第34話
カラオケで時間いっぱい歌った後、渚を家まで送り、そのまま解散した。昼間は駿に衝撃的な相談を持ち掛けられたりもしたが、カラオケで歌ったらそれも吹っ飛んだ。
案外、渚が気を遣ってカラオケに誘ってくれたのかもしれないな。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
家に帰ると氷岬が足を引きずりながら出迎える。まだ足を引きずってはいるが大分回復したようだ。
「汐見さんとデートかしら」
「そんなところだ」
俺はそう言って自室に上がる。渚と付き合い始めてから、氷岬との会話が減った気がする。というより、俺が無意識に避けているんだろうな。渚を裏切らない為に。
部屋がノックされる。
「ちょっといいかしら」
そう言って部屋に入ってくる氷岬。俺はベッドに腰掛けながら用件を聞く。
「なんだよ」
「もうすぐ期末テストじゃない。どうせなら一緒に勉強しないかと思って誘いにきたの」
確か、氷岬はクラスでも成績上位者だったはず。氷岬に教えてもらえれば、次のテストはいつもよりできるかもしれない。
「いいのか、俺なんか足手まといになるだけだぞ」
「かまわないわ。誰かに教えながらやったほうが、私も勉強になるもの」
「それじゃあ明日からやるか」
「私は今日からでもいいのだけど」
「悪い。今日は疲れた」
歌いすぎで。
俺はそこでふと思いつく。もし俺が本当に渚を大事にするのなら、氷岬との関係をはっきりさせるべきではないだろうか。なら、駿に協力してやるのがいいんじゃないか。選ぶのは氷岬だ。それでもしうまくいかなくても、俺が駿に感じる罪悪感はない。
「そうだ。どうせなら駿と渚も誘って勉強会やらないか」
俺は出し抜けにそう提案する。
「金子くんと汐見さんも誘って?」
「ああ、実はさ。俺と氷岬が一緒に暮らしてるの駿にもバレたんだわ。俺たちが付き合ってないことも知ってる。だからうちで勉強会しても問題ないだろ」
「そうだったの。まあ、金子くんと汐見さんが増えるぐらいなら問題ないわね」
氷岬も了承したので早速二人にメッセージを送る。渚は即既読になり、参加すると返ってきた。駿から返事はないが、断る理由はないだろうし、参加するだろう。
俺がスマホの画面と睨めっこしていると、氷岬が耳元までやってきて囁く。
「本当は、君と2人きりでやりたかったのだけど」
「やめろよ。びっくりするだろ」
「ふふ、私にもアピールタイムがあってもいいじゃない。私はまだ諦めてないもの」
先が思いやられるな。駿のサポートをできるだけしてやろう。上手くいくとは思えないけど。
駿からは参加すると返事がきた。こうして期末テストの勉強会が俺の家で行われることになった。
「ちーっす。今日はよろしく氷岬さん」
「お世話になるよ、氷岬さん」
翌日の放課後。駿と渚が我が家へやってくる。
リビングに案内してジュースを出しながら、俺は駿の様子を見る。別段、いつもと変わった様子はない。駿は取り繕うのが上手いのだろう。だから駿の恋心にも俺は気付けなかった。単純に俺が鈍いだけなのかもしれないが。
「氷岬さんって学年3位だっけ」
「ええ。これでも勉強は得意なほうだわ」
「すげえな。俺と拓海なんて下から数えた方が早いからな」
「うるせ。俺を巻き込むな」
「私も勉強は苦手だな。頭がこんがらがっちゃうよ」
渚が苦笑しながらテーブルに問題集を広げる。席順は俺の隣が渚、正面が駿という配置。つまり駿の隣は氷岬だ。この位置に自然に誘導するのに気を揉んだ。まあ、俺と渚が付き合っているから、隣同士になるのは必然だったが。
俺は駿にアイコンタクトを送る。駿は頷きながら、早速氷岬を手でこまねいた。
「氷岬さん、さっそくなんだけど、ここ教えてもらっていい。数学なんだけど」
「わかったわ。どれどれ。あー、ここはね……」
氷岬が駿の方に身を寄せて、丁寧に解説してやっている。それを聞いているのかいないのか、駿はしきりに頷いていた。
「こうなるの。わかったかしら?」
「おう、サンキュ。やっぱり秀才様は物が違うぜ」
自然に氷岬を褒める駿。
「……これぐらいはお安い御用よ。でも、ありがとう」
ん? 氷岬のやつ、満更でもなさそうな感じだが。気のせいだろうか。
「拓海くん、ここってわかる?」
渚が身を寄せてくる。問題を見ると、俺でも解けそうな簡単な問題だった。渚がこんな問題解けないとも思えない。
「ああ、ここはだな……」
渚に頼られるのマジ気持ちいい。渚のやつ、絶対狙ってやってるな。
「うん、ありがとう。助かったよ。拓海くんの教え方、すごくわかりやすかったよ」
微笑む渚。勉強会すらいちゃつく会にしてしまう渚の対応力に俺は舌を巻いた。でも悪くないです。
それからしばらくは、問題集に集中した。本当にわからないところは素直に氷岬を頼りはしたが、基本的にその役目は駿に譲ってやった。俺と渚は時々簡単な問題を互いに教え合うことでいちゃついてみせ、駿と氷岬に見せつける。
「ずいぶんと仲良くなったわね、汐見さん」
氷岬が微笑みを湛えたまま言う。
「うん、拓海くんといると本当に幸せなんだ」
「もうお前ら隠す気ないだろ」
駿も苦笑しながら、突っ込む。
「そう。見ていて微笑ましいわ。さあ、ちょっと休憩にしましょうか」
そう言って氷岬は立ち上がる。
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