第37話 スタンピード後処理 i医師として

 西門に向かおうと駆けようとしたとき。


『ナット、東門に居た冒険者の容体が良くない、このままだと……』


 ん~西門よりもそっちの方が大事か?


『西門の状況は問題なさそう?』

『うん、多分大丈夫じゃないかな、ここに居た冒険者達も西門に向かってるし、残ってる魔物達もそんなに多くない。』

『そっかなら西門じゃなく患者の方を優先させるか。』

『それがいいと思う。』


 城門が開き、冒険者らしき人や、兵士と思しき人たちが出てきて西門方面に走っていった。


 彼らとは逆に自分は、開いた城門から街の中に入った。


『ヒスイ、その冒険者の居る所に案内してくれない?』

『いいよ、それから、馬車を囲む壁けしたら?もう東側は安全だよ。』

『そか』


 とりあえず2重の壁が消えるようにイメージした。


『できた?』

『うん、出来てる。それじゃ、こっちついてきて。』


 前をふよふよと飛んでいくヒスイの後をついて行く。街の中を見るとまだ夜と言っても差し支えの無い時間帯だろうけど、多くの人達がいる。街の人たちも一緒に戦っていたんだろうな。


『ここの中に居るよ。』


 ヒスイに案内された場所は、東門の前にある羊皮紙の看板が掲げられた建物だった。


『冒険者ギルド?』

『うん~この中で治療してる。』


 扉を開けて中に入る。中もガランとしていたが、カウンターに1人のガッチリした男性がいた。その男性の元に寄っていき。


「すまない、医者なのだが、こちらに怪我人が居ると聞いたのだが……」

「ん?あんたは、秋津直人とか言ったな?」


 ん?


「なぜそれを?」

「おまえさんが俺らの前に立った時名乗ってただろうが、まぁお前さんのおかげで俺は助かったが」


 あぁ、東門の外で戦っていた人なのかな?


「重症者は?」

「奥に居るぞ、ついてこい」


 男の後について行く、その途中で。


「そういや、おまえさん見たことのない顔だが、高ランク冒険者なのか?あれだけの数を一瞬で葬るなんて有名どころだと思うんだが」


 この姿では冒険者カードないからな、冒険者というべきではないよな、普通に医者で通すか。


「自分は、医者ですよ、冒険者ではないですね。」

「そうなのか?あれだけの腕を持っているならAランクまで余裕だろうよ、登録していくか?」


 二重登録って問題ないのかな?問題ないなら、登録しておこうかな。


「良いんですか?自分の居た国では冒険者として活動してなかったんで」

「名前もだが、見た感じも、秋津の人間だろこの時期ここに居るって事は王都の武術会か?」

「まぁそんなところですね。」

「それなら奴らと面会後登録するか、腕は十分だからな、Cランクからでいいだろう。」


 この人冒険者登録できるんだろうか?


「いいんですか?ところで、あなたは?」

「そういや名乗っ取らんかったな、俺の名はライアン、このギルドのマスターをやっている」


あぁなるほど、ギルドマスターだったのか、

ライアンが、1つの扉の前で立ち止まった。


「この奥だ、正直助かってほしいが絶望的だ」


 絶望的に思える患者は、どれだけ見てきただろう、思い出せないほど沢山見てきた。


「可能な限り手を尽くしますよ」


 扉を開けると、介抱している2人の男女とベッドに寝かされている2人の男がいた。2人ともすでに意識が無い?2人ともこと切れそうなレベルだ。


「秋津の医者を連れてきたぞ」

「あん?あんたは……?」


 介抱している1人の男が


「どうも」

「こんな若いのに任せてもいいのか?」

「そういってもだ、こんな状態じゃ死を待つだけだろ、専門家に任せるのが一番だろうが」

「そうだが……」


 横たわっている1人は、胸部裂傷、左腕切断か、胸部裂傷が危ないが、思った以上に出血量が少ない。


『ヒールポーションつかってるね、だけどこれじゃあ延命したくらいにしかなってない……』


 さぁ、オペをはじめよう。

 止血が済んでるなら、まずは、胸部裂傷を何とかしよう、男の寝ているベッドの横に膝立ちになり、状況確認をする。体内の血液量が異様なくらい少ない、デッドラインギリギリか?


