第4話

 店の中へ入ると、エアコンの風に汗がすうっと引いていく心地よさを感じた。

 山間の町だからそもそも都心よりはるかに涼しいのだが、それでもブティックだ。商品に汗は厳禁。


 同時に、目に飛び込んでくる婦人服の数々に食指が動く。

 古い店舗だが、隅々まで掃除が行き届いているばかりでなく、ちょっとしたコーナーに可愛らしいお花や置物が飾ってあるのが乙女心をくすぐる。全体的には明るい木目の温もりを感じる内装だった。


 その奥には簡易な応接セットが用意してある。

 店の奥は住居になっているのか、女の子はそこからお茶を持って出てきた。


「そんなことまで……すみません」


「運動後なんですから、ご遠慮なく……もちろん飲んだからって買わなきゃいけないことないですから、ご安心ください。町へようこそ、のつもりですので」


 冗談めかす様子から、落ち着いて見えるがその実人なつっこい女の子なんだな、と微笑む。


 椅子に腰掛けお茶を一口飲むと、さっきまでの疲れがどっと出た。


 ふと見上げた先の壁面に吊るされていたブラウスに目がいった。

 フェミニンなレースとボウタイが可愛い白ブラウス。


 いわゆる“男ウケ”するブラウスだと思う。

 清楚なイメージを植え付けられそうな白さ。


――つまりは、いつも着ている類の洋服だ。



『お前はこういう女らしい服が一番似合うんだからな』



 そう彼がいつも評価するのだから、きっと私にはフェミニンな洋服が似合うんだろう。


 彼とショッピングする時はもちろん、自分一人の時でさえも、私は進んでフェミニン系の服を買うことを意識した。


ーー彼好みの私になれるのなら。


 本気でそう信じて。


「……気になる服がありましたか?」


 ずっと壁面の一点を見つめていたからか、店員の女の子が問いかけた。


「あ、あの……白のブラウスが気になってしまって」


 ある意味これは習慣なのかもしれない。

 服屋へ入ったら彼の好き好む服を見つけることが。


「ではお取りします」


 静かに壁面から取り外して手渡してくれる。


「鏡で合わせてみてもいいですか? 汗をかいているので、さすがに試着するわけにも」

「試着されても構いませんよ。もし気になるようでしたら、汗ふきシートもありますし」


 さすが、用意周到だ。


 というわけでさくっと汗を拭いたのち、遠慮なく試着することにした。

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