカウの肉も余ってるし牛丼でも作るか、そうと決まればさっさと作っていこう、キャンプで使う調理グッズをだし、ご飯を炊き、ファイティングカウの肉と玉ねぎを味付けした汁の中でじっくりコトコト煮込んでいく、ついでだしファイティングカウのベーコンでも作るか、燻製用の鍋を出しサクラチップを広げ、ファイティングカウのブロック肉を放り込んで火にかけた。


『ナット!ナット!ユグドラシル!』


 そういや以前育ててって言ってたっけ、袋からチップ1つ取り出し、神の手を発動させ修復していくと大きくなりそうなので、調整しながら盆栽サイズの小さな桜を咲かせた。桜が鮮やかなピンク色の花を咲かせている。


「そいつはユグドラシルか?」

『ほらーユグドラシル!』


 グアーラもユグドラシルと言ってくるか、この世界には桜はないのか?


「桜なんだけど、この世界に桜はないの?」

「秋津やあっちの方で見られるぞ、だがそいつは花びらの色がかなり濃いだろ」


 んー自分には細かい品種が解らないからな、もしかしたら違う品種の桜が桜として存在していて、この品種はユグドラシルということになっているのかもしれないな……


「ユグドラシルって本来どこに生えているんです?」

「そうだな、俺が知っているのは、ここからはるか西に行ったエルフィン王国の大木くらいしか知らないが」

『この世界には3本しかないかなぁ~』


 思った以上に少なかった。


「ユグドラシルの葉は薬草としても有名だぞ」

「そうなんですか?」


 出発前にミアンからユグドラシルの葉を使ったレシピを教わっていないけど……


『エリクサーの材料になるよ~』

『そうなのか』


 ヒスイがウンウンと2度頷いた。


 しばらくグアーラと雑談していると。


『ナット、ジャガックスがこっちに来てる。』


 賞金首か探す手間が省けたな、目の前にいるグアーラにそのことを伝えよう。


「グアーラさん、賞金首のジャガックスがこっちに向かってるそうです。」

「大精霊の力か?」

「そうです、近くに植物や木材があればどこにいるかわかるみたいで」

「凄いな……、見通せない場所の方が少ないだろうに、ジャガックスの件は了解だ、弓の名手だから気を付けろよ」

「了解」


 弓の名手ならどこか狙撃ポイントから狙ってくるのだろうか?

 とりあえず今は目の前の料理を焦がさないようにするか。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る