 神の手をつかい感覚を遮断、全身麻酔状態にする。さらに患者の体内血液量を健康ラインにもっていく、心臓には傷はない、裂傷部分を縫合しておけば問題ないだろう。胸部裂傷部分の縫合をした。次に左手だ、切り落とされた先もあるために戻しても不思議には思わないだろう。本来なら切断したらつなぐだけならともかく、神経まで戻す事は出来ないが、神の手というものがある。


 腕の切断部分同士をくっつけ縫合しつつ、神の手を使用し、骨、神経、筋肉、血管等、皮下組織を含めた内側をすべてつなげていく。残すは、表皮と真皮だけだが、これくらいならあとは自分自身の自己治癒能力でどうともなるだろう。この男はこれで問題ないだろう。全身麻酔状態を解除した。


「この人はこれで十分です。体を洗うなりなんなりして大丈夫です。傷口だけは気を付けてください」

「お、おう、腕もくっつけられるのか……」

「相応の知識と技術が必要ですけどね」


 次の男を見るとこちらは、右大腿骨開放骨折に左上腕部に深い裂傷か、結局2人とも出血量が死に繋がるところだったって事か、この世界で輸血なんて概念はなさそうだし、一定以上の失血=死なんだろうな、神の手を使い、体内血液量を健康ラインに戻し、全身麻酔状態にし、それぞれの患部の対応をした。しっかし、神経をつなぎなおすことができるって、この力を持ったまま日本に戻れば、どれだけの人が救われるだろうと一瞬頭をよぎった。


「これで、こちらも大丈夫ですよ。」

「絶望的な2人をどちらも死なせずに終わらせたか、お前さんとんでもない名医だな。秋津にはそんな医者ばかりいるのか?」


 秋津にもそんな医者は居ないだろう。


「なわけないですよ。ごくごく限られた人達だけですよ。」


 これで終わりかな、そう思った時。


『まだ1人いる。たぶん彼女の方が君の力を必要としてるかも』


 ん?別の部屋か?


「これで終わりですか?」

「いや、もう1人いるが、正直おまえさんでも対応できるかどうか……」


 はて、どんな症状だ?


「案内してもらっても?」

「あぁ、構わない」


 ライアンが一度部屋の外に出て、真正面にある扉をノックした。中から返事があり扉を開けて中に入った。


「すまんな、入るぞ、リコ大丈夫か?」


 中に入ると、2人の女性が居た。1人はベッド上で横たわり、右手で顔を覆い泣いている。


「マスター……、彼は?」


 横たわっている女性が患者なんだろうが、先の2人と比べて何も無いように見える。


「デニムとヴァルの傷を治した医者を連れてきた。」

「ぇ?2人を?」


 女性を看病している女性が答えた。


「あぁ、死を待つだけの2人をな、おまけに切り落とされた腕をくっつけるという神レベルの医者だ、リコも希望を持て、何とかしてくれるかもしれん」

「どうも」

「その服装と声、もしかして私たちの前に立った人です?」

「あぁ、俺らの命の恩人、秋津直人本人だ」


 そう言う紹介のされ方はあまり好きになれない、とりあえずベッド上で横たわっている女性の横までいく、先ほどから見た感じ、外傷は見られないが、布団の下とかか?腕を動かしているけど下半身は全く動いていない?


