奴隷小屋

 眼を覚ますと薄暗い部屋にいた。


「……ここはどこだ?」


「ここは奴隷小屋だよ」


 腹部の痛みを抱えつつ声がした方向に身体を起こしてみると、そこには美しい少女が体育座りをしていた。


 少女の肌は白く透き通っており薄暗いこの空間でもそれがはっきりと認識できる。

 金色の髪はポニーテイルになっており揺れるたびに暗闇でも輝いて見えた。

 元の世界では見たことない美少女だった。


「君は誰?」


「私はリザ。よろしくね!」


 リザと名乗る可憐な小女は笑顔で右腕を伸ばして握手を求めてくる。


「オレはまもり。こちらこそよろしく」


 リザの差し出してきた右手をオレも右手で優しく握る。


「これで私たちは友達だね!」


「それは光栄だな」


 異世界での初めての友達は笑顔がまぶしい快活な美少女になった。

 この世界で自分を知っている者が一人もいないのは寂しいもので、この少女との出会いはオレにとってとても嬉しく感じる。


「ところで、ここが奴隷小屋ってどういうこと?」


「見ての通りここは奴隷小屋の牢屋。そして私たちは奴隷ってわけ」


 リザはそういうと自分の首元を指さして笑った。

 その首に可憐な少女には似合わない無骨な錠がはめられている。


 周囲を見回してみるとリザと同じように手足や首に錠がはめられている人たちが何人もいる。

 

 オレも自分の身体を確認してみたところ、彼らと全く同じ手錠や足かせをはめられている。


「オレは奴隷になったのか?」


「覚えてないの?」


「まったく身に覚えがないんだが」


「ここに入るときは気絶していたからね」


「それじゃあ覚えていないわけだ」


「ここに入るまでのことは覚えていなくても、奴隷商人に捕まったことは覚えていないの?」


「……捕まったことは覚えていないかな」


 確か最後の記憶は


「モンスターと戦って気絶したところまでは覚えてる」


 痛む腹部を撫でながら記憶を呼び起こしていく。


「そのときに捕まったんだね」


「多分そうらしい。……しかし、オレなんかを捕らえて何の意味があるんだ?」


 オレの住んでいた国には奴隷制度などなく、当然奴隷についてはあまり明るくない。


「若い男は労働力として買われるのが基本だけど、マモリの場合はちょっと違うかな」


「違う?それはオレが特別ということか?」


 異世界転生をしてきたオレは確かに特別な存在だ。

 しかし、この世界の住人がそれを知っているとは思えない。


「特別というより……変?」


「傷つくんだが」


 友達になった少女にいきなり罵倒されるとは思わなかった。


「ごめんごめん!マモリが変じゃなくて、変わった格好をしているから」


 リザは両手を合わせながら冗談めかしたような笑顔で謝ってくる。

 その笑顔を見たらなんでも許してしまいそうになるほどの可愛らしい笑顔だ。


「変わった格好?」


「その服とか」


 リザは興味深そうにオレの着ている制服を指さす。


 制服は高校のブレザー。足元はローファーというどこにでもいる高校生スタイル。


 元いた世界では普通だけど、この世界では普通ではないらしい。

 リザの服や他の人たちの服を観ても制服が浮いているのが一目でわかるくらいには普通じゃない。


「変わった服だね。どこで買ったの?」


「オレの故郷の服さ。民族衣装みたいなものだな」


「そうなんだ。出身はどこ?」


「今では絶対に帰れない場所かな」


 転生者だという情報を与えたくないため回答を濁すことにした。


「何それ?」


 リザはおかしそうに笑う。


 屈託のない笑みが牢屋の暗くジメジメした雰囲気を和らげているように感じる。


 先ほどの笑顔もそうだが彼女の笑顔にはなんだか不思議な魅力を感じる。


「そういうリザはどこ出身なんだ?」


「私?私はこの街の出身かな」


「……?」


「言ってなかった?この奴隷小屋は私の出身地『ラース』の街にあるんだよ」

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