第20話 大興奮
「うぅぅ……どぼじでごんなごどに……」
右手に頭、左手に身体を持って真昼がぐずっている。
火縄銃を持ったナイスバディの魔法少女は、大人気アニメ発狂少女ドグラマギカに登場するミミさんだ。
未熟な主人公を導く頼れるお姉さん役として登場し、志半ばで首をチョンパされ退場した。
衝撃的なシーンに、首が飛ぶ事をミミると呼ぶミームが広まった程だ。
「あちゃ。まぁ、ある意味原作再現って事で……。ドンマイだな……」
「上手い事言ってる場合じゃないよ!? このフィギュアお気に入りだったのに……ボンドでくっつかないかな……」
「それくらいじゃ後が残るだろ。パテで繋いでも同じ色を作るのは難しいし……」
可愛い彼女の泣き顔なんか見たくない。
夜一は必死に考えた。
「そうだ! 包帯を巻いて隠すってのはどうだ? 八話の悪夢に出てきたミミさんの再現って事にしてさ」
「いいねそれ! 夜一君天才じゃん!」
「まぁな」
「いぇ~い!」
右手を差し出すと真昼はノリノリでハイタッチをキメてきた。
そういう所にはギャルの片鱗を感じる。
と、真昼は思い出したようにもじもじして聞いてくる。
「……えっと、その。騙すつもりはなかったんだけど……。この通り、ギャルなのは見た目だけで、中身はめっちゃオタクと言いますか……」
「だから気にすんなって。俺も気にしてないし、むしろ嬉しいし。それとも、俺もオタクな事隠しててごめんって謝った方がいいか?」
「そ、そんな事ないよ!? あたしは夜一君がオタクで嬉しいし!」
「ならいいだろ?」
「そうだけど……」
ちらちらと真昼が本棚を見る。
「こんなに沢山漫画持ってる彼女嫌じゃない?」
「良い事だろ。知ってる漫画で盛り上がれるし、読みたかった漫画も沢山あるし。知らない漫画も気になるな。オススメとかあるか?」
それを聞いて、真昼はぱぁ~! っと笑顔になった。
「あるある! ゴールデン
笑ったり焦ったり興奮したりしながら、早口で真昼がプレゼンする。
「残念。そいつは俺も読んでる。てか真昼、俺のオタク力を舐めすぎだろ? 俺にすすめるならもっとマイナーな奴じゃないと」
それを聞いて、真昼はますます笑顔になった。
「流石夜一君! じゃあ、ザ・ファーブルは?」
「実写もよかったよな?」
ニヤリと笑う。
ファーブルの異名を持つ昆虫学者が活躍するサスペンス漫画だ。
「超よかった! 漫画の実写はイマイチなのが多いけど、ファーブルは現代物だから自然だったし、岡山君の演技が超よかったよね!」
「アイドルなのに演技上手いよな岡山君。アクションも出来るし、岡山君の出てる映画に外れなしだ」
「うんうん!」
嬉しそうに真昼が激しく同意する。
と、また不安そうに棚を見て聞いてくる。
「……じゃあ、フィギュアは?」
「フィギュアなんか俺だって集めてるっての」
「……でも、女の子が美少女フィギュア集めてたら変じゃない?」
「女の子が可愛いお人形集めるのは普通だろ。むしろ、俺みたいなのが美少女フィギュア集めてる方がキモイって」
まぁ、夜一はかっこいい系のフィギュアがメインなので、美少女フィギュアはあまり持っていないのだが。
ここでそれを言うのは野暮だろう。
男の子がかっこいいフィギュアに憧れるたり集めたくなるように、女の子が可愛いフィギュアに憧れたり集めるのは普通だと思う。
というか、そもそも他人の趣味に口出しする気はない。
仮に真昼が鉄オタだって夜一は気にしないつもりだ。
その時は一緒に電車に乗ってデートするだけである。
「た、確かに……。いや、夜一君が美少女フィギュア集めてたらキモイって事じゃないからね!? 可愛いは正義だし! エッチなフィギュアはみんな大好きだもん!」
「まぁ、そうだな」
そこまでは言ってないが。
苦笑いで同意しておく。
すると今度は、真昼の視線が物置から溢れ出した雪崩に向かった。
そして恥ずかしそうにもじもじする。
念のため、夜一は取り乱さないように身構えた。
真昼は気にしぃだから、下手なリアクションを取ったら傷つくかもしれない。
どんな趣味だろうがクールに受け止めてみせる。
そんな覚悟で言葉を待った。
真昼も覚悟を決めたのか、緊張した面持ちで聞いてきた。
「……じゃあ、コスプレは?」
夜一の目が点になった。
「……真昼、コスプレしてんのか!?」
そんなの、オタク男子なら興奮するに決まっている。
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