「下半身が動かないとか感覚が無いとかです?」

「ぇ?見ただけで解かるの?」


 脊椎損傷か、交通事故とかで運ばれてくる人に見られる症状だ。本来ならレントゲンとかがあれば良いんだけど、経験で判断していくか。


「手に痺れは?」

「あります。一部が上手く動かせません。」


 手に痺れありか、頸椎だな、C5~8のどこらかがやられたか。


「頸椎損傷と言ったところですかね、首から背中にかけて何か強い衝撃を受けませんでした?」


 女性の目が丸くなった。思い当たる節があるのだろう。


「デニムが、ジェネラルに吹き飛ばされた際に背後にあった壁に……」

「それかもしれませんね、原因がわかるので何とかなりますよ」

「ほんとですか!」


 本来なら車いす生活を余儀なくされるレベルだろう、この世界に車いすなんてないだろうが……、ヒスイが自分の力を必要としているかもと言った理由がなんとなくわかった。この世界に車いすなんてないだろうし、どうやって生活していくんだろう。


「それじゃあちょっと失礼」


 膝立ちになり、患者に触れる。


「こちらの女性の意識が無くなりますが気にしないでください。」

「あぁ」「えぇ」


 患者に触れ、感覚遮断し全身麻酔状態にする。


「すいません、そちらのお姉さん、この子をうつ伏せにするのを手伝ってもらっても?」

「わかったわ」


 さて、どうするか、神の手で治ったではなく、手術で治ったようにする必要がある為見た目手術をする必要があるが、どのようにするかな?とりあえず、患部付近を切り開いて、何かするフリをすればいいかな、とりあえずそのプランでいこう。


「ライアンさんは、枕を二つ用意してもらっても?」

「いいがどうするんだ?」

「顔の左右に置くんですよ、隙間が出来るから呼吸しやすいでしょ。」


 ジェスチャーを交えて説明したおかげか理解してもらえたようだ。


「あぁなるほど」


 患者の用意は出来た。見栄えだけの手術をしよう。患部周りを少しだけ切り開いた。適当な事をしつつ、神の手を発動させ頸椎を修復していく、終わったら縫合しておしまい、全身麻酔状態を解除した。


「どうですか?まだ痺れとかあります?」


 そう尋ねると、彼女は上体を起こし、ペタン座りになった。それを見て大丈夫そうだなと判断した。


「しびれはありません、足もちゃんと動かせます。」

「それはよかったです。」

「しっかしすごいな、首の後ろをちょっと切って何かやっただけで治るのかよ……」


 んなわけない、そんなんで治ったら、頚髄は治せないなんて言われない。自分がこの世界に来る直前までならある程度の治療法はあったが、本来首の後ろを切り開いてどうにかなるものじゃない……


「まぁ、体の構造をちゃんと理解してないと無理ですけどね、これで今いる人は終わりですか?」

「あぁ終わりだ、だがまだ北と西の外が終わってないからな、患者ならまだ来るだろうよ。」


 ありゃ?北が終わってるの知らないのか。


『西門の方も先ほど終わったけど、怪我人はそれなりに居るよ』


 あぁそう……、まだまだ終わらなさそうだな。


「北は、既に終わってますよ。自分が片付けたので、あと西ももう終わってると思います。」

「北は、ともかく、何故西の事が?」

「企業秘密って事で、怪我人をこっちに回してくれません?今回のスタンピードでケガした人なら対応するんで」

「すまない感謝する。リコ病み上がりの所、悪いが北の宿に走ってもらえるか?」

「サーシャは西門の商業ギルドに行ってくれ」

「「はい」」


 その返事をすると、2人の女性は急ぎ部屋の外に出て行った。さて、事が終わったなら侯爵の護衛に戻らないとだけど、おそらく今日はこの街で泊るとは思うけど、そうじゃない場合は時間を貰わないとだ。


「それから、グアーラさんを知ってます。」

「あぁ知ってるが、お前さんの知り合いか?」

「えぇもし彼を見つけたらここに案内してもらっても?」

「あぁわかった。お前さんはどうするんだ?」

「患者が来るまで、少しここで休んでますよ。」

「了解だ、俺はカウンターに戻る、何かあったら来てくれ」

「わかりました。」


 自分の返事を聞くと、ライアンは部屋を出て行った。


『ヒスイ、グアーラや侯爵たちは?』

『西門近くの宿に到着したところかな、今日はこの街でお休みだってさ。』


 予想通りか、それなら大丈夫かな、とりあえず少し休もう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る