第50話 悪魔憑きと治療
棚の裏に隠されていた扉を開け中にはいると、2つの牢屋と4つのベッドが並んでいた。
「これは……」
腐敗臭が酷いので大気操作魔法で匂いの元となる菌を排除した。
すると、匂いが消えたからか女性が驚いたような表情を見せた。
「ぇ?なにかしました?」
「匂いが酷かったんで、匂いの元を消しました。」
「魔法じゃないですよね?何も言ってませんでしたよね?」
「魔法ですよ。」
「ぇ?」
驚いている女性をスルーして2つの牢屋に居る少年と少女、ベッド上には2人の男がいた。3人共は四肢のどこかしらに欠損が見られ、1人はうなされている。牢に居る2人に関しては両足が無かったり、大きな傷口から腐敗したりと悲惨な状態だった。
『牢の中に居る男の子が悪魔憑き』
「すいません、この方々って何故このような大けがを?」
すると女性は困ったような表情を見せながら話し始めた。
「ここに居る者達は皆鉱山都市トザズトアでケガした者達です。特に牢の中に居る2人に関しては、共に居た者達から囮として足を斬られ見捨てられた子です。」
囮?鉱山で囮って何……?
「鉱山で囮ですか?」
「えぇ、その様子を見るにご存じないようですね、トザズトアの鉱山自体がダンジョンなんですよ。手ごわい魔物も多くいるのですが、珍しい鉱石が取れるために大変人気のあるダンジョンなんです。アイテムボックスを持っている者達でも要領限界がある為、そこの2人の様にアイテムボックス持ちの子どもを誘拐したり奴隷契約したりし、ダンジョンに潜る者達もいるのです。」
誘拐に奴隷契約し万が一の時には囮か……、人権はどこ行ったんだか、個人的には患者はどんな人間でも助ける対象だが、そうでなければ罪人に人権はない相応の償いをすべきだと考える派だ。
『それがきっかけで悪魔憑きに?』
『そうだね、強い憎しみと絶望から来てると思うよ。』
「ろくに動けそうにない2人を何故牢に?」
「2人とも悪魔憑きになりえるからと言ったところでしょうか、男の子のほうすでに食事をだしたりする者達に襲い掛かったりしていますから。」
悪魔憑きになる条件というのは常識レベルなのかな?
しかし、足が使えないのに襲い掛かるとか、さっさと対応するか。
「男の子の方の扉開けてもらっていいです?」
「私の話を聞いていましたか?」
「だからですよ。彼は既に悪魔憑きになっています。」
「やっぱりそうでしたか」
牢の扉を開けてくれたので中に入る。
『ヒスイ、悪魔憑きって得体のしれない悪魔が憑いてる状態っていってたよね?』
『うん』
『悪魔だけを断ち切るとかできるよね?』
『そりゃできるけど、強い負感情を持っていたらまた……、って君なら記憶をいじっちゃえば問題ないのか』
対応できそうだ、まずは悪魔祓いとやらをしよう。アイテムボックスから神刀を取り出し構える。足の無い男の子が両腕で上体を支えこちらを般若の形相でジーっと見ながら自分の間合いに入ってくるのを待っているのだろう。
斬るのは男の子の意識と悪魔とか得体のしれない何かの存在と意識し一閃!
男の子がその場に崩れ落ちた。
『ヒスイ、悪魔とやらは消えた?』
見えない物はさすがに確認が出来ないので、ヒスイに確認した。
『うんうん、消えたよ』
問題ないと確認できたなら次だ、神の手を使い男の子に触れ体の修復をしていく。失った足を修復ししばらく食べていなかったのだろう栄養失調の様子も見られるので各臓器の正常化をイメージし修復した。
次に彼の記憶を覗くと、ガラの悪い3人組に親を目の前で殺され、無理やりついてこさせられている。逃げると殺すと脅されていた。ボスなのか何なのか解らないが、これまでに見たことのない濃い青色の細い人型の魔物が目の前に現れたとき、3人の誰かが「やばい!」というと同時に男の子の足を切り落とし逃げていった。男の子が男の1人によく似た金属の人型の魔物に襲われかけた時、背丈の低い髭もじゃの男達に助けられそこで記憶が途切れた。
ん~金属の人型がゴーレムか?侯爵から預かった紋章にまったく似ていない魔物だった。というか、赤子時代のヒスイの世界ツアーでゴーレム系を見たことが無い気がする。そして最後にみた背丈の低い髭もじゃ男達はドワーフだな。というか、本来この状況だったら病院に緊急搬送されるはずなのになぜ奴隷商の元に?
