共同戦線(1)
ポーラニア帝国とイクリプス王国共通の隣国・ルナリア王国が、突如としてイクリプス王国に対して戦争を仕掛けてきた。
陛下の判断は素早く、武闘大会の残る試合は中止して観客を撤収。父上とやり取りをして、ディゼルド騎士団を援軍として向かわせることができないか相談しているようだった。
後背であるポーラニア帝国を気にする必要がない以上、ディゼルド騎士団を向かわせることに対する大きなリスクはないはず。父上も陛下からの要請を受け入れ、騎士団を編成するために動き出した。
「なんでこのタイミングでルナリア王国が……?」
私は落ち着かないまま疑問を口にする。
これは偶然? それとも私たちがここにいることを知っててあえて今を選んだ……?
その答えが出るよりも早く、私やレイジに近づく影があった。王太子、オースティン殿下だ。
「ポーラニア帝国皇太子、レイジ殿下にお願い申し上げます」
オースティン殿下は膝をつき、レイジの前で頭を下げる。
「これまで、ルナリア王国からたびたび牽制のための接近はあったものの、明確な侵攻まではありませんでした。恥ずかしながら、敵方の戦力が掴めず、このまま国内の戦力のみで応戦できるかわかりません。そこで、現在わが国にいらっしゃる帝都騎士団の皆さまにも、援軍としてご参戦いただけませんでしょうか」
「国土を巡る戦争は、原則として当事者同士で決着をつけるべきだ。ポーラニア帝国が参戦するということは、その結果として勝利した際には帝国にも相応の利益があると考えていいんだろうな?」
「もちろんです。講和会議で帝国の利益は保証させていただくのと、糧食はすべて王国から手配いたします」
平身低頭といった様子で、オースティン殿下はレイジの要請を受け入れる。それだけ、王国の危機を防ぎたいと考えているのだろう。
「承知した。ポーラニア帝国皇太子の権限をもって、我が帝都騎士団を友好国・イクリプス王国の危機に派遣しよう」
「ありがとうございます!」
殿下は額を床に擦らんばかりに深く頭を下げる。レイジは「もういい」と言って私の方に向き直ると。
「俺は帝都騎士団を率い、ディゼルド公爵……義父上と協調してグライン侯爵領へ向かう。ステラ、お前は後方支援部隊として、両軍への糧食の手配と情報連携に努めてほしい」
「……私は前線に出るなと?」
レイジは相変わらず私が前線に出ることを拒んでくる。私が不満げにそう問うと、
「もちろん、ステラが前線にいてくれた方が早く事態を鎮圧できるだろう。だが、今回は相手の全容が見えない。長期戦になった場合、糧食の管理は必要不可欠だ。その点、ステラならそれを安心して任せることができる。これは合理的な検討による判断だとわかってほしい」
レイジはそっと私の手を握る。そう弱々しく言われてしまっては、強く押し切ることができないわね。
「仕方ないわね。少しでも不甲斐ないと思ったら交代してもらうわよ」
私はそう言って強く手を握り返す。レイジは安堵したような笑みを浮かべた。
「オースティン殿下には国王陛下と共に王都へ戻り、状況の整理をお願いしたい。いいだろうか?」
レイジが殿下にそう問うと、殿下はすぐにうなずく。
「もちろんです。私には戦う力がなく、お任せしてしまい大変心苦しいですが……どうかよろしくお願いいたします」
オースティン殿下はそういうとその場を辞して国王陛下の下へと向かった。
「私たちも行きましょう、レイジ」
「……ああ、そうだな」
出立に向けて、急いで準備をしなければ。
私はクラリスと連れ立って控室へと急いだ。
---
「おい」
「はっ」
オースティンとステラが離れたところで、俺は近くの護衛にそっと話しかける。
「イクリプス王国民のふりをしてオースティン殿下の後を追い、周囲を警戒しろ。可能であれば王都にいるステラの弟……アランの協力を得てほしい」
「かしこまりました」
いうが早いか、そいつはすぐに人ごみへと紛れて姿が見えなくなる。
「さて、何が出てくるか……何が起きても、ステラだけは守らなくては」
俺はそうつぶやいて、ステラの後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます