第4話
次の瞬間、理不尽極まりない振る舞いをする父に対して怒りがこみあげてきた。その気配を察した母は、
「お二階のあなたのお部屋でお話ししましょうね。先に上がっていてね。」と言った。仕方なく、私は二階に自分の部屋に上がった。
二階といっても、昔からある家だから、天井が低くて、狭い。それでも小さな勉強机と背の低い本棚がある。本棚には勉強の本だけではなく、世界の名作シリーズがずらりと並んでいる。小さな窓のカーテンは私の好きなピンクの地に白い花柄の生地で母が手作りしてくれた。この部屋には母の心遣いがつまっていた。父に腹が立つが、母を困らせたくないと思った。
しばらくして、母が二人分の紅茶とビスケットをお盆にのせて私の部屋に来た。
「いい香りでしょう。落ち着きますよ。」
母はそう言って一口、紅茶を飲んだ。受け皿からカップを持ち上げる所作は子供の私が見ていても、とても上品だ。
「ごめんなさいね。私があなたに教えてあげていたら、嫌な思いをせずにすんだのにね。」
私は無理に笑顔をつくった。
「南天の実はいいから。赤いのがあれば、いいアクセントになると思っただけだから。」
「赤いものでよければ、ビーズをあげましょうか?」
私は首をふった。母が自分のセーターからビーズを取り外すのだと咄嗟に思ったからだ。
「心配しないで。紙粘土で形を作って絵の具で色を塗るから。」
「そう。悪いわね。あの南天はね、鬼門といって、お家の北東の方角に植えてあって、邪気を払うためのものなの。お父さんのお母様が大事にされていたと聞いています。南天には『難を転じる』という意味があるの。」
「そうだったんだ。」
ならば、自分の口から説明すればすむことではないか。やはり、父のことは嫌いだと思いつつ、その後は母とおしゃべりの続きを楽しんだ。
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