『ねぇヒスイ、昔ツアーで色々な魔物を見せてくれたけどゴーレムって見せてくれたっけ?』
『見せてないはずだよ、ゴーレム系が居るのは植物が生えていない所が多いからね』
『そうなんだ、どんな所にいるの?』
『ん~主に洞窟や坑道跡地なんかに居るんだよね、そもそも彼等がいる場所は魔素の濃い地中がメイン』
『なるほど』
洞窟や鉱山なんかの地中じゃ植物が生えてない場所の方が多いか、目の前にいる男の子に意識を戻し最終チェックした後記憶を改変した。
「とりあえず、この子は大丈夫です。このまま残り3人も診せてください」
「えっと、あなたは……」
思えば、使徒だと知らない相手の前で堂々と神の手を使ってしまった。
「ここで見た事は内緒でお願いします。女の子の方もお願いします。」
「はい」
もう一つの牢女の子の方も同様に対処していく、こっちの子は斬られた辺りが腐敗し始めていた。そして記憶を覗いたときに解ったのが、男の子と同じ加害者に両親を殺され無理やり奴隷にされていた。常習犯か何とかしないと新たな犠牲者が増えるだけだ。
残るベッド上の男達も対応していく、1人目は膝下が噛み千切られていた。犬……もう少し大きいか?なんだろう……、失ったしを修復した。2人目は狂犬病なんて珍しいものに感染していた。島国だった日本はもう長年狂犬病感染患者は居なかった。生前合わせて初めての狂犬病患者だったが、事例研究論文とか書物を読み漁っていたせいで診断出来てよかった。既に神の手を見せちゃっているので遠慮なく神の手を発動させ治療していった。
一通り全員の治療を終えたあと。
「これで4人共問題なく過ごせますよ」
女性が呆けていたが、戻ってきてくれたようで応えてくれた。
「……ありがとうございました。一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「なんでしょ?」
「あなたは使徒様ですか?」
まぁそうだよね、失ってる足を生やしたし、触れただけで健康的になるとか普通にあり得ないしね、今更なのでごまかす正直に話すことにした。
「そうですよ、ただしここで見たことは本当に誰にも言わないでください。」
そう伝えると、目の前にいた女性がいきなり跪いた。
「名乗りもせず大変申し訳ありませんでした。私の名前はバーバラ・ランベルと申します。以後お見知りおきを」
「あ~そういうのは良いです。もしよかったら牢に居る2人を譲ってくれませんか?」
「ぇ?それくらいはかまいませんが……」
『どうするの?君の旅の邪魔になるだけじゃん』
ヒスイの言葉が結構きつめだと思うのは気のせいか?
『ここに居るとまた同じような目にあうだろうから、どうせならミアンの所で平和に暮らしてもらおうかと思って。』
『あぁ~なるほどね、2人とも鑑定持ってるし、細かい状況観察できそうだからいいかもね~』
アイテムボックスに鑑定持ちって、商人として成功しそうな組み合わせだよなぁ……
『冒険者に依頼してブラン村の自宅までの護衛を依頼すれば自分で行かなくてもいいでしょ。』
『まぁそうだけど、信用できるものに依頼しないと攫われるだけだよ』
それもそうだな、とりあえずバーバラさんに預かってもらいつつ冒険者の確保をするか?
「バーバラさんお願いがあるのですがいいですか?」
「はい、なんなりと」
未だに跪いて頭を下げている。
「普通にしてもらえませんか?話しにくいので……」
それを伝えると、素直に立ち上がり普通に接してくれた。
「失礼しました。それでお願いとは?」
「2人の子どもを、ブライメリー王国ブラン村のとあるところまでの護衛依頼出したいのですが、自分は自由が利かないので、バーバラさんの方で信頼できる冒険者に依頼してほしいんです。またそれまで2人の面倒見をお願いしたいんです。」
「それ位でしたら、他に何かありますか?」
あとお願いする事あるかな?
あった……もう1人連れてくる可能性があることを。
「そうですね、もう1人連れてくるのでまた何も聞かずに引き取ってくれると嬉しいです。」
「わかりました。先ほどの件ですが、詳しい場所まで教えてもらってもいいですか?」
「そうでしたね、ブラン村にいるサントとカレンという夫婦の住んでいる家までお願いします。」
「ありがとうございます。2人は依頼する冒険者が見つかるまで私のお手伝いさせようと思っていますが、構いませんか?」
「それ位でしたら構わないです。2人の事をお願いします。」
あとは両親とミアン宛に手紙を書かなきゃかな?
そう思い、アイテムボックスからA4コピー用紙とボールペンを取り出し手紙を書き始めると。
『なにやってんの?』
『両親とミアン宛に手紙だよ』
『ん?私に伝えたい言葉を言ってくれれば、ミアンに伝えられるよ?』
『ん???』
正直、頭には“?”しか浮かばなかった。
『私たちドライアドは繋がっているから、ミアンの所にいる子に伝えてその子がミアンに伝えてくれるよ。』
携帯電話なんかが無いこの時代に瞬時に伝達する方法があるとはなかなか便利な存在だ。
『それじゃあ、ミアンに子ども2人の受け入れをお願いしてもらっていい?あと両親の所に連れて行ってもらうように依頼してあるからその旨を両親に伝えてと』
『OKOK』
改めてバーバラさんの方に意識を戻した。
「それじゃあ、帰りますね」
「わかりました。入口まで案内します。」
その後、バーバラに入口まで見送られ、ランベル奴隷商を後にした。
次は子爵の対応をするか。
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