「君も自分の罪が多少なりともわかってきたはずだ」


 オレは生きながらの罪人だったのかというのか。

 今までの人生は何だったのだろう。


「だが、まだ足りない」


「オレは自分の罪を理解しました。もう十分でしょ!」


 これ以上は受け入れられないというように声を荒げてしまう。


「君はまだ罪を分かっただけ、理解はしていない」


 理解していない?

 どういうことだ?

 現にオレは自分の罪を認めて苦しんでいる。

 やりきれない感情を抱えている。


「君に罪を理解させるために罰を与える」


「……罰?」


 死人に罰なんて地獄落ちしか考えられない。

 舌を引っこ抜かれて地獄の業火に焼かれろというのか。


「君の罪に対する罰は異世界転移だ」


「……は?」


 異世界転移?

 それはむしろご褒美なのでは?


「君はこれから異世界に転移してもらう」


「……それが罰ですか?」


「むしろご褒美に思えるか?そんなものは君の性格で異世界を生き抜いてから判断してもらおう」


 異世界は地獄よりもきついのか?

 そんなはずはないと思うが。

 少なくともオレの知っている異世界転移は大抵の場合、みんな幸せになっている。


「異世界転移といっても容姿が変わったり性格が変わったりはしない。それでは罪にならないからな。君は今のままで異世界に行ってもらう」


 それは別に構わないが、本当に罰なのか?


「君には罪を理解してもらうために罰を与える。だが、私も鬼ではない。初期装備ぐらいは整えておいてやろう。衣服はそのままでいいとして、武器はこの杖をやろう」


 目の前に自分の身の丈と同じぐらい装飾が施された杖が出現する。

 手に取ってみると重さはそれほどなく振り回すことも可能のようだ。


「あとはカードだ」


 学生証と同じ大きさのカードが目の前に現れる。


「カード?」


「このカードは君の個人情報が書かれている。名前・性別・職業・使える魔術など

だ」


 学生証や運転免許証のようなものか。


 手に取って確認してみるとそこにはこう書かれている。


 ―名前・護(マモリ)

 ―性別・男

 ―職業・魔術師


 魔術の欄に触れてみると使える魔術が一覧になって表示された。

 そこには回復魔法『ヒール』とだけ書かれていた。


「なんで魔術師なんですか?」


「不服か?」


「不服というより理由が聞きたいのですが」


 罪を与えるなら魔術師でなくてもいいはずだ。

 剣士とか重戦士とか盗賊とか色々あるはずだ。


 あと魔術師ってなんだ?

 魔法使いとは何が違うんだ?


「なぜ魔術師なのか?その答えはいずれ理解できる」


 それを理解するのも罰の一種なのだろう。


「さて、それではそろそろ異世界転移の時間だ。あんまりここに長居させても罰にならないからな」


 神様がそう伝えると自分の身体が光りだした。

 ピカッと光ったかと思えば今度は目の前が真っ白になる。

 凄いまぶしさで思わず目を瞑るとだんだんと意識が遠ざかっていく。


「哀れな罪人よ異世界にて自分の罪を悔い改めなさい」

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