第52話これで本当の仲間に……


 ミスラちゃん、エスちゃん、リルフちゃん。三人の竜の子たちはフィリムさんと真正面から向かい合う。その誠意に無礼を返すべからずとフィリムさんも真正面からそれに向き合う。やはりフィリムさんも三人の竜の女の子の存在を尊重し、その意志を認めている、と分かる。先程の私の正体も海のような広い度量で受け止めてくれたことと言い、この女戦士には敵わないな、と思わされる。


「フィリムお姉ちゃん」

「わたしたちは」

「竜です」


 だからこそ、竜の女の子たちは躊躇わず言い放った。自らの正体を。これまで秘匿し続けてきたことを。フィリムさんになら話しても大丈夫という信頼があったのだろう。フィリムさんが私たちを信頼し、私がフィリムさんや竜の子たちを信頼しているように、竜の子たちもフィリムさんを信頼している。


「ほぅ」


 これには流石にフィリムさんもわずかに目を見開く。若干の動揺が感じ取れた。それも仕方がない。伝説でしか知らない幻想の存在、竜。その子供たちが目の前にいるというのだから。ある意味、存在が実在することは分かっており、堂々と人々の前に姿を現し続けてきた聖女よりも驚くべき正体であろう。


「まぁ、これまでのことからただの人間ではないことは察しが付いていたが……」


 それでも、驚いた、と言うようにフィリムさんは告げる。人間ではない。それはそうだろう。彼女らの幼さと信頼ゆえの無警戒な言動もそうだが、この幼い外見で魔物相手に戦える身体能力はただの人間の子供だとは思えないものがある。特にフィリムさんのような歴戦の戦士の目にはそう映ったことだろう。


「それでもまさか竜とはな。これは予想外だ」

「悪い」

「ごめんなさい」

「申し訳ありません……」

「いや、謝ることはないさ。それなら隠すのも当然だ。アルメもな」


 驚いたのは事実だろうが、すぐにフィリムさんは笑みを浮かべると私の方にも視線を向ける。私が元・聖女であることを隠していたこと、そして、竜の子たちの正体も知りつつ隠していたこと。二重の意味が込められているのだろうが、気にするな、と瞳で語るフィリムさんのやさしさに思わず息を呑む。


「すみません、フィリムさん。私は……」

「謝ることはないと言っているだろうに。難義な性格だな、アルメは」


 それでもやはり謝罪の意を表さずにいられない私にフィリムさんは困ったような笑みを見せた。


「それがお前たちの事情ということだろう? いや、無遠慮に踏み込んだこちらが謝るべき場面だな、ここは。悪かった。言っていた役目というのも無理に言う必要は……」

「いや、言わせてくれ、フィリムお姉ちゃん」


 逆にフィリムさんが謝罪し、追及を取りやめるとまで言ったが、ミスラちゃんがそれを否定する。


「なかまとして、しってほしい」

「そうですわね」


 エスちゃんとリルフちゃんもミスラちゃんと同じ意見のようだ。


「元・聖女と竜の子たちに仲間と認めてもらえるのは光栄だよ」


 皮肉で言っているようにも聞こえる言葉だが、フィリムさんの場合、本心だろう。


「ミスラたちは災いを防ぐために人の世に、このアルカコス王国にやってきたんだ」

「そう。ちかいうちにこの国に厄災がおこる」

「それを防ぐのが我々に課せられた役目です」


 竜の子たちの言葉にフィリムさんは少し考え込む様子を見せる。


「……災い、厄災か。まぁ、既に起こっているようなものだがな。アルメが聖女の座を降り、次の聖女。あのミスティアとかいう聖女に代替わりしてから魔物たちが人里を襲うようになったし、このケープの村のような不可解な現象も……」

「すみません、フィリムさん。私が聖女の座を追放されたりしなければ……」

「お前が謝る必要はないだろう。やはり難義な性格だな。いや、これは私の言い方が悪かったか」


 思わず再びの謝罪をしてしまった私にフィリムさんは困った顔になるが、これは本当のことだ。私が奇跡魔法を失わなければ。聖女の座を追われたりしなければ。思い上がりかもしれないが、今のアルカコス王国の問題は防げたかもしれない。それを考えれば罪の意識と責任感に圧し潰されそうになるが、今は後ろ向きになって立ち止まるより、前を向いて進むべきだ。魔物が人里を襲うようになったのなら魔物を退治し、人々を守り、このケープの村のような怪現象も解決できるように努めよう。


「ミスラたちが言う厄災とは先程、アルメの呼び出した精霊シフルが言っていたことと関係がある、と?」

「おそらくはそうでしょう。このタイミングで無関係とは思えません」

「……そうだな。私もそう推測する」


 頷いた私にフィリムさんも頷きを返す。


「ギルドマスターに相談する必要がある……いや、あの人のことだからもう承知かもしれないな」

「そうですね。ですが……」

「分かっている。対策は打つ。そのために私も全面的にお前たちに協力する」

「ありがとうございます」


 自分たちは小さくない隠し事をしていたのにこう言ってくれるフィリムさんには感謝しかない。


「まぁ、今はケープの村に戻ろう。村人たちが救世主のお前を待っているさ」


 そう言って笑うフィリムさんであった。

 この瞬間、私たちは本当の意味で仲間になれたのだと、感じた。


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